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入学式の日の『銀色の悪魔』に関する調査は早々に暗礁に乗り上げていた。
学校や帝都の警察も調べているけど、そちらの方も進捗は無い。
ましてや、皇帝の孫であるとは言え、一学生である私やイザーク兄様に出来る事は少ない。
私、イリアとしては諦めても良い気分になっていたけど、兄様はまだ興味が尽きていない様だ。
そんな訳で、当日の関係者である、ミシェル・ワイスマンとアイラ・マクディアスにもう一度話を聞こうと放課後にC組に行ったのだが、アイラさんの精霊甲冑の修理が終わって工房の方に行っていると聞いてここまで来た。
あの銀色の精霊甲冑はアイラさんのピンチに駆け付けた様に見える。
関係者ではないかと考えるのは当然だろう。
一番怪しいのは彼女の執事のヴァインさんだ。
彼は丁度その時、観客席から居なくなっていた。
ただ、本人は精霊甲冑には乗れないと言っていたし、精霊甲冑のメダルも持ってはいない。
第一、兄様が見た操縦者は騎士学校の女子生徒だった。
謎のままだが、何かの手掛かりが無いかと聞きに来たのだ。
『銀色の悪魔』は盗賊が使っていたという精霊甲冑だ。
名乗り出て来ないところを見ると、操縦者としては隠しておきたい事だろう。
何処に本人が居るか分からないので、私達が調べている事は気付かせたくはない。
あくまで自然に、世間話でもしながら手掛かりを掴みたい。
その様に打ち合わせをして来た。
それが何故か兄様はアイラさんと模擬戦をする事になり、更には彼女に生徒会選挙に出る様に進めている。
我が兄ながら、何を考えているのか分からない。
面白そうなら何でも良いのだろうか?
「え?ええと、イザーク様が生徒会長に立候補して、私が書記とか?」
アイラさんが兄様に聞く。
「いや、君が会長だ。僕が推薦人になろう」
「そ、そんな、無理です!」
兄様の無茶振りに、アイラさんがワタワタしている。
「ええと、一年生でも会長になれるんですか?」
アイラさんのお友達らしいC組の女子が聞いて来る。
私は小さく溜息を吐く。
「先生から聞いてませんか?生徒会役員の立候補は一年生からでも出来ますわ」
「あ、済みません。生徒会なんて興味が無かったんで、聞き流してました」
私の説明に、その女生徒が謝る。
「でも、選挙に精霊甲冑の操縦は関係ないんじゃ?」
「表向きはそうですね・・・」
「生徒会規則には書いてはいないんだけどね、慣例的にこの学校じゃ選挙で接戦だった場合、得票数が少なかった者が当選者に決闘を申し込んで、結果を逆転させることが出来る」
私の言葉を継いで、兄様が説明する。
「それ故に、精霊甲冑の訓練を始めたばかりの一年生が二年生に勝つ事は難しくてね。例年、一年生の立候補者は稀なのだが、その点、アイラ君なら二年生相手にも引けを取らないと思うのだが、どうかな?」
「え、ええと、何で私なんですか?・・・イザーク様が立候補すれば良いんじゃ?殿下も十分強いと思いますけど。それに、あの大きな馬型の精霊甲冑なら、誰にも負けないとは思います」
アイラさんがそう言う。
確かにその通りだ。
「ああ、確かにアーク・チェンタウロは強いけどね。でも、甲冑の性能差で勝っても、それはそれで面白く無いじゃないか?」
兄様はそう答える。
結局、そこなんだ。
兄様の行動原理は、面白いか面白く無いかだ。
「あの、ごめんなさい。せっかくの推挙ですけど、私なんか生徒会長の器ではないと思います」
申し訳なさそうな声ではあったが、アイラさんがきっぱりと断る。
まあ、そうでしょう。
「そうか、残念だ」
割りとあっさりと、兄様は引き下がった。
「生徒会選挙か、出馬してみるか?」
ミシェルが俺、ジルベールに話し掛けて来る。
「いや、殿下の話からすると、俺ら如きじゃ出ても無駄だろう」
俺はそう答える。
彼には入学前からの取り巻き連中が居て、ガキ大将的な立場だったらしいが、入学式当日の決闘で負けた事によりその連中から少し距離を置かれているらしかった。
それで、俺を含む他のクラスメイトにすり寄っている。
無駄にカッコつけるのを止めるたら良いと思うのだが、敢えて言わない。
まあ、俺としても前の人生でこれくらいの年頃の時は中二病的なものは発症していたし、変にイキがっている彼の事も分からないでもない。
「もう下校時間だし、帰るか」
俺はそう言う。
この学校、貴族の子女が通っている為に、習い事とかはみんな他所でやっているらしく、部活動とかは盛んではない。
「じゃあ、近くに美味い定食屋が在るんだ。奢るから寄ってかないか?」
ポッチャリ体型のミシェルがそう言ってくる。
そんなだから痩せないんだ、と言いたいが、俺は苦笑いして承諾した。
この学校では三年間、基本的にクラス替えは無い。
ならば、クラスメイトとは仲良くしておくべきだ。
前の人生の学生時代ではそんな事考えもしなかったが、二度目の人生だから色々と気をまわすことも出来る。
「ジルベールってさ、なんか死んだ僕の爺さんみたいだ。いや、顔とか全然違うんだけどさ」
ミシェルがいきなりそんな事を言いだした。
「そ、そんなに老けて見えるか?」
俺の声が少し上ずる。
「ああ、悪い。そうじゃなくて、何て言うか雰囲気?同い年にしては落ち着いている様に見えたからさ」
彼がそう言う。
転生者なのを気付かれたかと思い俺は少し焦ったが、そうでも無い様だ。
しかし、元おっさんだったのが言動から漏れていたとしても、爺さんは無いだろう?
いや、よく考えてみると、この世界に転生してからの時間も合わせれば、俺はそれくらいの時間を生きているのか?
その事実に思い当り、俺は落ち込んだ。




