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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
3章
23/30

3-1


 教室の窓の外は雨模様だった。

 暗い空を見ると気分が沈むのは多くの人がそうだと思う。

「だからって、やる気無くし過ぎじゃない?アイラ」

 私、ウェンディ・マナドは隣の席の友人にそう言う。

「うーん?」

 アイラ・マクディアスは机に突っ伏して、もんにょりしている。

 午前の授業が終わってからこんな感じだ。

 授業中はなんとか起きていたけど、あまりやる気は感じられなかった。

 いつも優等生な彼女とは別人みたいだ。

「天気のせい?」

 後ろの席のハンナが聞いて来る。

「そうみたい」

 私がそう答える。

 今までも、天気によって彼女のやる気が変わっている事はあった。

「なんで?気分でも悪くなるの?」

 イライザも聞いて来る。

「気分は悪くないよ」

 アイラはそう答える。

 確かに、顔色とかが悪い訳では無く、何と言うか、ただ気が緩んでいるみたいだ。

「雨の日はねえ、空の精霊が私達の代わりに畑に水を撒いてくれてるんだ。だから人間は休んでて良いんだよ」

 そんな事を言いだす。

「農民的思考?」

 私はそう言ってしまう。

「まあ、良いか。お昼どうする?学食でまたお蕎麦でも食べる?」

 ハンナがそう言ってくる。

「ああ、蕎麦?蕎麦は当分要らない」

 のったり席から立ち上がりながら、アイラがそう言う。

「え?随分気に入ってた様に思ってたけど?」

 イライザがそう言う。

「それがね、執事のヴァインに学食の蕎麦が美味しかったって言ったら、あいつ大量に蕎麦粉を買って来てね。麺も打てないし、あの独特の美味しいスープの作り方も知らないのによ?お陰で、一昨日からずっとガレットばかり。それも微妙に美味しくないし」

