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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
4章
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36/44

4-5


 皇子殿下の精霊甲冑アーク・クラウドの力を借りて、しばしの間、私は空を飛ぶ。

 普通に走るには不向きな湿地帯で、少しでも距離を稼ぐには有難い。

 下手な操縦者ならそのまま地面に突き刺さって、行動不能になるところだが、私は慎重に機体を制御して着地し、勢いを殺さぬまま走る。

 地面を踏むときに、足の裏に魔法の力場を発生させて足が沈み込まない様にする。

 この力場は常に最大出力で発生させると、左右の力場が干渉してかえって走り辛くなるので、地面を踏むときだけ最大出力になる様に調整しなければいけない。

 これを習得するのには、苦労した覚えがある。

 湿地帯を走り抜け、元の場所に戻る。

 疾風のセルゲイと名乗る敵の精霊甲冑を相手に、ミラとロルフが戦っていた。

 あの固有魔法は短期間に連続では使えないのか、通常戦闘をしている。

 それでも、二対一で互角なのだから、敵の技能と機体性能は高い。

 私が少し前まで乗っていたバロン・ルージュ六号機が胸に大穴を開けて倒れている。

 製造元に大急ぎで建造を依頼した機体だから、調整不足だった事は否めない。

「なんだ!?また同じ精霊甲冑か、いったい何機いるんだ!?」

 セルゲイが悪態を吐く。

 私達のバロン・ルージュは彼の物のような特注機とは違い、量産機だ。

 尖った性能も固有魔法も持ってはいないが、その分一機当たりの建造コストは安価だ。

 とは言え、一介の男爵家では六機揃えるのがやっとだった。

 二号機は先日の戦闘で父を乗せ大破してしまっているので、残り五機だ。

 今倒れている六号機は操縦席は破壊されているが、精霊コアは無事そうなので、後で修理して使うつもりである。

 修理にも時間と費用は掛かるが、新規に建造するよりは安いだろう。

 我が男爵家の操縦者はここに居る三人で、精霊甲冑は五機。

 二機は予備として置いておいて、今回の様に使う。

 無茶な運用方法だけど、安い量産機の使い方としては理があると思う。

 この戦争が終わるまで何期残っているかは疑問ではは有るけど。

「まあ、良い!所詮量産機だ!」

 クールタイムが過ぎたのか、セルゲイは再び固有魔法を発動させようとする。

疾風突撃ウインド・チャージ!!」

 攻撃目標は再び私。

 ロルフのバロン・ルージュを狙うふりをしているが、二度目ならそんなフェイントは見抜ける。

 私を狙う理由は、私を私ではなく新手だと思い込んでいるから。

 普通の場合、精霊甲冑は各騎士専用にオーダーメイドされていて、その上高価である為、予備機が有るとかは思い至らない。

 ミラとロルフにはさっきの攻撃を見られているから、同じ攻撃は通じ難いと考えるのが普通だ。

 相手を誤認させる為、私は今回、声を出していない。

 前回は右にカーブしながら突撃して来たが、今回は左曲りで迫って来る。

 一応工夫はしている様だが、工夫が浅い。

 私は刃に魔法の光を宿した自身の槍を構えて待ち受ける。

 私のバロン・ルージュに焦りの色が見えない事に、敵は違和感を感じた様だ。

 カーブしながら迫るセルゲイの精霊甲冑がこちらに直撃するコースを急遽変更しようとする。

 しかし、この固有魔法、風の魔法によって圧倒的な速度を得ることは出来るが、最初に設定した軌道を変えるのは難しいらしい。

 敵は僅かに私の精霊甲冑から離れた場所を通り過ぎようとするが、その軌道に槍を突き出す。

 足元を狙う。

 槍の攻撃魔法と敵の防御魔法がぶつかり、火花を散らす。

 やはり向こうの方が高級機らしく、装甲を切断するには至らない。

 しかし、高速で移動しているところに、足払いのような状態になったので、バランスを崩した敵精霊甲冑はつんのめって、地面をゴロゴロと転がる。

「討ち取った!」

 追い掛けたミラのバロン・ルージュが地面に転がったセルゲイの精霊甲冑の面に剣を突き刺す。

 頭部が破壊され、封印されていた精霊が解放されて、甲冑は動かなくなる。

「やりました!セーラ様!」

 ミラの喜びの声が聞こえる。

「良くやった」

 私はねぎらいの言葉を掛ける。

 倒れた精霊甲冑の胸部装甲が爆発と共に開いた。

 精霊とは別系統で組み込まれていた爆発魔法が発動して、操縦席を守る装甲板が強制排除されたのだ。

「やれやれ、負けたか・・・」

 貴族向けの装飾の多い派手な軍服を着た中年男が出て来る。

「ロルフ!騎士道精神!」

 手にした槍を振り上げて近付こうとするうちの執事に、警告する様に私はそう言い放つ。

 そうしなければ、生身とは言え主人の仇であるこの男を彼は許さなかっただろう。

「捕虜として妥当な待遇を求める」

 抵抗の意志が無い事を示す様に両手を上げて、セルゲイはそう言う。

「敗者に追い打ちをかけるつもりは無い。帝国男爵カーク・マクディアスの後継者セーラの名に於いて約束する」

 私はそう応える。

 私の言葉に、ロルフは渋々と言った感じで武器を格納魔法に仕舞う。

「それにしても、いっぱい食わされたな。緊急脱出用転送魔法エマージェンシー・エスケープか?」

 セルゲイがそう言う。

 量産機で固有魔法を持たないバロン・ルージュで固有魔法を持つ上位の機体に確実に勝つ為には必要な戦法だ。

 一度、相手の固有魔法を受けてから、その対策を立てて再戦する。

 これが、当主を亡くして後の無い我が男爵家に出来る最善の戦術であった。

 大抵の固有魔法は一発芸だ。

 一度見れば、対処方法の一つくらい見出せるのだ。

 この戦術を使って、一時劣勢だった戦線を押し返すことが出来た。

 それと、生き残ったマルスハイト辺境伯配下の騎士達を母が纏め上げたのも大きい。

 一応、先頭で戦っている私が旗印の様になっているが、母の戦術があってこそ諸王国連合の侵攻をくい止めることが出来ている。


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