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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
4章
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34/44

4-3


 授業時間の半分くらいを過ぎたところで、お母様と皇子殿下は教室を出て行った。

 多分、イザーク様やイリア様の居るA組の方へ参観に行くのだろう。

 教室の後ろの扉が閉まると、クラス全体に張り詰めていた緊張感が緩む。

 私もほっとする。

 皇子の質問に答えた時にぶっきらぼうになってしまっていたことを後悔する。

 緊張して顔が強張るのだ。

 偉い人の前に出ると、どうしてもそうなってしまう。

 今は男爵令嬢なんて立場だけど、元はただの庶民なのだから仕方ないじゃないか。

 それこそ、母様の養子になる前はこの国のほぼ一番に偉い人に会うなんて考えた事も無かっただろう。

 皇子殿下は気にしていなかったみたいだから、良かった。

 と言うか、お母様が殿下とあんなにも親しかったとは知らなかった。

「素敵なお母様ね」

 隣の席のウェンディがそう言ってくる。

「う、うん」

 私は曖昧に頷く。

 ウェンディは、この前の校外活動で、私、と言うか、正体不明の精霊甲冑に助けられてから少し変だ。



 父様が私達のクラスに来たのは一時間目の授業の後半を過ぎてからだった。

 隣には男装の麗人セーラ・マクディアスが居る。

 どうやら、先にC組の方を見て来たらしかった。

 二人が仲良く立っているところを見て、私、イリアには何とも言えないもやもやした気持ちが沸き上がる。

 父様が母様たち以外の女性とイチャイチャしているのが嫌と言う訳では無い。

 皇帝の血族であれば、一夫多妻も普通だ。

 父様は私の母様とカーラお母様の二人だけだけど、父様の弟、叔父上は五人の妻を持っている。

 それが普通だと分かっている。

 私と兄様を差し置いて、C組のアイラさんの方を見に行ったのが不満なのかもしれない。

 マクディアス男爵ではなく、アイラさんに対してジェラシーを感じているのか?

 そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。

 父様の隣にマクディアス男爵が立っている事にクラスメイト達、特に女子がざわついていた。

 セーラ・マクディアスは国民に、特に一部の女性たちに人気がある。

 実は私も彼女に憧れている。

 あまり表立って言っていないのは、熱に浮かされた様な一部の女性達と一緒だと思われたくないからだ。

 その性癖は一旦脇に置いておいて、私が憧れている理由は、彼女が女性でありながら男性に頼らずにしっかりと自立しているからだ。

 私は皇帝の孫であるが、女子だ。

 私には姉が居る。

 異母姉で少し年も離れているが、仲は悪くなかった。

 その姉が去年、外国の王族に嫁いで行った。

 政略結婚だが、それが悪いとは思わない。

 お相手の方も良い人で、皆に祝福され、姉様も幸せそうだった。

 ただ、自分だけは少し腑に落ちないところが有った。

 自分もいずれそうなるのかと思ったが、そんな未来の自分を想像できない。

 そこで思い出したのが、セーラ・マクディアスの存在だった。

 性癖は置いておいて、話に聞くその自由な生き方には憧れる。

 だから、私は帝都騎士学校への進学を望んだ。

 精霊甲冑に乗れば男性との力の差を埋めることが出来ると思ったのだ。

 マクディアス卿の様に活躍すれば、私を束縛する人は居なくなるだろう。

 帝国の姫騎士と呼ばれる未来も悪くない。

 周りの人達はあまり良い顔をしなかったが、基本的に父様は放任主義なので、入学に支障はなかった。

 そのセーラ・マクディアスが目の前に居るのに、何故か胸のもやもやが消えない。

 父様と仲良くしているセーラ・マクディアスに対する嫉妬ではなく、彼女と仲良くする父様に対する嫉妬かと思ったが、そうでもない。

 これは彼女の娘であるアイラ・マクディアスに対する嫉妬だと思い至る。

 アイラさんが実子ではなく養子であることが気に入らないのかもしれない。

 実の娘であれば仕方ないが、養子であるのならそれが自分でも良かったのではないかと考えてしまう。

 その上アイラさんは高名な貴族とかでもなく、庶民の出だとも聞いている。

 身分で差別するのは良くない事だとは分かっている。

 アイラさんの実力は知っているし、騎士の世界は実力が第一だという事も分かる。

 でも、だからこそ、彼女に及ばない自分が不甲斐無い。

 そして、過去二度見たあの正体不明の銀色の精霊甲冑の操縦者の少女も。

 機体性能の高さも有ったが、操縦者の力量もアイラさんに匹敵していただろう。

 セーラ・マクディアス、アイラさん、謎の少女、同じ女性でありながら自分より上の人達がこんなにも居る。

 彼女等に勝てるのは血筋だけだ。

 そして、血筋なんて親から与えられたもので、自分の努力で得た物ではない。

 悶々と考え続けていたら、いつの間にか一時間目の授業が終わっている。

 父様とマクディアス卿は教室から出て行った。

 上級貴族の子供達でも第一皇子である父様の参観には緊張していたのか、姿が見えなくなると教室が騒めきに包まれる。

「あ~、次の精霊甲冑の実技はC組と合同授業になったから」

 教室のドアが開き、リック・バイロンフォード先生がそう言ってくる。

 その件は、今初めて聞いた。

「急な話だな」

 イザーク兄様がそう言った。

 騎士学校のグラウンドは広いが、二クラス分の精霊甲冑を一度に出すのは流石に無理がある。

 それも、B組を飛ばしてC組との合同と言う事は、アイラさんと私達を同時に見たいという父様とセーラ・マクディアス卿の都合である事は容易に想像できる。

「どうした?急に怖い顔をして?」

 私の顔を見た兄様が、ぎょっとしてそう言う。

「え?別にそんな顔なんてしていませんわよ?」

 笑顔で私はそう返す。

 兄様は何も言わなくなった。

 完璧な笑顔だと思っていたけど、もしかしたら目が笑っていなかったかもしれない。


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