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龍の牙と龍の腕  作者: 干からびたナマコ
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心と恋

皆さんどうも、干からびたナマコです。第三十八話、投稿しました!

ゲルモンドとドゥイスパーを倒し、ヘレシーキメラを壊滅させた数日後、龍牙は王城に呼び出された。

「失礼しまーす………あ!」

龍牙が指定された部屋に入ると、黄金の鎧を着た騎士が座っていた。

「デヴィッド先生!」

「久しぶりだな、龍牙。最近忙しくてな。会えなくてすまなかった。」

「いえいえそんな、大丈夫です。最近は俺も忙しかったんで。」

「そう言ってくれると助かる。」

そう言うとデヴィッドは新聞を取り出した。

「数日前、お前と荒斬がヘレシーキメラを壊滅させた件についてだが…」

デヴィッドが見せた一面には、ゲルモンドを討ち取ったことに対する誹謗中傷が書かれていた。

「え!?なんで…あ。」

龍牙は思い出した。ゲルモンドは少年を百足の怪物にした日、民衆を味方につけていた。その数日後にその人物を討ち取っていたら騎士団への非難は避けられない。

「だったら何でこんなタイミングで…俺が言えたことじゃないですけど。」

「自分達以外が権力持つの嫌いなんだよ。ここのクソ野郎どもは。」

突如割り込んできた声は、荒斬のものだった。後ろを見てみると、器用に花瓶の上に立っている。

「この国の政治は腐ってるからな。正直王子以外碌な人間がいねえ。」

「荒斬。あまり言うと不敬罪になるぞ…まあ、もう十分言っているが。」

「あーくそ!苛々するぜ…」

今日の荒斬はかなり気が立っているようだ。余程世間からの評価と上からの命令の板挟みが気にくわないらしい。できれば苛々してる人の近くには居たくないんだが。

そんなことを考えていると、荒斬がこちらに向き直った。

「つーかよぉ、ノレアには合わせたのか?」

「ノレア!?」

龍牙が大声で反応する。龍牙はヘレシーキメラ壊滅後もノレアには会えていなかったのだ。

「無事なのか!?ノレアは!」

「ああ。ただ一つ、気になることが…」

「気になること?」

何だ?まさか何かされて…

「隣の部屋で待ってもらっている。荒斬、読んできてくれ。」

「へいへい…何故か他の兵士の言うこと聞かねえからな、あいつ。」

そうぼやきながら部屋を出ていく荒斬。少しして、荒斬がノレアを連れてきた。

「ノレア!」

思わずノレアに抱きつく。見たところ、何かの後遺症などは見られなかった。

「良かった!無事で…ノレア?」

何か様子がおかしい。抱きつく際に身体を震わせたような気がしたが…それから微動だにしていない。

「……ただいま。」

ノレアが一言発する。しかしその声は、あまりにも無機質だった。

「ノレ…………ア?」

「…無事だよ。『外側』はな。」

外側?どう言うことだ?