 アイラは急に不機嫌になって、そう言った。

「じゃあ、別のメニューにしましょうか?それとも購買のパンも良いかな?」

 私はそう言う。

 その時、教室のドアが開いた。

「アイラ・マクディアスは居る!?」

 二年生の女子らしき数人が教室に入って来る。




 校章の色から、入って来た女子生徒が二年生だという事は分かった。

 先輩たちは全部で三人居た。

 全員では無いが、何故か先頭に立つ二人の眉が吊り上がっている。

「ええと、私がアイラ・マクディアスですけど・・・」

 なんか嫌な予感がしつつも、私は手を挙げる。

「貴女!生徒会長選挙に立候補したと言うのは本当!?」

 先頭の女子生徒が私に詰め寄って来る。

「え?いえ、立候補なんかしてませんけど・・・」

 戸惑いつつも私は、そう答える。

 先日、イザーク皇子殿下から推薦されそうになったけど、私はきっぱりと断っているし、皇子もそれ以上無理は言ってこなかった。

 私の言葉に、その先輩は少し変な顔をする。

「嘘おっしゃい!、確かに聞きましたわよ!」

 怒りながら聞いて来る。

「ええと、本当ですよ。先日そう言う話は持ち上がりましたけど、アイラさんは断っています」

 ウェンディが私の援護をしてくれる。

「どう言う事ですの?」

 先頭の女子が、後からついて来ていた別の一人に向き直る。

「あれ、ダリアお姉さま?・・・ああ!もしかして昨日私の言った事を勘違いされました?」

 そう言ったのは、注目を集めたその二年生ではなく、私の隣に居たイライザ・ミリオンベルだった。

「え?イライザさんのお姉さん?」

 ハンナ・バーグが二人を見比べて聞く。

「いえ、従姉のお姉様ですけど、先日の件、少し話しまして・・・」

「どう言う事、イライザ?そこのアイラさんがイザーク殿下から生徒会長への推薦を受けたと言っていたでしょう?」

 ダリアと呼ばれた二年生がイライザに聞き返す。

「推薦を受けたと言っただけよ。アイラさんが受諾したとは言っていないわ」

 イライザがそう言う。

 つまり、不完全な伝言ゲームの結果で、こうなっているって事か。

 不用意に話を広めたイライザとそれを聞いて早とちりをしたダリア先輩も悪いと言えば悪いけど、私は別に責めるつもりは無い。

 あの場でのやり取りを聞いていた人は他にもいっぱい居たし、そこから噂が広まるのはどうしようもない事だ。

 とは言え面倒臭い事には代わりない。

 元はと言えば、無茶振りをして来た皇子様が悪い。

 そんな不遜な事を考えてしまう。

「ええと、ダリアお姉さまか、そちらの先輩のどちらかが立候補するんですか?」

 イライザがそう聞く。

「そうよ!この私、ジャンヌ・クレイトンが立候補しますわ!」

 最初に私に詰め寄って来た、先輩がそう答える。

 なるほど、それで、生意気にも一年生のくせに立候補した(と勘違いした)私に文句を言いに来た訳か。

「そうですか。でも、さっき言った様に私は立候補しませんから」

 私はそう言う。

 別に一年生が立候補してはいけないというルールがある訳じゃ無いのだから、誰が立候補しても良いと思うし、それに文句をつけるのはお門違いだ。

 でも、私はその事については何も言わない。

 私は立候補しないし、上級生に意見しても面倒な事になるだけだ。

 入学初日に決闘騒ぎを起こした私の事を狂犬の様に思ってる人が一部に居るけど、私はもっと常識人のつもりだ。

 それに、雨の日は面倒な事はしたくない。

 別に雨が嫌いな訳じゃ無くて、むしろ好きだ。

 何かに急かされる感じがしなくて、ゆったりとした気分になれる。

「それじゃ、私達、お昼を食べに行くところだったんで・・・」

 私はそう言って、教室を出ようとする。

「お待ちなさい!」

 ジャンヌと名乗った先輩とは別の女子生徒が、呼び止める。

「貴女、皇子殿下の推薦を蹴るなんて、不敬ではなくて!?」

 うわっ、めんどくさい。

 結局、生徒会長に立候補してもしなくても、こうなる。

「ええと、確かにイザーク殿下の推薦ですけど、流石に私が生徒会長とか・・・器ではないのでお断りしたというか・・・」

 こめかみの辺りがヒクヒクしそうだったけど、私は弁明する。

「確かに、貴女如きに生徒会長は務まらないでしょうけど、それでも、皇子殿下の推薦なら受けるべきではなくて?」

 先輩がそう言ってくる。

 私に、選挙に出て欲しいのか欲しくないのかどっちなのだろう?

「待って下さい!たとえ上級生でも今の言い方は無いんじゃないですか?こちら、先の大戦の英雄、セーラ・マクディアス様の養女アイラさんですよ!」

 私の代わりに、ウェンディが怒りだした。

「ふん、二十年も前の話でしょう?それに、実の娘でもなくて養女。入学式の時の決闘も何やら有耶無耶になったと聞いていますわ」

「それは、そこのミシェルさんの精霊甲冑が暴走したせいですけど、その前までにストレートでアイラさんが勝っていましたわ!」

 ウェンディが教室の隅に居たミシェルを指差す。

 彼は何か言いたそうだが何も言えない様な微妙な顔をしている。

「はん!所詮、一年生同士のおままごとですわ!」

「あら?その一年生が怖くて、今、選挙に出ない様に圧力を掛けに来た人達が目の前に居る様に見えますが?」

 売り言葉に買い言葉なのだろうか、ウェンディと先輩が言い合う。

「・・・そ、そこまで言うのなら、勝負して差し上げますわ!決闘を申し込みます!」

 先輩が私を指差して叫ぶ。

 え?私が戦うの?

 それで、勝ったら私は生徒会選挙に出れば良いの?出なくて良いの?

 なんか、良く分からない話になって来ている。

 雨の日は何もしたくないんだけど・・・


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