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第三話:聞き込み開始

魔導治安維持局の警察ルイ・ジェイは、周りから突き刺すような視線を感じていた。この蒼い制服は、市民から『不吉な蒼いカラス』と呼ばれ嫌われている。よって、このような冷たい視線を向けられるのは慣れっこだったが、今日はいつもの比ではない。街中の人間がこちらを見ている。厳密に言うと、その視線は自分の隣を歩く人物に注がれていた。


「どうかしたか?」


「い、いや。なんでもないです」


ルイも思わず隣から目を背ける。できることならば、自分も他人のふりをしたかった。なぜならルイの隣を歩く人物は、頭にはつるりとした球体型のヘルメット、全身は人体に沿った形状のぶ厚そうな防護服に覆われ、背中に大きなタンクを背負い、足元は重厚そうなブーツを履いている――まさに異常と呼ぶに相応しい出で立ちで街を闊歩していた。


勘弁してくれ、とルイは心の中で呟く。しかし、当の本人へ面と向かって言えないのにはワケがあった。話は数十分前に遡る。


「じゃあ、あとは頼んだ」


ルイに他殺と推測する論拠を一通り話し終えると、グソクはその場に死体とルイを置いて、さっさと先へ掃除に行こうとしていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!この死体って、他殺――しかも人間の犯行なんですよね?」


「どう見てもそうだろ」


どう見ても、というのがルイからはさっぱり分からないが、グソクは自分には関係ないとばかりにタンクから伸びたホースの調子をチェックしている。


「いや、まだ俺には飲み込めていなくて・・・。できれば、一緒に捜査をして欲しいな~なんて」


「死体の処理と犯人捜しは、お前たち警察の仕事。私の仕事は迷宮の掃除」


「そうですけど、俺には何が何やらさっぱりで・・・」


「さっき、説明しただろ」


グソクはルイへと向き直り、苛立たし気にブーツで床を蹴る。さっきの長々と説明した時間はなんだったんだ、とでも言いたげな雰囲気だ。


「でも…」


「もういい」


グソクはルイの言葉を途中で打ち切ると、再び死体とルイに背を向けてさっさと前方へ歩き出した。しかし、数歩歩いたのち、その足がぴたりと止まる。


「どうしたんですか?!」


まさか犯人と出くわしたか?とルイが慌てて駆け寄ると、二人の前方では大きな岩が道を塞いでいた。大きな衝撃でも受けて、天井から落ちてきたのだろうか。どでん、と通路の真ん中に堂々と鎮座して行く手を阻んでいる。


「はぁ」


グソクはヘルメットの中で小さくため息をついている。死体があるだけでも面倒くさいのに…とぼやくグソクの傍らで「ちょっと待っててください!」とルイは元気よく言い、おもむろに腕まくりをした。


「何をする気だ?」


グソクの問いには答えず、ルイはその場でボクサーさながらのファイテンポーズをとった。そして、静かに詠唱を始める。


『我が血潮よ、沸騰せよ。我が四肢よ、鉄壁の剛殻と化せ』


詠唱するルイの両手の甲に金色の紋章が現れ、そこから金色の筋が枝分かれをしながら太い血管のように腕全体へと伸びていく。彼の目も元のアッシュグレーの色が消えて金色に輝き、両手足の筋肉が制服を内側から破かんばかりに張り詰め、髪の毛が重力に逆らうようかのように天へと逆立つ。


『全霊を以て、万物を圧壊せよ』


ルイが両足にグッと力を込めると、足元の床石が重く鈍い音を立てて砕けた。


肉体強化フィジカル・エンチャント:テュールの鉄拳てっけん!』


次の瞬間。魔法の発動とともにルイの右腕から放たれた強烈な一撃は、岩のど真ん中へと着弾し、衝撃音とともに岩の中心へ大きなヒビを入れる。やがてヒビは岩全体へと広がっていき、轟音とともに全体が砕け散り、小さな石の粒となって四方八方へ爆散した。通路へ石粒の雨が降り注ぎ、大岩が跡形もなく消える。


