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迷宮(めいきゅう)のシャーロット  作者: 有馬 泉貴
幽霊屋敷で大パニック?!

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第十二話:幽霊退治隊(ゴースト・バスターズ)結成

黒いローブの人物の正体も分からず、二人はとりあえず手がかりを得ようと街に戻った。警察の情報網で調べると、あの屋敷は街の不動産屋が所有していた。不動産屋では金にがめつそうな頬肉の垂れ下がったブルドックのような顔をした中年男が、胡散臭げな満面の笑みで二人を出迎えた。


「いつもお世話になっております~。魔導治安維持局の皆様には、いつも街の平和を守っていただいていますからね。えぇ、感謝しかございません。このようなところにご足労いただいて大変恐縮です。それにしても、あの屋敷のことでお聞きしたいことがあるとか。なんでもお聞きくださいませ」


甲高く作った声をキンキンと響かせ、妙に間延びした不快な口調で不動産屋がまくしたてる。その顔には笑みが張り付いていたが、大きく四角い眼鏡の奥にある目は油断なくルイとシャーロットの様子を伺っていた。


「幽霊騒動が出る前から、屋敷はこちらで所有していたんですか?」


「いえ、幽霊騒動が出てからでございますね。自殺者が出たと噂が流れてから、知り合いの不動産ブローカーから譲り受けました」


「譲り受けた?」


「正確には買い取った…でございますね。幽霊騒ぎがあったので格安でしたよ。しかし、噂が収まらないのは予想外でしたね。・・・外れ物件を掴まされた」


最後の一言だけ、男の口からは作り声が消え、地を這うような低いドスの利いた声で唸った。その目には、怒りが浮かんでいる。好条件の物件を格安で手に入れたはいいものの金にならず、苛立っているのだろう。


「幽霊調査はしなかったのですか?」


「しましたよ。しかし…なにもいないとの結果でした。なので、そのうち噂も収まるだろう。そうしたら、また売ればいいと思っておりました。あそこは街へも行きやすく、かつ周りには他の建物が無いので静かな暮らしも叶いますしね。貴族様や富豪の方々が喉から手が出るほど欲しがる物件ですから。買い手はすぐに見つかるはずだと思って、半年...。いまだにゴーストや怪奇現象の噂が続くとは思いませんでしたね」


「ふむ」


ルイは考えるように指で顎をこすった。この不動産屋もさすがに幽霊やデーモンが憑いている状態の屋敷を人に売ることはせず、まずは調査をしたらしい。おそらく何か居た場合は、そのまま霊媒師に除霊をしてもらい、その後に物件を売るつもりだったのだろう。でも何もいなかった。しかし、いまだに人々の間ではポルターガイストやゴーストの目撃情報が相次いでいる。


「ちなみに、売ってきたブローカーの人とは会えますか?」


「あぁ、彼はあの屋敷を私どもに売ってから精神がおかしくなったらしく...。いまは、遠くの田舎にある精神病院に入院しております。また、そのことも噂を加速させていまして。まったく迷惑な話です」


屋敷について、この不動産屋が知っていることはこの位らしい。ルイはついでに兄弟の幽霊騒動事件を不動産屋に伝え、建物に入る許可をもらった。不動産屋も子どもたちが屋敷に入り込んでいるのは風の噂では知っていたらしい。口では子供たちが心配で申し訳ないと言っているが、目は迷惑千万だと物語っていた。


「シャーロットさん、所有者に屋敷調査の許可ももらいましたし、また屋敷に戻りましょう!」


「・・・うむ」


ルイの言葉にうわの空でシャーロットが返事をする。その目線は屋敷の資料に注がれていた。不動産屋とルイが手元を覗き込むと、その手は物件の歴史を記したページで止まっている。それを見て、不動産屋が思い出したようにぽんと手を叩いた。


「そうでした!有用な情報かは分かりませんが、ブローカーがよく出入りしていたギルドがありまして」


「ギルド?」


「そのブローカーはどんな物件でも仕入れることで有名でして。なんでも、そこのギルドではよく事故物件や幽霊の出る物件の幽霊退治をお願いしていたとか。あの屋敷も彼が幽霊退治をしたから大丈夫とのお墨付きで仕入れましたしね」


「そのギルドの名前は?」


「たしか『錆びた天秤ギルド(ラスティ・リブラ)』と言います。ご存じですか?」


不動産屋の言葉に、ルイとシャーロットは思わず顔を見合わせた。そこは――あのケバい受付嬢が働く、街で最低ランクの冒険者ギルドの名前だった。


ギルドを訪れると、ダークエルフの受付嬢は以前聞き込みに来た時の防護服の中身がシャーロットと知り、興味を引かれたのかまじまじと彼女を眺めはじめた。ルイのことは、すっかり眼中にないらしい。「へー」や「あの服も似合うかも...」と独り言を言いながら、シャーロットを上から下まで見回している。流石のシャーロットも至近距離で眺めまわされると気になるのか、居心地が悪そうにしていた。


「フッガって知っていますか?不動産ブローカーの。よく、ここに出入りしていたと聞いたんですが」


ルイが見かねてシャーロットの前に立ちはだかり、彼女を自身の体で隠しながら、受付嬢に質問をした。背中からは安堵のため息が聞こえてくる。受付嬢の視線がルイに向けられる。


「あぁ、あいつね!知ってるよ。うちの大得意先だったからね。いつも依頼にきてたし」


「その人がこちらに幽霊退治をお願いした屋敷でまだ幽霊の噂が流れてまして...。いまその調査をしているんです。ブローカーが精神病院に入院したことも含めてなにかご存じないかと...」


