表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第七話:アンダーグラウンド

溺死体の持っていた冒険者カードには『ラドロン。34歳。盗賊』と記されていた。街にいくつかあるなかでも最低ランクのギルドが発行しているものだ。所属しているのは社会からあぶれたゴロツキや半端者が多く、引き受ける依頼も犯罪スレスレのグレーなもので、この国の伏せられた内部機密や裏社会の情報はすべてここに集まっていると噂されている。ギルドは日当たりのいい大通りから遠く離れた、寂れた暗い裏路地の一角に構えていた。そこの受付で、ルイは愛想の悪いダークエルフの受付嬢から情報を引き出すのに苦労していた。


「三年前からここに所属している『ラドロン』という人について教えてください」


やや体格のいいルイが目の前に立っているのも気にせず、必要以上に濃いアイメイクを施した受付嬢は、受付カウンターのなかで毛羽だったまつ毛をまたたかせながら熱心にネイルに勤しんでいる。同じく正面に無言で立っている不気味な格好のシャーロットにすら一瞥もくれていない。毎日、荒くれものや変な奴ばかりを相手にしているせいか、肝が据わっている。


「・・・あんた保健所の人間?消毒なら間に合ってるよ」


それどころかシャーロットの恰好を指さし、一蹴する。薄暗くカビの匂いが漂う古臭い建物のなかで、シャーロットはある意味先進的で際立っている。


「警察です。それより、ラドロンについて教えてください」


「ラドロン?そいつは特にパーティーを組んでいなかったよ」


ルイが胸ポケットから警察手帳を取り出して見せると、それには見向きもせず、塗りたての真っ赤なマニキュアを口でふーふーと乾かしながら、受付嬢が気だるそうに答える。手元にあるギルドの登録帳を見ようともしない。


「え?じゃあ、どうやって迷宮探索していたんですか?」


迷宮はひとりで潜ろうと思えば潜れるが、まず稼ぎの少ない浅い階層にしか到達できない。それにケガをしたときや、自分だけでは対処しきれないモンスターに出会ったときのリスクもある。迷宮探索で生計を立てようと思ったら、パーティーを組むのは必須だ。


「フリーの盗賊やってたよ。盗賊を必要としているパーティーがあれば一緒について行ってた感じ。どっちかと言うと、依頼を受けている方が多かったね」


受付嬢はマイペースに、さらにもう片側の手にもネイルを続けながら答える。ギルド内に設置された依頼一覧のボードには『夫を殺して欲しい。黒魔術師募集』や『至急!ライバル店に潜入する企業スパイを募る』といったアンダーグラウンドな依頼ばかりが貼られている。これらを受けていたということは、当然恨まれることも多いということだ。それに特定のパーティーを組んでいるならまだしも、フリーで活動していたということは、それだけ関わっている人間も多くなる。いったい、何人に聞き込みすればいいのかとルイは頭を抱えた。


「ラドロンと付き合いのある奴の中で、トラブルになっている人間はいないか?」


「うーん。正直、うちのギルドに居るのは全員ワケありだし、性格が終わっているヤツしかいないから、誰が誰とトラブルになっていかなんて数えるとキリが無いんだよねー。アイツは特に鼻持ちならない奴だったよ。女を見下している所があったね、でも、一線は超えていないと思うよ。みんな、毎日喧嘩するかわりに本当にヤバいことには踏み込まないって決めてるから」


突然、横から口を出したシャーロットにも驚くことなく受付嬢が淡々と答える。ルイが『殺人事件の捜査』と事前に伝えていたことも踏まえてか、事実に追加して自分の推測も話してくれる。なかなか、頭が切れるらしい。


「そうか。じゃあ逆に仲のいい人間は?」


「ちょっと前ならアトスかな。水の魔法使い。最近、なんかあったらしくて仲違いしたけど。特に仲良くしていたのはそいつくらいかな。それ以外は、つかず離れずの関係でやってたみたい」


「水の魔法使い――!」


ルイが思わずシャーロットの方を見る。シャーロットも微かに首を縦に振った。現在、容疑者最有力候補の水の魔法使いがラドロンの友達にいた。しかも、最近になって仲が険悪になったという。偶然としては出来すぎている。


「アトス?その人は、どこに行けば会えますか?」


「うーん、最近そいつギルドを辞めちゃったんだよね。なんか『儲けるアテができた!』とかで。最後に『俺とくれば贅沢な暮らしをさせてやるぜ』って口説いてきてマジ最悪だったわ。・・・そういえば、ちょっと前にラドロンも同じようなことを言ってきたな」


「同じようなこと?」


「うん。『稼げるアテができた。もう少しで、こんなクソなギルドともお別れだぜ』って。いつも金に困っていた連中だから、おかしな話だと思ったんだよね」


「・・・金回りが良くなると、急に態度が大きくなるタイプか」


最近の二人は同じく稼げるアテを見つけている。どう考えても、二人には共通点があるとしか思えない。


「アトスは、今なら行きつけの酒場に居るんじゃない?『黄金の麦穂』ってとこ」


「そうか、ありがとう。助かった」


シャーロットが感謝の言葉を述べた瞬間、今まで自分の爪に集中していた受付嬢がバッと顔を上げた。鳩が豆鉄砲を食ったような表情できょとんとして固まる。それから、ややしてゲラゲラと笑いだした。


「いいよ。・・・どういたしまして」


笑いながらも、シャーロットから顔を背けて小声でお礼を言う。どうやら、お礼を言われることに慣れていないらしい。髪の間から覗く褐色の頬と耳が、分かりづらいが少し赤く染まっている。


「ありがとうございました!」


「・・・うるさっ」


その様子を見て慌ててお礼を言うルイに、気恥ずかしそうにはにかみながら受付嬢は笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