「どうです?通れるようになりましたよ!」


木っ端みじんとなった大岩を背に、ルイは褒めてほしい子犬のようにグソクの前に回り込み、自慢げにヘルメットの中を覗き込んだ。ヘルメットは光沢素材で中の人物の顔は全く分からない。だが、仕草から呆れている様子が伝わってきた。グソクは黙ったまま、辺りに散らばった小石たちとルイの立っていた場所にある割れた石の床を指さす。


「・・・これを誰が片付けるんだ?」


「・・・あ」


というわけで、ルイは捜査後に一緒に迷宮の掃除とメンテナンスをするという約束で、グソクに捜査へ同行してもらっていた。本人としては格好よくグソクさんを助けて『岩をどかしてもらって助かりました!お礼に捜査に同行します!』と言われるはずだったところ、いまいち格好がつかずに不満げである。これでは自分が後始末から逃げないように見張られている側だ。


「あのー、グソクさん」


「シャーロットでいい」


「シャーロットさん」


「・・・・」


「・・・でも、俺の魔法すごかったですよね?」


「・・・よくも仕事を増やしたな」


「ごめんなさい」


ルイは即座に謝った。しかし、文句を言える立場ではないのだが、できれば他の服に着替えてきてほしかった。なぜ、そんな人相も分からない不気味な出で立ちで日中の街を堂々と歩いていられるのか。怖すぎて姿を見た子供が大泣きし、お母さんに「こら、見ちゃダメ!」と宥められている。歩く先々で街の人たちがこちらを見ながらヒソヒソ話をしている。「あぁ、またこの制服の肩身が狭くなる…」とルイは憂鬱だった。


そんな気持ちを引きずりつつ、二人はパーティメンバーがそれぞれ居ると思われる場所に向かっていた。今は迷宮の休止期間。この間は魔物の討伐や素材回収で生計を立てることができないため、冒険者たちはそれぞれ日払いの仕事をしたり、本業に戻ったりと、様々に活動していることが多い。


パーティーメンバーの所属するギルドでの聞き込み調査では、剣士は街の金持ちの館で用心棒、僧侶は所属する寺で修業、魔法使いはパン屋さんでアルバイトをしているらしかった。二人は、まずパーティーリーダーである剣士から聞き込みを始めることにした。


「警察?死体を置いて行ったことがダメだったんですか?そんなもん、みんなやっていることでしょう」


ルイから質問された剣士は「なんで自分だけが」と言いたげな不服の態度を隠そうともせず、二人を出迎えた。死体放棄は法律のグレーゾーンに位置する。国が置いて行っていいと明言はしていないが、放置する者があとを絶たないので、黙認されている状態だ。なぜ、そんな寛大な措置を国がとるのか。はっきり言って、冒険者の数を減らしたくないからだ。冒険者はベテランとなり、名が知られるようになると、国に召し抱えられることもある。階級を超えて高給取りになれるチャンスがある、身分が低い者や貧乏人にとって夢のある仕事なのだ。階級社会では低階層にも成り上がれるチャンスを与えておかないと、人生に見切りをつけて自暴自棄になった輩が徒党を組んで暴れ出すかもしれない。迷宮はモンスター相手に暴力性を発散させることもでき、日々のストレス発散にももってこいだ。なかには迷宮の1階にしか足を運ばない主婦冒険者もいる。普段は家事や育児に勤しむ主婦で、ストレスが溜まると麺棒をもって迷宮へ弱いモンスターを叩きのめしに行くのだ。以前は魔法学者だけに許されていた迷宮の探索が一般市民にも許可されるようになってから、強姦や強盗といった凶悪犯罪がめっきり減った。目に見えて街の治安が改善したので、国としてもあまり細かいことを口うるさく言いたくないのだ。


