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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
2章
19/29

2-6


 俺の名はポール・レガード。

 帝都騎士学校付属工房の主任技師だ。

 ここからは少し専門的な話になるので、覚悟して聞いて欲しい。

 そもそも、精霊甲冑とゴーレムは別のモノである。

 世界のことわりたる精霊を核とする精霊甲冑には機体を動かす為の魔力を必要としない。

 基本的にゴーレムは術者の魔力によって動くが、それ故にパワーに限界があり、大き過ぎると動かす事すらままならない。

 また、制御の魔法術式もまるで別物だ。

 しかし、そうしたところを除いた部分、機体のフレームなどは共通する部分も多い。

 大昔のゴーレムは土くれを魔力で無理矢理変形させて動かしていたが、その後、機械的な関節を持つ事によりスムーズに効率良く動くことが出来る様になった。

 時代が下って行くと、フレームと装甲、魔術機構を別々に製造する様になる。

 特に大型のフレームは魔術師が経験と勘で作れる物ではなくなり、技術者が図面を引き工業的に製造するものとなって行く。

 俺が勤めていたロイエンタール工廠もそんな精霊甲冑のフレームを製作する会社だった。

 正確にはフレームを自社制作し、制御機構や装甲板などは他所から買って来たものを組み付けて販売していた。

 画期的だったのが、それまで注文によってオーダーメイドで作られていたフレームを一つの設計を使い回して安く仕上げていた。

 工廠で最初に製作したA型フレームは試作的なもので、あまり性能は良くなかった。

 次にその改良型であるB型フレームを作り、これがその時にマクディアス男爵家から発注されたバロン・ルージュに採用された。

 大陸全土を巻き込んだ当時の大戦で、セーラ・マクディアスが帝国辺境部の戦線で活躍した事により、ロイエンタール工廠は注目された。

 特注の一品物を好んでいた他の貴族も実戦で性能の良さが証明された量産型フレームを使う方が効率的だと気付いたのだ。

 工廠には注文が殺到した。

 その後、順当にC型、D型と新しいフレームを開発していくが、E型の開発に取り掛かった処で、状況が変わった。

 元々、安価で頑丈で汎用性が効く物を作っていた会社だったのだが、E型に於いて高級高性能路線に舵を切ってしまったのだ。

 新人だった俺には上層部がなぜそのような判断をしたのかは分からないが、多分利益率の高さを重視したのだとは思う。

 しかし、開発中に大戦は終わってしまい、精霊甲冑の需要は激減してしまう。

 好調な売り上げを上げていた従来型のフレームがパタリと売れなくなり、莫大な開発費の捻出が出来なくなる。

 それでも、開発が完了すれば売れると信じた会社は試作機まで作り上げたが、そこで資金が尽きた。

 ある日工廠に出勤したら、上層部丸ごと夜逃げしたと聞かされて、目の前が真っ暗になったのを思い出す。

 結局、従業員は散り散りになり、完成した試作機はバロン・ルージュ七号機としてマクディアス家が買ってくれた。

 それ故、バロン・ルージュ七号機は六号機までとは大きく違う機体となっている。

 今は当主のセーラ・マクディアスの乗機だ。

 彼女の口利きで俺は帝都騎士学校の技師として再就職できたし、七号機の売り上げで雀の涙ながら離職した他の先輩達にも退職金が出た。

 性的嗜好であれこれ言われる人だが、恋愛が絡まなければ、あの人は男性にも優しい。

 そうでなければ、戦争が終わって買う必要のなくなった七号機を買い上げたりはしなかっただろう。

 俺は非常に感謝している。

 だから、彼女がマルスハイト辺境伯の座を狙っているという噂を俺は信じてはいない。



「あと、ロイエンタール工廠が解散した時に設計図が流出してな。流出と言っても、負債のカタに同業他社に持っていかれたんだが。そのお陰で他の工廠でも量産型精霊甲冑のノウハウが蓄積された。この学校の教導用精霊甲冑はロイエンタールD型の発展形だし、君の水陸両用機はC型の派生だ。C型は拡張性に重きを置いたフレームでな、脚部の可動域が広くて簡易的な変形機構が組み込まれていて、これが水中用と陸上用を切り替えるのに都合が良かったらしい」

 私達は特に聞いてもいないのに、主任技師のポールさんが延々と解説を続けている。

 私達はアイラとイザーク殿下の練習試合を見る為にグラウンドに移動して来ていた。



 俺の名前は、ジルベール・サザーランド。

 前世の名は茂武園一しげたけ そのかずだが、新しい名前にももう慣れた。

 と言うか、俺は既にジルベール・サザーランド以外の何者でもない。

 前世の記憶は生まれた瞬間から既に有ったと思う。

 ただ、未熟だった赤ん坊の脳にはそれを理解することは出来なかった。

 前世の記憶なんか有っても赤ん坊にはどうしようもない。

 そんな訳で、成長しながら少しずつ記憶を整理して来た。

 前世で死亡した時点でおっさんだったが、今は十五歳の少年だ。

 思春期特有のリビドーもある。

 ・・・何が言いたいかって?

 女の子のスカートの中のフトモモを見て興奮しても良いだろうって事さ。

 前世では犯罪者扱いされかねないけどな。


 それはそうと、バロン・ルージュの修理後の確認を兼ねた模擬戦が始まる。

 イザーク皇子は学校の備品の教導用精霊甲冑を使用している。

 彼の本来の乗機であるアーク・チェンタウロは強力過ぎてむやみに出せないそうだ。

 バロン・ルージュも教導機もごく標準的な精霊甲冑だ。

 教導機は白地に赤いラインが入っているカラーリングで、胸には大きく騎士学校の校章が描かれている。

 かなり派手だ。

 学校の備品で実戦用ではないからだと思うかもしれないが、実戦用として各貴族家が持っている精霊甲冑はもっと派手だったりする。

 リアリティが無い?

 そんな事を言ったら、前世基準でなら巨大ロボット自体が非現実的だ。

 二足歩行を実現する複雑な機体構造を別として考えても、砲弾が飛び交う戦場では直立したロボットなんかは良い的である。

 それを避ける為に、ロボットを匍匐前進させるか?

 それなら、戦車で十分だ。

 また、戦車などは無限軌道でその重量を支えることが出来るが、二足歩行するロボットはなるべく軽く作る必要があり、装甲に割ける重量は必然的に小さくしないといけない。

 戦車の分厚い複合装甲を破れるHEAT弾やAPFSDS弾が有るのに、そんな薄い装甲は無い方がましまで有る。

 そこら辺の現実的な問題を何とかかいくぐる為にロボットアニメとかは色々な設定と言う名の言い訳を用意していたと思う。

 で、メタい話だが、この世界では『魔法』がその言い訳になっている。

 物理的な衝撃を無効化できる防御魔法と言うチートが有る。

 それ故に、この世界では火薬を用いた『砲』が発展しなかった。

 代わりに攻撃手段はこれまた魔法を籠めた武器で殴る事になる。

 砲弾に魔法を籠めれば良いと思うかもしれないが、術者から離れるほど魔法は減衰するらしく、やはり上手く行かない。

 そんな訳で、この世界では精霊甲冑によるチャンバラが戦争の主役になっている。

 そして、昔の武将が派手な鎧で存在を誇示した様に、精霊甲冑もなるべく目立つ様になっている。

 自衛隊車両の様な目立たない色を使っているバロン・ルージュの方が少数派なのである。

 

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