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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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体育祭の時期ですって

その日の朝。


 いつも通り学校が始まり、いつも通りの時間が過ぎていく――はずだった。


 ホームルームが始まると、担任が教卓の前に立った。


「じゃあ、今日は体育祭の種目を決めるぞ」


「え、もう体育祭?」


「そういえば、もうそんな時期か」


 教室のあちこちから声が上がる。


 突然出てきた体育祭の話に、あっきーは机に頬杖をついたまま黒板を見る。


「……体育祭か」


 特別楽しみというわけではない。


 体育祭そのものに、そこまで興味があるわけでもなかった。


 黒板に種目が書かれていく。


 短距離走。


 リレー。


 綱引き。


 その他にもいくつかの種目が並んでいく。


「短距離走、誰か出る?」


「リレーどうする?」


 クラスメイトたちが相談を始める。


「桐生は?」


「俺?」


 突然話を振られ、あっきーが顔を上げる。


「何出る?」


「まだ決めてない」


「短距離とかどう?」


「やらない」


「じゃあリレーは?」


「それもやらない」


「なんで?」


「大変そうだし」


 あっきーは淡々と答える。


「体育祭くらい頑張れよ」


「いやー、そこまで興味ないんだよな」


 そう言って、あっきーはまた机に頬杖をついた。


 しばらくして、今度は応援団を決めることになった。


「応援団やりたい人いる?」


 教室の前から声が上がる。


「私やる!」


 伊織が手を挙げた。


「伊織、やるんだ」


「うん。せっかくだし、ちゃんとやりたい!」


 伊織は迷うことなく答える。


 白団の応援団が決まっていく。


 周りも少しずつ盛り上がってきた。


「赤団には負けられないよね!」


「応援でも勝とう!」


 伊織もすっかりやる気になっている。


 そんな伊織を見て、あっきーは声をかける。


「伊織ちゃん、楽しんでね」


「うん!」


 伊織が笑顔で頷く。


 あっきー自身は体育祭にそこまで乗り気ではない。


 けれど、伊織がやる気満々なので楽しそうでいいな。


 あっきーにとっては、それくらいの感覚だった。


 そして、その日の夜。


 あっきーはいつものように、月姫とオンラインゲームをしていた。


『あっくん、そっち行ったよ!』


「おっけー」


『待って、まだ準備できてない!』


「もう敵来てるぞ」


『えっ、ちょっと待って!』


「遅い遅い」


『あっくんが早いの!』


 二人でそんなやり取りをしながらゲームを続ける。


 何戦か終わったところで、月姫がふと思い出したように言った。


『そういえば、今日体育祭の応援団決まったよ』


「へえ」


『私も応援団になった』


「……え?」


 あっきーの手が止まる。


「月姫、応援団やるの?」


『うん』


「知らなかった」


『今日決まったから』


「そうなんだ」


 あっきーは少し驚いた。


「月姫も応援団か」


『うん。クラスの子に誘われて、断れなくて』


「月姫らしいな」


『もう……』


 月姫が少しむくれた声を出す。


「でも、頑張って」


『うん』


「で、月姫は何団?」


『赤団』


「あ、俺と伊織ちゃんは白団だよ」


『じゃあ、あっくんとは敵だね』


「そうなるな」


『ふふっ』


「まあ俺は応援団じゃないけど」


『あっくんはやらないの?』


「やらないよ!大変そうだし」


『あっくんらしいね』


「体育祭って、そんなに頑張るもん?」


『私は頑張るよ』


「うん、月姫がんばれ!!」


『ありがと!あっくんと同じ団ならよかったのに…』


「何が?」


『なんでもない』


 月姫は少し黙ってから、話題を変えた。


『2、3年合同だから大変そう』


「へえ、二、三年合同なんだ」


『うん』


 二人はそのまま、またゲームを続けた。


 そして翌日。


 朝から学校が妙にざわついていた。


「なあ、美空さんって応援団やるんだろ?」


「そうらしい」


「なんかチアみたいな服装するって話もあるぞ」


「マジで?」


「まだ決まったわけじゃないらしいけど」


 どうやら、月姫が応援団でチアガールのような服装をするかもしれない、という噂が広がっているらしい。


 もちろん、まだ正式に決まったわけではない。


 それでも「美空さんがチアをするかもしれない」という話だけで、学校はかなりざわついていた。


 あっきーもその話を耳にする。


 そして、頭の中にチアガール姿の月姫を思い浮かべた。


 茶色の長い髪。


 大きな瞳。


「……うん」


 あっきーは小さく頷く。