「今回は死体放棄の件での事情聴取ではありません。ただ、ロットが死んだ状況について教えてください」


しかし、ルイの言葉に剣士はますます警戒した様子だ。死体放棄について咎めないと言うのに、なんで仲間の死について警察が知りたがっているのか、不審がっている。


「べつに何もおかしなことはなかったですよ。いつも通り、ダンジョンを探索していたらロットが死んじまっただけでさ」


剣士は一言ひとことを考えながら慎重に話した。門の反対側で同じように用心棒をしている粗暴な男が聞き耳を立てているのが分かる。


「ロットの死因はなんだ?」


横からシャーロットが口をはさむ。剣士は気味悪げにシャーロットの格好を上から下まで見回したあと、シャーロットを無視してルイへ向かって答えた。


「サラマンダーの群れに当たっちゃたんでさ。俺らはまだ冒険者になったばかりでしてね。適わなくて、残ったメンバーと慌てて帰ってきたんで」


「サラマンダーの群れ?それはお前たちが出会って戦闘になり、ロットだけが死んだということか?」


シャーロットが矢継ぎ早に質問する。ルイもそこが気になった。サラマンダーの群れ説は、シャーロットが違うと推測している。しかし、目撃者はサラマンダーの群れにロットは殺されたという。見つめる二人の視線の先で、剣士はさらに奇妙なことを言い出した。


「いや、俺は群れに出会っていないんでさ」


次に、ルイとシャーロットは僧侶の所属する寺院へと向かっていた。先ほどの剣士の話を要約するとこうだ。いつも通り、パーティーメンバー全員で迷宮に潜っていた。そして運よくジャイアント・ラットの群れを倒したらしい。こいつには鋭い前歯があるので、その素材は低級の魔法装備を作るのに役立つ。素材をみんなで分配したあと、ほかの3人に先へ行かせて剣士はしばらくその場に残っていたという。なぜかというと、


「うちには育ち盛りのチビが4人もいる。どうにか食料を確保しないといけないんで」


ジャイアント・ラットの肉は食用可能だが、まずくて誰も好んで食べたりしないため市場には流通しない。ただ、貧しい家庭ではどんなものでも食料として食べられるだけ有難いのだろう。肉を持ち帰るために解体していて、ロットの死んだ現場には居合わせていなかったという。覚えている魔法も剣技に関するものだった。


僧侶は寺院の庭で掃き掃除をしていた。話を聞くと、あの日、剣士を置いて3人で先に進んだのは間違いないとのことだった。その理由は、魔法使い2人がはやく先に進みたがっていたからだと言う。


「寺院に所属している私とは違い、あの方たちは住む場所もお金を払って自分たちで確保しないといけませんからね。いまは月末ですから。諸々の支払いが差し迫って、より多くの魔物を狩りたがっていました」


のんびりとした初老の男は、寺院内の来客室に座り、ルイとシャーロットにお茶とお菓子を差し出した。最初は剣士と魔法使い2人のどちらと行動をしようか迷っていたが、焦って先に進んだ二人が怪我をしないか心配で回復魔法を覚えている自分が後からついて行った。しかし、突然周りに突風が吹き荒れて2人とは分断されてしまったあと、しばらくしてからパァンと何かが弾けたような破裂音が聞こえ、突風が突如止んだという。それを聞き、シャーロットの指がピクリと反応した。


「風が止んだ時には、ロットが焼かれた!サラマンダーの群れにやられたと、エアが慌てて引き返してきましてね。メンバーのもう1人の魔法使いです。念のためロットの元に駆けつけると、どこも焦げていなかったので、まだ重度の火傷を負っただけなら皮膚を再生できると思いましたが、もう彼は息をしていませんでした。そんな危ない魔物がいるならば深追いは危険だと判断し、急いでリーダーの元に戻って三人で逃げ出してきました」


ダンジョンへ潜るために僧侶の職業に就いた非公式な僧侶ならともかく、寺院所属の正式な僧侶がパーティーにいるのに死体を置いて帰ったのは、その場に居たら危険だと判断したからだろう。


「少しの時間でしたが、ともに冒険した仲間が亡くなってしまったのは本当に悲しいです」


僧侶はしみじみと自分で淹れた茶を啜った。寺院の庭に咲いていたハーブを煮出したお茶と畑でとれた野菜を加工したお菓子だと言うが、なかなか美味しい。ルイが遠慮なくお茶とお菓子をいただいていると、横に座っているシャーロットが先ほど迷宮で松明を風でかき消したノズルを机の上に構えた。ノズルの先端には横長のヘッドが付いており、内側には口が開いている。その口をお茶の上にかざして手元のボタンを押すと、ブオォオオオという音とともにノズルの中へお茶が吸い込まれていった。


