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「何で、こんな事になってんの?」
私はバロン・ルージュの操縦席で頭を抱える。
帝都騎士学校のグラウンドにて、私が対峙するのはイリア皇女。
現皇帝の孫でA組のお姫様の乗る飛行型精霊甲冑、サファイア・ラークだ。
「手加減は要りません。全力で戦いましょう、アイラさん!」
私の乗るバロン・ルージュに向かって、彼女は声を掛ける。
授業の一環の模擬戦闘だけど、何故か決闘の様相に成っている。
時間は少し戻って、前日の夕食時。
「なあ、ヴァイン、何でもない日にスターゲイジーパイを出すのは止めないか?」
食卓に出された料理を見て、お母様がそう言う。
スターゲイジーパイは何処かの漁師町で何かの特別な日に作られる料理だと聞いた事が有る。
魚の頭がパイ生地から生えている。
魚料理が苦手な私だけど、このシュールな見た目は笑えて来る。
死んだ魚の目が星を仰ぎ見ている。
「申し訳ありません、ここのところニシンが安いもので。それに、普通のニシンのパイはアイラお嬢様からダメ出しを頂きましたので、見た目を変えてみようかと」
執事服にエプロンを着けたヴァインがそう弁明する。
「いや、見た目じゃなくて味の問題なの!百歩譲って魚のパイでも良いけど、もう少し生臭みを消す工夫とか出来ない?」
私はそう抗議する。
ヴァインは人間ではないので、食事は本来必要としない。
一応何かを食べる事は出来るが、食べなくても問題が無い。
味も分かるそうだけど、分かるだけで、どの味が人間の好みに合うかは分かっていない。
「まあ、我慢できない程不味い訳では無いが、それより魚の頭を見ながらの食事はどうかと思うのだが?」
お母様がそう言う。
どうやら、お母様は味よりも見た目が嫌らしい。
私は逆に料理の見た目とかは気にしない。
そこら辺の違いは母娘と言っても血が繋がっていないからだろうか?
どちらにしてもこの料理には不満がある。
「やはり、ミラを連れて来た方が良いか?」
お母様がそう漏らす。
「・・・でも、お母様はもう少ししたら領地の方に帰るんでしょ?」
私はそう言う。
ミラさんはお母様のお気に入りのメイドさんだ。
お気に入りと言うか、お母様の愛人なのだが。
その人を帝都に呼びつけるとなると、お母様と行き違いになってしまう。
「そうだがな。私は君に美味しいものを食べさせてやると約束した。約束は守りたい」
これは私を養女として引き取った時の約束だろう。
私としては、お腹いっぱい食べられるだけで満足だけど。
「それに、こいつが何かするとは思えないが、一つ屋根の下に見た目若い男と二人きりにするのも外聞が悪いだろう?」
ヴァインを指してそう言う。
私達はヴァインの正体を知っているから何とも思わないけど、確かに知らない人から見られると変に勘ぐったりされるかもしれない。
まあ、同性愛者の養母と居るだけで変な噂は立つのだけど。
「ああ、それから、明日、君の学校に授業参観に行くからな」
スターゲイジーパイの魚の頭を皿の脇に避けながら、お母様がそう言う。
「え?聞いてないです」
急な話にびっくりする。
学校ではそんな話はされていない。
「急に決まったからな。そこしか時間が無かったのだ」
微妙に生臭さの残る魚の身入りパイを口に運びながら、お母様はそう言った。
と言う事は、学校全体の行事としての授業参観ではなくて、お母様だけが個人的に私の様子を見に来るという事だろうか?
そして、今日。
「え~。本日、帝国の第一皇子レオンハルト殿下が本校に視察に参ります。主にA組の授業参観をすると思いますが、廊下ですれ違った時などに無礼の無い様にしてください」
朝のホームルームでリサ先生が連絡事項として、そう注意をする。
あれ?私のお母様以外にも授業参観に来るのだろうか?
レオンハルト殿下と言えばイザーク皇子とイリア皇女のお父さんだ。
その人が来るのなら、私のお母様の件は省略されてもおかしくはない。
「なんか、いきなりだね」
隣の席のウェンディが話し掛けて来る。
「そうだね」
私は返事をするが、自分の親の話をするべきか迷ってしまう。
「おい、アレがそうじゃないか!?」
窓際の男子生徒が、声をあげる。
クラスのみんなが窓際に集まる。
見ると、校門から一台の馬車が入って来るのが見えた。
お母様の使っている軽量なクーペタイプではなく、豪華な装飾がなされた大型の馬車なので多分第一皇子殿下が乗っているのだろう。
校舎の入り口前で停まり、馬車の扉が開き、正装の中年男性が降りて来る。
校長と教頭と担任するクラスを持っていない数人の教師が出迎えている。
入学式の時は来ていなかったらしいから、多分初めて見る。
あの方がイザーク皇子のお父さんだろう。
馬車から降り立った殿下が馬車の中に手を差し伸べる。
その手を取って、もう一人の人が降りて来る。
婦人も来ているのかと思ったが、違った。
「うげ、お母様!?」
皇子のエスコートで降りて来る男装の中年女性の姿を見て、私は思わず変な声を出してしまう。
イザーク皇子やイリア皇女のお母さんではなく、何故かうちの養母だ。
クラスメイト達の注目が私に集まった。




