いや、思ってたのより可愛いんだが!?
練習を終え、晃星と風間が片付けをしていると、伊織がやってきた。
「どう? 順調?」
伊織が二人に声をかける。
「まぁね」
晃星が笑う。
「えっと……?」
伊織が風間を見る。
「あ、そういえばちゃんと自己紹介してなかったね」
晃星が言う。
「こちら、三年の風間駿太郎先輩」
「三年の風間駿太郎です」
「一年の天川伊織です!」
伊織が笑顔で自己紹介する。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
風間も笑って答える。
「風間先輩は何団ですか?」
「白団だよ」
「じゃあ、全力応援しますね!」
伊織が笑顔で言う。
「頼んだよ」
晃星も笑う。
「うん!」
伊織は元気よく頷いた。
その後、風間と別れた晃星と伊織は、陸上部から借りていた小さなハードルを返しに向かった。
陸上部のところまで行くと、そこには陸上部OBの岩田と、一年生数人が話をしていた。
「これ、ありがとうございます」
晃星が器具を差し出す。
「あー、さっきの」
岩田が晃星を見る。
「風間って運動できない奴がいてさ。そいつが体育祭に向けて練習してんだよ」
一年生たちは岩田の話を聞いている。
「へぇー」
岩田は晃星を見る。
「しかも一年のお前に教えてもらってんだろ?」
「面白いよな」
岩田が笑う。
伊織はその言い方に怪訝な顔をする。
「……」
晃星は伊織に気づき、
「まぁまぁ」
と軽くなだめた。
器具を返し、二人がその場を離れようとしたところで、
「天川さん!」
一年生の一人が伊織を呼び止めた。
伊織が振り返る。
その一年生は、岩田と仲が良さそうに笑っている。
「俺、赤団だけど俺の応援してね!?」
伊織は何も返さなかった。
「美空さんと天川さん、二人に応援されたら俺、ぶっちぎりで一着取っちゃうから」
その一年生は誇らしげに笑う。
伊織は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべていた。
すると岩田が、その一年生に笑いながら声をかける。
「河野、ぶっちぎって一着取ったら、美空ってあの可愛い一年も河野のこと好きになるかもな」
「えー、じゃあ告っちゃおうかな」
河野がふざけて笑う。
伊織は二人をじっと見ていた。
その横で、晃星が一緒になって笑ってしまう。
「何笑ってんの!?」
伊織が晃星を睨む。
「あー、ごめんごめん」
晃星は笑いながら謝る。
「足速くて好きになるなんて、小学生の低学年くらいまでだろと思って」
「ははは!」
晃星は思わず爆笑する。
「ちょっと、あっきー!」
伊織が呆れたように声を上げる。
二人がその場を離れようとすると、晃星はふと背後から視線を感じた。
振り返る。
岩田と河野の二人が、こちらを睨みつけていた。
晃星は一瞬二人を見る。
だが、何も言わずに伊織とその場を離れた。
陸上部を離れ、晃星と伊織は並んで歩いていた。
「……なんか嫌な感じだね」
伊織がぽつりと言う。
「でも、風間先輩の目的はあいつに勝つことじゃないから!」
晃星が笑いながら言った。
「え!? 違うの?」
伊織が驚いたように晃星を見る。
「そうだよ」
晃星は風間から聞いた話を伊織に説明する。
「彼女は最後の体育祭だから、みんなで頑張っていい思い出にしたいって言ったんだって」
「うん」
「だから出場することになった100メートル走を頑張って、去年彼女に振られたのに、まだ諦めきれずに彼女にちょっかいを出そうとしてくる岩田にも、一矢報いたいって理由なんだよ」
伊織は少し驚いた顔のまま、黙って聞いていた。
「……え」
そして、さっきまでの険しい表情が少しずつ和らいでいく。
「え!? 素敵じゃん!」
伊織が嬉しそうに晃星を見る。
「自分が勝ちたいだけじゃなくて、彼女と一緒に最後の体育祭を頑張りたいってことでしょ?」
「そうそう」
「しかも、まだ彼女のことを諦めてない人がいるのに、それでも彼女と一緒に頑張ろうとしてるんだ……」
伊織は少し感心したように笑う。
「風間先輩、めっちゃいい人じゃん」
「でしょ?」
晃星も笑う。
「だから俺も付き合う気になったんだ」
「そっかぁ……」
伊織は納得したように頷く。
「それなら、あっきーが本気になるのも分かるかも」
「だろ?」
「うん!」
伊織は笑顔で頷いた。
それから晃星と風間は、できることを一つずつ積み重ねていった。
フォームの確認を繰り返し、短い距離から走る。
ハードルを使った足の運びの練習も続けた。
風間も練習を重ねるたびに、少しずつ走り方が変わっていった。
そして、やれることをやりつつ、体育祭前日を迎えた。
この日の練習も終わり、晃星が器具を片付けていると、応援団の練習を早く終えた伊織がやってきた。
「終わった?」
「うん。ちょうど今片付け終わるところ」
二人は一緒に部室へ戻るため、グラウンドを歩いていた。
そのときだった。
「あの……」
後ろから女子生徒に声をかけられた。
二人が振り返る。
そこにいたのは、ショートボブくらいの髪型をした、綺麗な顔立ちの女子生徒だった。
「駿太郎のトレーニングに付き合ってくれてる、よろずやの子だよね?」
「そうだけど?」
晃星が答える。
「私、駿太郎と付き合っている佐古楓です」
女子生徒が名乗る。
「あ、一年の桐生晃星です」
「一年の天川伊織です!」
二人も自己紹介する。
そして二人は、心の中で同時に思った。
――ええ!?
――楓先輩、想像よりずっと可愛いんですけど!?
「いつも駿太郎に付き合ってくれてありがとう」
楓が笑顔で言う。
「いや、俺、先輩気に入ったんで全然大丈夫ですよ」
晃星も笑って答える。
「私が余計なこと言って、駿太郎を焚き付けたみたいになっちゃって」
楓が苦笑する。
「でも、彼女の一言でそれだけ真剣になる彼氏、素敵ですよね!」
伊織が言う。
「そうだね」
楓も笑う。
「昔から、やると決めたら頑固だから」
「あと、あんな感じだけど優しいんだよね」
楓は少し照れながら続ける。
「勉強とかも優しく教えてくれるし。私があの人の興味ないこと話すると、ちゃんと調べてきて、それについて次の日にでも話してくれたりとか」
「そういうところが好きなんですね!」
伊織が笑顔で言う。
「うん」
楓は照れ笑いを浮かべる。
「いいなぁ、そういう優しい彼氏」
伊織が笑う。
「風間先輩頑張ってるんで、明日はみんなでいい思い出にできるといいですね!」
晃星が言う。
「みんなで頑張って白団勝ちましょう!」
伊織も笑顔で続ける。
「ありがとうね」
楓が二人に笑顔を向ける。
楓と別れ、晃星と伊織は部室へ戻った。
晃星が着替えている横で、伊織は何も気にせず話している。
「ねー、楓先輩、綺麗じゃない?」
「ね。俺もびっくりした」
晃星が笑う。
「優しさが好きになったとか、楓先輩もいい人なんだろね」
「そうだな」
二人は明日の体育祭に思いを寄せる。
「少しでもいい結果になるといいなー」
晃星が呟く。
「うん」
伊織も頷いた。
いよいよ明日は、体育祭当日だった。