デヴィッドが申し訳なさそうに口を開く。

「…ノレアちゃんは、精神を直接解剖されたみたいなんだ。」

「精神?」

デヴィッドの言っている意味がわからない。

「ゲルモンドの日記があった。そして、それを行うための機械も、あった。」

「精神を解剖って、どうなっちまうんだよ。ノレアがノレアじゃ無くなるのか?」

「人格が変わったりはしないが…精神の測定ならまだしも、解剖となると酷い不快感を伴うらしい。しかもゲルモンドの興味があるものがあったらしく…」

「何回も解剖された、ってことだ。」

ノレアの方を見る。今の話を聞いても、思い出して怯えることすらなく、ただ無機質に突っ立っている。

「少なくとも、十四歳の少女に、それはあまりにも酷すぎた。心を閉ざしてしまうほどに。」

「そんな…」

その時、荒斬が俺の肩に手を置いた。

「それだけじゃねぇ…もう一つある。最悪な方がな。」

手の力が強まって痛い。荒斬が起こっている原因はこちららしい。

「おい、ノレア。『アレ』を見せてもらえるか?」

荒斬がそう言うと、ノレアは小さく頷いた。次の瞬間。

「…………」

ノレアの背中に白い羽が生えていた。まるで、天使のように。

「…どうなってんだ。」

「天使だ。」

デヴィッドはそう言った。

「天使?ノレアは人間じゃ…」

「この世界では天使と悪魔の定義が違う。光と闇、それぞれの属性の魔法に長けたものは背中から翼を出せるようになる。そして、空を飛ぶことが可能になる。」

「前に俺と手合わせした時にも飛んでたしな。まあ、天使になりかけてたってことだろ。」

「天使になると、何か不味いのか?」

「…どうして、そう思うんだ?」

デヴィッドが疑問を投げかける。龍牙は荒斬をチラ見してから口を開いた。

「荒斬が凄い不機嫌だったから…『最悪』って言ってたし。」

「ああ、そのことか。」

荒斬は納得したような表情で、一枚の紙を差し出した。

「これは…何かの発表の計画書?」

「ヘレシーキメラの一件を民衆に納得させるために、クソ野郎どもはノレアをこの場に引き摺り出す気だ。」

荒斬がそう言うと、ノレアが微かに震えた。

「この世界じゃ光の魔法は神の賜物で闇の魔法は禁忌として扱われている。天使が現れたとなったらそれだけで祭事が行われるほどだ。」

「だからクソ貴族やクソ王族はヘレシーキメラが攫ったノレアを天使だと公表することで民衆を納得させる気なんだ。」

ノレアは先刻からずっと震えている。出たくないことは明白だった。

「暴動が起きても困るから、どうにかしなきゃならねえのはわかる。でも、自分たちが好き放題した尻拭いを子供一人に背負わせるなんてどうかしてるだろ!」

荒斬が拳を握りしめる。力みすぎたのか、血が滲んでいた。

「天使になったノレアの魔法は、おそらくゲルモンドの所にいた時に何かしら強くなっている可能性が高い。もし錯乱して無差別に攻撃されたら、どんな被害が出るかもわからん。」

「成る程…」

ノレアに出てもらうのは、確かに良い説得の材料になるんだとは思う。でも、ノレアに嫌な思いはして欲しくない。ノレアが出たくなる方法は…

「あった!!」

龍牙が大声で叫ぶ。

「…びっくりしたぞ。」

「あ、ごめん。でも、俺に任せて。良い方法がある。ノレア!」

ノレアがこちらを向く。その目は未だに無機質なままだ。

「お前が大好きな『あの人』に同伴してもらうのはどうだ?」


運の良いことに、今夜は満月だった。

何度もノレアと会った森の外れの湖のほとり。暫くすると、ノレアがやって来た。

「来たか。ノレアっ。」

ノレアがいきなり飛びかかってきて倒れ込む。押し倒してきたノレアの目には、大粒の涙が溜まっていた。

「ノレア…?」

「ライダーさん…ライダーさぁ〜ん!」

ノレアが泣きじゃくる。虚ろな状態の面影は何処にも無かった。

「怖がっだよぉ〜〜!」

「よ、よく頑張ったな。よしよし。」

優しく頭を撫でると、少し落ち着いたらしくノレアはゆっくりと俺から降りた。

「ら、ライダーさん。今日はお願いと…一つ言っておきたかったことがあるの。」

ん?言っておきたいこと?俺そんなの知らない。

「えっと、お願いから話すね。実は私、お偉いさんの発表の時に、みんなの前に出るんだけど…」

そう言いながらまたノレアは泣き出した。

「怖いの…人の前に出るのが。今までの自分の無防備なふるまいが恐ろしくて仕方ないの…」

涙をボロボロ零しながらノレアは続けた。

「さっき言ってた、言いたかった事なんだけど…私、人の感情というか、考え方というか、そういうのがわかるの。」

「感情や考え方?」

「うん。前は特に理解していなかったけど、今ならわかるの。正義感が強いから、私を護ってくれるから。そういう感じで自分に合う人に懐いてた。」

ノレアは潤んだ瞳でこちらを見る。

「ライダーさんに惚れたのは、あなたが愛を愛で返してくれる人だと分かったからなんだと思う。自分の愛を受け止めてくれる人が、絶対に裏切らない人が良かったの。」

「そうだったのか…」

そう言いつつ、ノレアの頭に手を置く。

「あ、あの…」

「俺も大好きだよ。ノレア。」

「!ライダーさん!」

ノレアが先程よりも強い勢いで飛びついてくる。もうちょっと上だったら喉がやられてた。

「ライダーさん!ライダーさん!」

ノレアは嬉し涙を流しながら、名無しのライダーを抱きしめ続けていた。


「発表、上手くいったな。」

王城の一室で荒斬が口を開く。

「途中お前が殺気放った時は焦ったけどな。」

龍牙の一言に、荒斬がバツの悪そうな顔をする。

「仕方ないだろ。あのクソ貴族むかついたんだからよ。」

「まあ気持ちはわかる。」

「あ、そうだ。ノレアを説得する時にトラブルは無かったか?」

「いや、特に何も。」

龍牙は荒斬達にもノレアの能力を教えていない。ノレア曰く能力の発動は切り替えが出来るようになったらしいが、人の心を読めると知れたら誰にどう思われるかわからない。故に誰にも話せない。しかし、

「何も無かった、が…」

「が?」

「…ノレアが可愛すぎて萌え死にしそう〜!」

「惚気かよっ!?」

好きな人の可愛いところを、他人に自慢するくらいは許されるだろう。

ノレアが荒斬の言うことを聞いていたのは、試しに荒斬の感情や考え方を見たからです。ゲルモンドのせいで人の心を見るのが怖くなってしまったため、何回も心を見ることは出来ませんでした。その結果、最低でも荒斬は信じられると考え、荒斬の言うことだけを聞いていたのです。というわけで、龍の牙と龍の腕、第三十八話でしたー!

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