3-2
「ええと、お断りします」
決闘を申し込んできた二年生の先輩に対して、私は拒否の意思を示した。
先輩達が気勢を削がれて、一瞬目を丸くする。
「なっ、臆しましたか!?アイラ・マクディアス!」
ジャンヌと名乗った先輩が、一転、私を指差し大きな声を出す。
すごい剣幕だけど、予想できた反応なので、怖くは無い。
「はい、臆しました。未熟な一年生ですので、二年生の先輩には叶わないでしょう。なので、不戦敗とさせていただきます」
ちょっと卑怯な手だけど、負けるが勝ちにさせて貰おうと思う。
決闘なんて、上の立場の者が下の立場の者に申し込むのは良くない。
普通に考えて、拒否できない相手に対して、無理強いしている様に周囲の目には見えるだろう。
実態はどうあれ、この構図はメンツを第一とする貴族としては致命的だ。
逆に、入学式の時の決闘は下の立場である私の方から吹っ掛ける事で、相手に断り辛くしている。
「私の負けですので、生徒会選挙には金輪際出馬しません。では、お昼の時間も少なくなってきたので、これで!」
私はそう言って、あっけに捕らわれてる先輩達から逃げる様に教室から出る。
先輩達が決闘の勝者の報酬、と言うか敗者の罰を言わなかった事を良い事に、私はその条件を自分の都合の良い様に決め付けてしまう。
大体、先輩達も生意気な後輩を負かしたいだけであって、勝ったらどうしようなんて考えていなかったと思う。
「良かったの?」
一緒に教室を出たウェンディが聞いて来る。
「うん」
私は簡潔に答える。
「イザーク様も言ってましたけど、やればアイラさんが勝ったのではないですか?」
イライザもそう言ってくる。
「・・・だって、学校のグランド、雨でぐちゃぐちゃになってるじゃない、あんな所で精霊甲冑を動かしたくないし」
私はそう言った。
今日、私達のクラスに精霊甲冑の実技が無くて良かった。
「本当に、雨の日は何もしたくないのね」
ハンナがそう言う。
別にそう言う訳では無い。
農民をしていた時も、収穫期とか忙しい時期は雨が降っても仕事をしなければいけない時は有った。
だからこそ休める時は休むのも大切なのだ。
まあ、今回の決闘はやらなくてもいい事だと思うから、パスした。
貴族のメンツとか有るかもしれないけど、相手は結構上の位みたいだから良しとしよう。
大体、入学して早々、二回も決闘するなんてそんな奴、居る訳がない。
「兄様、二年のクレイトン侯爵令嬢がアイラさんに決闘を申し込んだそうですよ」
学校から私達の住んでいる離宮に帰る馬車の中で、私は友人から聞いた噂話を異母兄に伝えた。
帝都騎士学校は貴族街の端の方にある。
精霊甲冑の実技が在る為、広大な敷地を必要とするので仕方ない事なのだが、王宮からは遠い。
なので、私と兄様は親元を離れ、比較的近い離宮に住んでいる。
「ほう、それで?」
車窓から外を見ながら、そっけない口調で兄様が言う。
一見興味ない様な話しぶりだが、私にはその目を見ればそうでない事が分かる。
「アイラさんは断ったそうです」
「なんだ、少し期待外れだね」
私の答えに兄様が本当に少しだけ、がっかりする。
「これを狙って、アイラさんを推薦したのではないのですか?」
兄様を睨み付けて、私が聞く。
「まさか?例の『銀色の悪魔』の手掛かりが無いからって、アイラ嬢がもう一度決闘をしなければいけない様な状況を作り出そうなんて、そんな事、考えていないよ?」
空とぼけた声色で、そう言う。
「人はそんなに思った通りに動いてはくれませんよ」
私はそう言う。
特にあのアイラさんはそういう人だ。
「分かっているよ。だからこそ面白い」
兄様は不敵に笑う。
また何か、変な事を考えているのだろう。
結果、無用にアイラさんの周りをかき回しているだけになって無いだろうか?
私は溜息を吐く。
窓の外に目をやる。
街に振り続ける雨が気分を下げる。
轍の水を跳ね上げながら、馬車は進んで行く。
「雨、止みませんね」
職員室の窓から外を眺めて、私はそう言った。
私はリサ・レーヴェン。
今年度から、ここ帝都騎士学校の教師として赴任して来た。
生徒たちに舐められていないか、少し不安になる事も有る。
暗い空を見ているとそんな後ろ向きな事も考えてしまう。
「そうですな。この調子で振り続けると少し不味いかも知れない」
少し離れた席のリック・バイロンフォード先生が私の言葉に応える。
彼は担任のクラスは持たず、精霊甲冑の指導教官をしている。
無精髭を生やしていて、生徒の間では強面で通っているらしいけど、実はそんなに歳は取っていない。
「そうですね、こんなに降るとグランドが使えませんものね」
私はそう言う。
小雨程度なら、外での実技も出来るけど、グランドのコンディションが悪い時は座学に切り替える事も有る。
「いや、まあ、それも有りますけどね・・・」
頭を掻きながら、彼はそう言った。