「確かに似合いそう」


 単純にそう思っただけだった。


 一方、伊織たちは白団として、すでにかなり気合が入っている。


「赤団には負けられないよね!」


「うん!」


 伊織も拳を握る。


「絶対負けない!」


 あっきーはそんな伊織を見て、少し笑った。


「伊織ちゃんいるから白団は大丈夫だね」


「もちろん!」


 伊織は元気よく答えた。


 そして放課後。


 あっきーは学園よろずやの部室へ向かった。


「あ、そういえば」


 部室に入ると、あっきーが思い出したように口を開く。


「虎太先輩と奈緒ちゃんって、赤団なんだよね?」


「うん。そうだよ」


 奈緒が答える。


「じゃあ俺たちと敵じゃん」


「そういうことになるね」


 虎太が笑う。


「俺も応援団だからな」


「奈緒ちゃんも?」


「うん。私も応援団だよ」


 奈緒が頷く。


「月姫ちゃんと一緒」


「ああ、月姫も一緒なんだ」


 あっきーは少し安心したように頷いた。


「それならよかった」


「何が?」


 奈緒が首を傾げる。


「いや、月姫が一人でやるわけじゃないなら安心だなって」


「ふふっ。大丈夫だよ。月姫ちゃんのことは私たちがちゃんと見てるから」


「そっか」


 あっきーは納得する。


 すると虎太が思い出したように言った。


「そういえば、もうすぐ応援団の練習始まるから、その期間はここ頼むな」


「……え?」


 あっきーが顔を上げる。


「俺一人じゃん!」


「そうなるな」


 虎太が笑う。


「奈緒も応援団の練習あるからな」


「マジか……」


 あっきーは部室を見回した。


 しばらくの間、自分一人になるらしい。


「……誰も来ませんように」


「なんでだよ」


 虎太が笑う。


「一人のほうが気楽だから」


 あっきーは素直に答えた。


「まあ、お前らしいけどな」


 そんなやり取りをしていると、あっきーがふと思い出した。


「あ、そうだ」


「ん?」


 奈緒が顔を上げる。


「つか、赤団の女子ってチアガールの服装なの?」


「え?」


「朝からそんな噂聞くからさ」


「ああ……」


 奈緒は少し考えてから答える。


「まだ服装とかは決まってないよ?」


「そうなんだ」


 あっきーは納得する。


 そして、奈緒を見る。


「……奈緒ちゃんも似合いそうだな」


 あっきーがニヤける。


「えっ……」


 奈緒の頬がほんのり赤くなる。


「な、何が?」


「チア」


「……」


 奈緒は照れたように視線を逸らした。


「そ、そうかな……」


「うん。普通に似合いそう」


 あっきーは何気なく言う。


「……もう、あきくんは……」


 奈緒は頬を赤くしたまま、小さく呟いた。


 そして――数日後。


 いよいよ応援団の練習初日を迎えた。


 放課後になると、各学年の応援団員がグラウンドに集まっていた。


 白団と赤団。


 それぞれの団員が集まり、これから始まる練習について説明を受けている。


 白団の列に並んでいた伊織は、ふと二年生の応援団へ目を向けた。


「……え」


 そこに、見覚えのある顔があった。


 藤宮梨愛。


 生徒会副会長でもある梨愛だった。


 伊織の表情が変わる。


 さっきまでの明るい雰囲気が消え、梨愛を見る目が警戒するように細くなった。


 ――なんで、ここに……。


 すると、梨愛も伊織の存在に気づいた。


「あー!」


 梨愛がぱっと表情を明るくする。


「いおりんも応援団なんだ~?」


「……」


 伊織は警戒したまま、梨愛を見る。


「そうだけど」


「そっかそっか~」


 梨愛はにこにこと笑いながら、伊織へ近づいてくる。


「同じ白団なんだね~」


「……うん」


「じゃあ、いおりんのとこの部長に奈緒もいるから、絶対に負けないようにしようね!」


 梨愛は笑顔で言った。


「うん……」


 伊織は短く返す。


 梨愛は相変わらず笑顔だった。


 けれど、その顔は笑っているだけ。


 目は、まったく笑っていなかった。


 そして梨愛は、伊織から少し離れると、何気ない様子で赤団へ視線を向けた。


 そこには、赤団の応援団として集まっている虎太と奈緒、そして月姫の姿があった。


 奈緒と月姫は、仲良さそうに話している。


 虎太もその近くにいる。


 梨愛は三人をじっと見つめた。


 やがて、その口元から笑顔が消える。


「……あんな奴らに」


 誰にも聞こえないほどの小さな声。


「……負けないから」


 梨愛の目に、鋭い対抗心が宿った。


 その視線の先で、赤団の応援団員たちはこれから始まる練習の説明を受けている。


 応援団練習初日。


 白団と赤団。


 まだ何も始まっていない。


 それでも梨愛の中では、すでに静かな火花が散っていた。

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