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懸架台の拘束装置を外してもらって、バロン・ルージュを工房から出す。
グラウンドまで行くと、イザーク皇子が教導用精霊甲冑を出して待っていてくれた。
向こうも軽く機体を動かして準備運動と言うか、機体のチェックをしている。
その動きを見ると、結構上手い。
やっぱり、皇帝の孫ともなると、騎士学校に入る前から家庭教師とかに教えて貰っているのだろう。
「って、別に試運転の相手とかして貰う必要も無いんだよな」
私はそう呟く。
交換したのは胸部装甲と、それに付属する内側の映像板くらいで、機体を動かさなくてもチェックは出来る。
それに、皇子様相手に勝ってしまうとなんかマズいかもしれない。
同じC組の男子相手なら決闘も吹っ掛ける私だけど、一応分はわきまえてるつもりだ。
じゃあ、断れば良いだろうと思うかもしれないが、偉い人からの申し出を断るのも難しい。
皇子様の教導用精霊甲冑は魔法付与されていない模擬刀を持っていて、やる気満々だ。
皇子様はそれなりに精霊甲冑の操縦は上手そうだけど、それでも機体性能が同じくらいなら私の方が強いと思う。
別に自惚れとかではない。
私はヴァインと言う対話できる精霊に精霊甲冑の操作方法を教えて貰っている。
もちろん、お母様からもみっちりと特訓を受けているし、同年代では私に勝てる人は居ないだろう。
あの、アーク・チェンタウロとか言うでかいのに乗られたら分からないけど、今はそれではない。
教導用精霊甲冑はバロン・ルージュよりも新しい機体だが、元となっているロイエンタール工廠のD型フレームはバロン・ルージュのB型フレームよりも、コストパフォーマンスに重きを置いている。
つまり同じ量産型だけど、D型の方が性能と量産性のバランスに於いて後者の方を重視しているのだ。
その後の改良で性能は上がっているはずだが、ここ数日間、私も教導機を使っていた感じでは、優劣は殆んど無いと思う。
「まあ、軽くやってみようか?」
皇子様がそう言って、模擬刀を構える。
それに倣って、私も構える。
最初の一撃は皇子様から打って来た。
機体の各関節を上手く連動させて動かし、踏み込みから剣を振り上げ、振り下ろす。
精霊甲冑特有のゆっくりと見える動きだが、それに惑わされてはいけない。
剣先は風を斬るほど速い。
私はバロン・ルージュに頭上に剣を構えさせて、これを受ける。
巨人による斬撃は信じられない程の重さになるが、バロン・ルージュはしっかりと受け止める。
腕だけではなく、全身で衝撃を吸収するのだ。
受け止められたと見ると、皇子様は無理に押さずに剣を引き、返す刀で今度は突きを放ってくる。
今度は受けずに、私はギリギリのところで精霊甲冑を半身にしてこれをかわす。
「良い動きだ。・・・次は君から打ってきなよ」
皇子様が剣を引き、少し距離をとってからそう言う。
どうしよう?
今の打ち合いで、皇子様の力量は分かってしまった。
私が本気を出したら、ミシェルとの決闘の時の様に速攻で一本取ってしまう。
私は少し考えてから、剣を上段に構えた。
そこから、さっきの王子様の剣戟と同じくらいのスピードで踏み込んで振り下ろす。
私と同じ様に、皇子様の教導機が剣で受ける。
インパクトの瞬間、私は意図的に少しだけ力を抜いた。
剣を引き、突きを放つ。
これまた、さっきの私と同じ様に、皇子様は教導機を半身にして避ける。
少しだけ遅い。
模擬刀の切っ先が教導機の胸の辺りを掠める。
防御魔法が僅かに反応して、装甲が光った。
しかし、実戦だとしても浅い。
試合でも一本とは成り得ない。
「・・・ふむ。バロン・ルージュの修理の確認のつもりだったのだが、これでは僕に対する指導だな」
皇子様はそう言って、教導機を格納した。
巨大な精霊甲冑が光の粒になって消えていき、中に居た操縦者がふわりと地面に降り立つ。
私もバロン・ルージュを格納する。
「あの、済みません!別にイザーク殿下を指導しようなんて恐れ多い事は・・・」
なんとか誤解を解こうと喋るが、上手く口が回らない。
「いや、気にしないでくれ。それよりも、バロン・ルージュの調子は戻っていたかい?」
皇子様は気さくに笑って、そう言ってくれる。
「は、はい。大丈夫です。有難うございます」
私は答える。
「もう終わり?どちらも一本取ってないのでは?」
離れた所で見ていたイリア皇女様がやって来て、そう聞く。
ウェンディ達C組のみんなもやって来る。
「試運転に付き合っただけだよ。勝ち負けなんかないさ」
皇子様がそう答える。
そう言えば、私も当たり前の様に勝負事の様に考えていたけど、皇子様は最初からそんな事は言っていない。
「まあ、見てたなら分かるだろうけど、勝ち負けなら、僕の負けだろうな」
続けてそう言うが、それは私が困る。
出来れば有耶無耶のままにしておいて欲しい。
「そこで、提案なのだが、アイラ君、生徒会選挙に出てみる気は無いかな?」
「え?」
皇子様が急に予想外の事を言いだして、私は変な声を出してしまう。




