ープロローグー
「今日は、なかなか良いモンスターに出会えませんね」
「休止期間開けだから、動きが活発になっていると思ったんだがな。なんで、こうもレアモンスターが少ないんだか」
「次の階層は乾燥地帯ですから、もしかしたらサンドクラブやドライサボテンが居るかもしれません。両方とも換金率が高いですし、狙っていきましょう!」
「そうだな。せっかくの休み明け。しっかり働いてガンガン稼ごうぜ」
「さんせーい!」
一組の冒険者パーティーが和気あいあいと迷宮の中を進んでいく。どの冒険者も中級者以上の堅実で品質のいい装備を身に着けており、かなりのベテラン揃いに見える。パーティーの一番後ろを歩く盗賊の背には、すでに踏破した階層で獲物たちから剥ぎ取った素材がリュックの口からはみ出るほど詰め込まれていた。これほどの稼ぎでも満足していないということは、すでに熟練の域に達している有名パーティーかもしれない。
階段を下りると、今までの高湿度のじめじめとした空間から一変し、乾ききった風が赤土の上を吹きさすぶ広大な空間が広がっていた。迷宮の第6階層――乾燥地帯だ。もっと深い階層にある砂漠地帯とは違い、床に砂が積もっていないが、砂漠地帯と似た生態系なのが特長だ。
「みんな、襟巻で口と鼻を覆え!乾燥しすぎると、切れて血が出るぞ」
「「「はい!」」」
先頭に立つリーダーと思しき、中年くらいの渋い顔の男が、振り返ってメンバーに注意喚起をする。ここでは水分は徐々に蒸発して乾いてしまう。注意していないと、喉や鼻の粘膜が傷つき、出血することもしばしばだ。一行がモンスターを探しながら進んでいくと、前方の通路になにか黒い影が横たわっているのが見える。
「みんな、デザートウルフかもしれん。注意しろ」
リーダーがさっと手を横に伸ばし、止まれの合図をする。大人の背丈ほどの影は、こちらにまだ気づいていないのかピクリとも動かない。リーダーは注意深く、じりじりと慎重に近づいていく。後ろを歩くメンバーも、それぞれ緊張感を絶やさず、各々の武器を握って臨戦態勢で追従していた。
やがて影の輪郭がハッキリすると、それは人だった。大人が通路に仰向けで寝転んでいる。
「大丈夫、人だった」
リーダーの一声にメンバーが臨戦態勢を解く。ただし、まだ油断はできない。周囲を警戒しつつ急ぎ足で人影に近づいていく。
「おい、アンタ。大丈夫か」
リーダーが声をかけつつ顔を覗き込み、目にした光景にハッと頭をのけ反らせた。
「見るな!」
後方へ慌てて声をかけ、メンバーがその場に踏みとどまる。横たわっていたのは、ただの人ではない。死人だった。カラカラに乾いた赤土の上で、そこだけが不自然に濡れそぼっている。顔は苦悶の表情で固まり、白目が剝き出しになっている。抵抗したのか、両手は喉をかきむしったような形で固まっており、鼻や口からは泡のついた水が溢れていた。それは乾燥地帯では本来出会うはずのない――
人間の溺死体だった。