ルイの言葉に黒くて太いアイラインに縁どられた受付嬢の瞳が大きく見開かれる。ややあって、真っ白な歯をのぞかせ大声で笑い始めた。


「あははははっ!幽霊退治、幽霊退治ね。やった。やったよ!」


目じりに涙を溜めながら、本当におかしそうに受付嬢が笑う。その態度にルイはムッとした表情をした。


「なにがおかしいんですか?!」


「あなたたち、あのブローカーのこと何も知らないの?」


「知らないって?」


ルイの背中からシャーロットが小声で口を挟む。あまり受付嬢に存在を認知されたくないらしい。


「あいつがやっていたのは、地上げ!あいつは地上げ屋だよ。まず目を付けた物件にうちの霊媒師を派遣して幽霊を憑かせ、そこに住んでいた人たちを怖がらせて追い出す。そして幽霊騒動で格安となった物件を仕入れ、憑かせた幽霊を除霊して、その物件を高く売り払ってたの」


「つまり幽霊騒動が起こったのは、もとは何もいなかった物件に霊媒師がわざと幽霊を憑りつかせたってことですか?!」


「そうだよ。つまりマッチポンプだね」


「なんてこと…」


ルイは絶句した。まさか人を追い出してまで物件の価値を下げて、利益を得ようとするなど、彼には想像もできなかった世界なのだろう。言葉を失ったルイに変わり、シャーロットが背後から話を続ける。


「でも、いまでもあの屋敷は幽霊の噂が絶えない。霊媒師はちゃんと除霊したのか?」


「そこなんだよねー。おかしいんだよ。あそこには、もううちのギルドも何回も調査に行っている。幽霊もデーモンもいないはずなの。なのに怪奇現象が起こっているし、幽霊を見たという人が続出中。今までと同じ手筈でやっているはずだし、こんなことは初めて」


「あの屋敷に幽霊を憑かせる時、なにかいつもと違うことは無かったか?」


「う~ん、そうだなー。違うこと、違うことかぁー」


受付嬢は唸りながら手元にあるギルドの記録帳をパラパラとめくる。そして、ある一ページで手を止めた。


「あ、いつもと違う子を派遣したかも」


「違う人を?」


「そう。その日、いつもこのブローカーと組んでいる霊媒師が酷い風邪をひいちゃっててさー。ちょうど、うちのギルドに来たばかりの新米の子が引き受けてくれたんだよね。確か『幻聴』を聞かせる魔法を持つ女の子で。とりあえず住んでいる人を追い出せばいいだけだから、その子を派遣したのさ。そしたら言われた通りに屋敷の奥で、気味の悪いうめき声をリピート再生する魔法を仕込んできてくれたんだけど……」


「その新米の子はどこに?」


「辞めちゃった。屋敷の除霊がうまくいかなかったとかで。気にしなくていいのにね。他の魔法使いが調査しても『魔力は完全に消えてる』って結果が出たんだから、その子の魔法はちゃんと解除されてたはずなんだよ。……なのに、勝手に責任感じてバックれちゃって。バカ真面目な子は、この世界じゃ生きづらいってのにね」


受付嬢が眉を潜ませながら、どこか寂し気に視線をさまよわせる。ここに所属しようとするのは、よっぽど金に困っている冒険者か、素性の知られたくない者だけだ。このギルドを抜けてしまったら、さらに下のよりダークな世界に潜るしか道はない。今ごろ、その子がどうなっているのか心配なのだろう。


「そうですか...。では、そこも含めて何で怪奇現象が起きるのか調査に行きますか。お話してくれて、ありがとうございます。シャーロットさん、行きましょう」


「うむ」


放心状態から帰ってきたルイが背中のシャーロットに声をかけ、二人は出口に足を向ける。そこへ背後から予想だにしない声がかかった。


「・・・私も行く」


「え?」


二人が振り返ると、そこには受付カウンターに『ただいま離籍中』の札を出す受付嬢の姿があった。


「私も一緒に行く。なんで幽霊の噂が収まらないのか確かめる。このままだと、ギルドの評判に関わるし」


そう言うと、受付嬢は濃いアイメイクの目を悪戯っぽく細め、制服のままでルイとシャーロットの横に並んだ。あくまで「自分の職場のメンツを守る」ために同行することを決めたらしい。


「おや、ミヤビちゃん。出かけるのかい?」


冒険者のひとりがこちらに気づき、声をかける。


「うん、あの幽霊屋敷に行ってくる。噂が止まらないのは、うちのギルドのミスじゃないって証明しなきゃ。サダさん、悪いけどカウンター業務頼むわ。お客さん来たら応対して!」


「えぇ!俺が?!」


指名されたおじさん冒険者が困ったように眉を八の字にする。隣にいた仲間たちが「俺たちも手伝うからさ!」と酒瓶を握ったのとは反対の手で励ますように肩を叩いた。


「それじゃ!シャロたそ、ルイ。行こう!ゴースト・バスターズ結成だ~!」


「シャロ…たそ?」


「なんで僕は名前そのままなんですかっ」


ズレた不満を言うルイと戸惑うシャーロットを引き連れ、下の方でくるくると巻いた金髪を揺らし、ミヤビが腕を天に突き上げて、テンション高くギルドを出る。かくして、ここに警察・グソク・ギルドの受付嬢という職業も能力もバラバラの即席ゴースト・バスターズが結成された。

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