「ちょっと、ちょっと!何をやってるんですか、シャーロットさん!」


シャーロットの奇行にルイは溜まらず叫ぶ。目の前の僧侶も引いた顔をしている。しかし、当の本人は気にせずにお茶を吸い込み終わったあと、


「ごちそうさま。ありがとう」


と平然と宣い、お菓子皿の上にもノズルをかざして同じように吸った。

僧侶とルイが呆然としている傍らで、ヘルメットの中からボリボリとお菓子を食べている音が聞こえてくる。


「・・・おいしい」


「・・・お口に合ってよかったです」


ぎこちなく微笑む僧侶を前にルイは頭を抱えた。


ルイとシャーロットは、最後にパン屋さんへ向かった。パーティーメンバーのもう一人の魔法使い・エアに話を聞くためである。先ほどの僧侶は回復魔法を覚えていた。死体の周りの焦げ跡から、犯人が火や炎の魔法を使って殺した線は薄くなったが、エアの覚えている魔法によっては、まだ可能性は十分に考えられる。


エアが働いているのは、街でも評判のおいしいパン屋さんだと話すと、シャーロットが「楽しみだ」と答えた。先ほど茶菓子を完食したことといい、ただ単にお腹が空いているのか、食いしん坊なだけなのか、まだ想像がつかない。


聞き込みを開始したころには空の真上に登っていた太陽も地面の近くまで沈み、夕焼け空が街を赤く染めている。二人がパン屋に到着した時には、もうすでに全ての商品が売り切れとなっていた。空っぽのショーウィンドウの前でシャーロットが立ち尽くしている。その後ろ姿は心なしか残念そうだ。店員も帰ってしまったかと、ルイが慌てて店の前でつむじ風を操り、落ち葉掃除をしていた女性にエアの居所を聞くと、彼女がその件の魔法使いだった。


「目の前でロットさんが焼けていたんですよ!」


ロットが死んだ経緯を聞くと、エアは興奮気味にそう答えた。店の女将さんが特別に許可を出してくれたため、もうお客さんの居なくなった店内の飲食スペースで、二人はエアと向かい合っていた。女将さんは蒼いカラスのルイも、奇妙な格好のシャーロットも、一瞥しただけであとは笑顔で歓待をしてくれた。なかなか懐の広い女性だ。だが、飲食スペースを貸してくれたのは、ただの厚意だけではなかったらしい。女将さんはレジの置いてあるカウンターの中から時々こちらの様子を遠目に伺ってる。店員のエアを心配しているのだろう。自分の目の届く範囲に席を用意するとは、なかなか抜け目がない。さすが女主人として町一番と評判の店を切り盛りする女性は違う、とルイは心の中で密かに感心した。


「発見したときの状況は?詳しく知りたい」


エアは、うーんと顎に指をあて、一生懸命に思い出そうとしているのか上空を睨みつけながら話を続けた。


「あの日は、第四階層への到達を目標にしていました。探索を始めてさっそく、ジャイアント・ラットの群れに遭遇したんです。無事に倒せたので、みんなで戦利品を分けていました。そしたらリーダーが『子供たちのためにジャイアント・ラットの肉を貰ってもいいか?』とみんなに聞いて。家庭事情は知っていたので、みんな快くOKしました。でも、私も月末が近づいてきていて支払いがカツカツで・・・。申し訳ないけど先に進みたい、と言ったら、ロットさんも賛成したんですよ。そうして剣士さんと僧侶さんの二人を置いて先に進んでいたら、あとから僧侶さんも小走りでこちらへ向かってくるのが見えました」


ここまでは剣士や僧侶の話と矛盾はない。彼女は元来おしゃべりが好きらしく、最初はルイと奇妙な出で立ちのシャーロットに警戒していたが、話しているうちに口が滑らかになってきたのか、今はテンポよくしゃべり続けている。


「そしたら、いきなり私たちの周りに風が吹いてきて。前にも後ろにも進めなくなっちゃったんです。前のロットさんとも、後ろの僧侶さんとも分断されましたね。慌てて前に進もうとしたら『サラマンダーの群れだ!』って前から聞こえてきて。加勢しなきゃ、と思っていたら」


