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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
4章
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4-6


 大陸全土を巻き込んだこの戦いは後に『諸王国連合の乱』と呼ばれる。

 しかし、その実態は帝国の第三次拡張戦争だった。

 先に攻め込んできたのは諸王国連合の方だったが、帝国の反撃によって、結果的に帝国の領土が増える事になった。

 かつて、この大陸には無数の国が乱立していた。

 その中から頭角を現したある一国が第一次、第二次の拡張戦争を経て、帝国へと成長していった。

 その過程で多くの国を滅亡させ、吸収して来た。

 それを悪い事だとも良い事だともは思わない。

 歴史の必然だったという解釈が一般的だ。

 小国が乱立する戦国時代に在っては、強くならなければ他国に攻められ滅ぶ以外なかったのだ。

 そして、強国になると他国同士の紛争の調停をしなければいけない事も増える。

 その調停に於いても中立である事は稀だ。

 どうしても帝国に近い国の味方をするのは必然であり、そうなると、不利な裁定を受けた国は帝国に対して恨みを持つ。

 それだけならまだ良いが、味方をした国の中にも帝国に依存する事に危機感を持つ者も出て来る。

 そう言った積み重ねが何時しか帝国に対する包囲網を形成し、一国では帝国に対抗できない国々が連合を組んで帝国に攻め込んだのだ。

 名目は帝国に併合吸収された王国の解放だった。

 だが、それは大きなお世話だったろう。

 ここ五十年で併合された国の王族は帝国貴族としてそのまま領地を安堵されている。

 今更再独立しても、独立した国家運営の費用を賄うのが難しい。

 帝国の一部になる事によって、莫大な軍事費を節約できているからだ。

 一国で周辺諸国に対抗できる軍を維持するより、戦力のほんの一部を分担するだけで、強大な帝国軍に守って貰えるのだから、彼等にとってはどちらが得かは自明である。

 また、大昔に滅ぼされた国の王族は処断されたか、逃亡して行方も分からなくなっているのだから、再興する人間も居ない。

 どこかから子孫を連れて来たとしても、王だけで国家運営は出来ない。

 何処かで隠れ暮らしていたとしても、有力な家臣団が残っている訳もない。

 ともかく、諸王国連合のお題目は絵空事である。

 それでも、日々強大になる帝国が彼等には脅威だったのだろう。

 ある日、帝国はほぼ全方位からの攻撃を受けた。

 中でも、ここ、北部高原地帯は諸王国連合の主力部隊が侵攻して来た。

 当初、帝国軍は劣勢だったが、この時にはレオンハルト皇子の率いる帝都近衛師団の援軍もあって、我々は反撃に撃って出ている最中だった。


「みんな!今日は良く戦ってくれた!存分に飲んで食べてくれ!」

 レオンハルト皇子の音頭で、皆が乾杯する。

 戦闘が終わり、その日の夜。

 野営地で酒盛りが始まる。

 今日の戦いは我々の勝利だった。

「どうした、セーラ殿、飲まないのかい?」

 各所に挨拶周りをして来た皇子殿下が、私の所に来て、そう言う。

「敵のエースだった『疾風のセルゲイ』を撃破した君が今日の最大の功労者だろう?」

「酒はあまり飲み慣れていないので・・・」

 私はそう答える。

 祝いの席等ではたまに飲むことはあるが、まだ美味しいとは思えない。

「そう言えば、セーラ殿は騎士学校を卒業したばかりだったな、何か別のモノを・・・」

「セーラ様。食事を貰ってきました!」

 皇子様がお付きの執事に何か言う前に、メイド服姿のミラが炊き出し所からパンとスープを持って来てくれる。

「ありがとう。お前も休んで食事をしてくれ」

 そう言うと、彼女は私の隣に座り、自分の分の食事を食べ始める。

「ああ、私も隣に良いかな?」

 ミラの反対側を指して、皇子が聞いて来る。

「構いませんが、向こうには行かなくて宜しいのですか?」

 私はそう言う。

 ここはマルスハイト辺境伯配下の人間達が集まっていて、少し離れた所に皇子配下の近衛隊の人達がかたまっている。

 正直、ここは田舎男爵とその縁者が多く、皆大声で話しながら食事マナーも無く飲み食いしている。

 お上品な皇子様には耐えられないかもしれない。

「いいさ、君と少し話したい」

 そう言って、私の隣の地面に座る。

 お付きの執事がグラスに酒を注いで彼に渡す。

「残りは皆に振舞ってくれ」

 大振りな酒瓶にまだたくさん残っている高級そうな酒を指して、皇子様はそう言う。

 執事は一礼して、私の同僚達の方に酒を持って行く。

 田舎者達が歓声を上げる。

「先ずは、ご苦労だった」

 私の方にグラスを掲げて、皇子はそう言う。

 酒を持っていない私は、スープの入った安物の木椀を掲げるしかない。

 皇子は強めの酒をちびりと飲む。

 彼は確か私より五つくらい年上のはずだった。

「例の件なら断ったはずだが?」

 私がそう言う。

「ああ、その件はもう気にしないでくれ」

 皇子は頭を掻いてそう言う。

 実は先日、皇子からプロポーズを受けた。

 正式なものではなく、戦場でしかも冗談めかして言われたので、即刻断った。

 皇子には既に正妻も子供もいる。

 更にはもうすぐ侯爵家から第二婦人を迎えるという噂もある。

 私の様な田舎男爵の娘を相手にするなど酔狂が過ぎると言うものだ。

「こうして戦場で美味い酒が飲めるのも、補給部隊のお陰なのだが、マリオン辺境区の方ではそれがあまり上手く行っていない様なのだ・・・」

 皇子がグラスの酒を揺らしながら、話し出す。

「例の盗賊団の話か?」

「そうだ。その盗賊団、一般の住民は襲わずに、補給物資を運んでいる軍の輜重隊だけを襲っているらしい。それも帝国軍だけではなく、敵軍の部隊も襲っているという話だ」

「軍の輜重隊なら警備も厳重だろう?」

「ああ、だが、その盗賊団は精霊甲冑を持っているらしい。これが異常に強いという話だ」

「ふむ、それは放っておけないな」

 私は頷く。

 諸王国連合との戦線はここだけではなく、マリオン辺境区にも伸びている。

 ここほど敵戦力は多くないと聞くが、だからと言って戦線が破られるのは不味い。

 戦線の維持には補給部隊は必須である。

「今日の戦闘で、マルスハイトに於いての帝国軍の優位は決定的になった。幾らかここから戦力を廻しても問題は無いと思う。そこで、君達に行ってもらいたいのだが?」

 皇子様がそう言ってくる。


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