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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
2章
22/30

2-9


 天井のシャンデリアから降る光が食卓を柔らかく照らしている。

 最新の魔法照明ならもっと明るいのだろうが、この位の薄暗さが丁度良いのかも知れない。

 少しばかり歳を取った美女達と同席するのなら尚更だろう。

 ハーレムと言う奴だろうか?

 大陸最大の帝国の第一皇子である私、レオンハルトともなれば、それくらいは許されるだろう。

 だがしかし、世の中はそれ程甘くは無い。

 食卓に着いている女性は三人。

 皆、美女と言って良いだろう。

 うち二人は我が妻であるが、残りの一人はそうではなく、今夜の招待客である。

「セーラ様、あまり食が進んでいらっしゃらないようですが、お口に合いませんでしたか?」

 妻の一人、クラリスが客人であるセーラ・マクディアス男爵に声を掛ける。

「いえ、とても美味しいです。ただ、家に残してきた娘にも食べさせたかったと思ったもので。帝都の家にはあまり料理の上手くない執事しか居ないもので・・・」

 彼女がそう答える。

 妻たちはドレス姿だが、彼女はいつもそうしている様に男装だ。

 古い人間にはその姿に眉を顰めるものも多いが、私は気にしない。

 むしろ私が黙認しているので、口煩い連中も直接彼女には何も言わない。

「それでしたら、娘さんも連れてくれば良かったのでは?イザークとイリアさんの同級生ですよね。うちの子供達も喜びますわよ」

 もう一人の妻、カーラがそう言う。

 幸いな事に、二人の妻同士の仲は良い。

 それ故に、同い年のイザークとイリアは双子の様に育って来た。

 ただ、末娘のイリアがイザークと同じ帝都騎士学校に通うと言い出した時は少し驚いたが。

「お心遣い有難うございます。ただ、娘は庶民の出で御座いますので、こう言った場の作法はまだまだでして・・・それを言いますと、一介の男爵が帝国第一皇子殿下と同席するのも憚られるのですが」

 謙遜してなのか、セーラがそう言う。

「律儀だな。世間ではあれこれ言われているのに」

 私がそう言う。

 あれこれとは、つまり彼女の性癖の事である。

「確かに、私の事を変態だなどどいう輩も居りますが、こう見えて、わきまえた変態ですので」

 彼女は顔色一つ変えずにそう返した。

 そこで、私とセーラは同時に笑い出した。

「身分の事を気にするなら、今すぐにでも辺境伯にしてやるのだがな」

「だからレオン、それは毎回断っているだろう。いい加減しつこいぞ」

 かしこまった雰囲気は他所に追いやって、私達は砕けた言葉遣いになる。

 普通の女とこんな喋り方をすると、妻たちが嫉妬しそうなものだが、セーラに関してはその心配が無いのが良い。

「なんだ、ミレーヌの息子に遠慮しているのか?それなら、君の養女の婿にしてしまえばいい。少し歳の差があるが問題ないだろう?」

 私がそう言う。

 ミレーヌと言うのは前マルスハイト辺境伯の妻で、その息子のシャールがまだ幼い為、辺境伯の席は今空位になっている。

「まあ、お互い嫌い合っている訳では無いし、私が命令すれば娘は従うだろう。だが、それはしたくない。あの子には自由に生きて欲しいんだ」

 セーラがそう言う。

「可愛い養女を男に嫁がせたくないと言う訳では無くて?」

 私は少し意地悪な口調でそう聞く。

「言ったろう?わきまえた変態だと。娘の事は愛しているが、それ故に縛る事はしない」

「なるほど・・・」

 頭を掻いて、私はそれ以上無理は言わない。

「それでは、うちのイザークはどうかしら?同い年なら問題無いのではなくて?」

 カーラがそう言う。

「流石に、皇子様はな・・・私自身は良いと思うが、本人が尻込みするだろう」

 セーラが苦笑いする。

 本当に養女の事を第一に考えて、本人の意思を尊重しているらしい。

「まったく、君らしいな」

 私はそう言った。

 セーラ自身にも若い頃は沢山の縁談は有ったが、全て断って来た。

 彼女は自らの性癖に正直に生き方を貫いている。

 そこが好ましいと思う。

 かく言う私も、一度彼女にプロポーズして玉砕している。

 あれは二十年前、帝国の拡大政策に反発した諸王国連合との戦争で、先々代のマルスハイト辺境伯とその右腕であった先代マクディアス男爵が討ち取られた時だ。

 戦線の崩壊をくい止める為に、第一皇子たる私は近衛隊を率いて、辺境区に赴いた。

 行ってみて驚いたのは、父親を失ったばかりのセーラ・マクディアスが残存兵力を纏め上げ、戦線を逆に押し上げていた事だ。

 平和ボケした近衛隊はものの役に立たず、逆に彼女に助けられたことは一度ではなかった。

 騎士学校を卒業したばかりの娘にだ。

 先陣を切って戦う彼女の事を美しいと思ったのだ。

 その時私は既にカーラとは結婚していたが、第二婦人にどうかと誘ったが、こっぴどくフラれた。

 第一皇子たる私のプロポーズにまったくなびかなかったのだ。

 権力をかさに言う事を聞かせることも考えたが、人として恥ずかしいと思ったので、それは止めた。

 以後、セーラとは友人として付き合っている。

 公私をきちんと分ける彼女の姿勢は人として尊敬できる。

 現在マルスハイト辺境区の運営は彼女が全てを取り仕切っているが、私の知る限り、領地の利益から私腹を肥やす事は全くしていない。

 領地運営の為に忙しく動き回っているのだから、少しくらい役得が有っても良いと思うのだが。

 今日の晩餐会も私との政務の打ち合わせのついでに催されている。

「そう言えば、君も騎士学校の入学式には出席していないのだったな。私も忙しくて出れなかった。・・・妻達は出たがな」

 食事を続けながら、私はそう声を発した。

「お陰で、娘さんの勇姿を拝見しましたわ」

「セーラ様も見たかったのではなくて?」

 カーラとクラリスがそう言う。

「お恥ずかしい限りです」

 セーラが苦笑する。

「来月にはマルスハイトの方に戻ると言っていたが、その前に私と一緒に授業参観にでも行かないか?」

 私はそう提案する。

「宜しいので?」

「君さえ良ければ、私の方から学校に話を通す。時間は君の都合に合わせよう」

 私はそう答える。

 彼女が領地に戻る前になるべく一緒に居たいと思ったのだ。

 別に下心がある訳では無い。

 純粋に友人としてセーラ・マクディアスは好ましい存在だ。

 何よりも、彼女とは女性に対する趣味が合う。

「では、お言葉に甘えましょう」

 彼女はそう答えてくれた。


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