そこでいったん、言葉が途切れる。皮膚が真っ赤に染まった凄惨な死体を思い出したのだろう。彼女はじっと目線を膝に落とし、カップを握る両手に力が入る。


「ロットさんが真っ赤になって横たわっていたんです。すでに死んでいることは一目瞭然でした。急いで戻り、僧侶さんと剣士さんに声をかけてダンジョンを脱出したんです」


「ふむ」


「じゃあ、あなたもサラマンダーの群れを直接見たわけではないんですね?」


ルイの問いかけに、彼女は大きな目を左右に揺らす。動揺しているようにも、思い出そうとしているようにも見てとれた。


「たしかに...。群れを直接見たわけではありません。でも、あの死体。さっきまで生きていたはずのロットさんが一瞬で焼かれて死んでいました。それ以外に原因が考えられません」


彼女の話は、他のメンバーの説明と矛盾はない。ただ、誰も見ていないサラマンダーの群れ。今までの話を総合すると、彼女はロットの発言から群れが現れたと信じており、他の二人はエアの発言からそう信じてる。誰も見ていないサラマンダーの群れは本当に存在していたのだろうか。


「あれ?その傷、どうしたんですか?」


ふと、ルイがエアの腕を覗き込む。エアの左腕には、長そでの裾から細い腕に巻かれた白い包帯が覗いていた。


「あ、これは…。パンを焼き窯から出すときに火傷しちゃって...。私ったら、ドジですね」


てへへ、と恥ずかしそうににエアが笑う。その笑みは人懐っこく、誰でも打ち解けてしまいそうな可愛らしさだ。そのとき、シャーロットのヘルメットが僅かに動いた。しかし、それにルイは気づかず話を続ける。


「あなたの覚えている魔法は?」


「魔法ですか…?風系の魔法です。突風を出したりできる程度ですね。ダンジョンでは足止め役でした」


ほら、とエアが手のひらの上に小さな風を起こしてみせる。ルイがそれを調書にメモしていると、隣から『ぐぎゅるるるる~』と大きな音が聞こえてきた。思わず音の発生源を見ると、音の主はまだごまかせると思っているのか、テーブルの下で自分のお腹をぶ厚い防護服の上からごっ、ごっ、と叩いている。カウンター内では女将さんが大笑いしていた。


あのあと2人は、女将さんからバケットいっぱいに様々な種類のパンを貰った。形が悪くて売り物にならないものを自分の夜食にしようとしていた分だという。何度も感謝をするルイに、女将さんは大笑いしながら『若いんだから、遠慮なく食べな!』と言い、シャーロットも「・・・ありがとうございます」と小さな声でお礼をした。


「よかったですね、シャーロットさん」


「うむ」


シャーロットはさっそくパンを一個吸っており、ヘルメットの中で食べているのか、口調があやふやだ。食べるために両腕を防護服の内側に引っ込めたのか、服の両腕の部分が少し萎んでいる。ルイがヘルメットを脱がないんですか?と聞いてみたところ、無視されてしまった。シャーロットにどのパンを食べていいか聞き、OKをもらったパンにルイも手を伸ばす。一口食べるとふわふわで少し甘い生地が口の中で優しく溶ける。食感も軽く、何個でも食べれてしまいそうな美味しさだ。


「さすが、町一番のパン屋さんですね。めちゃくちゃ美味しいです!」


「うむ」


「それにしても、パーティーメンバーに犯行をできるような魔法を持っている人物はいませんでしたね。剣士は剣技の魔法、僧侶は回復魔法、エアさんは風の魔法でしたし」


ここ魔法王国エテリカでは、ほぼすべての人間が魔法を宿して生まれる。ただし、一人の人間につき扱えるのは生涯でただ一つの「系統」のみだ。エアの場合、彼女は風系の魔法使いのため、火の魔法は覚えられない。ルイも同様だ。彼が宿すのは肉体強化魔法。肉体強化に関わる様々な派生魔法を覚えることはできるが、指先から火を灯すことすら叶わないのだ。


「いや、居るだろう。ひとり、人間を高熱で殺せる奴が」


「え?・・・うぐっ?!」


予想外の返答にルイがパンを喉に詰まらせて苦しんでいるうちに、彼のもう片方の手にあったパンの盛り合わせはバスケットごとシャーロットのノズルにシュゴォォォ!と無慈悲に吸われていった。

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