絶賛キュンキュンいただいてます!
三人がハンバーガーセットを持って戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
三人がそれぞれ席に座る。
あっきーは三人のトレーを見ながら、少し考えた。
「あー、ハンバーガーもいいなー。何にしようかなー」
そう言ってから、ふと思い出す。
「でも朝、伊織ちゃんにピザトースト作ってもらったから、米にしようかな」
「え!?」
「え!?」
なっちとニコが同時に声を上げた。
「ちょっと待って! あっきーくん、朝ごはん伊織に作ってもらったの?」
「普通にうん。おいしかったよ」
あっきーは何でもないことのように答え、そのまま定食屋へ向かった。
「あ! ヤバい!」
伊織が小さく声を上げる。
「伊織?」
「いや、それはね……」
慌てて説明しようとする伊織に、なっちが食い気味に言った。
「伊織、それはさすがにもう言い逃れできないよ」
「え?」
「どこにお泊まりしたのよ」
「してないって!」
「ほんとに?」
「ほんとだって!」
ニコも隣でコクコクとうなずく。
「伊織も知らない間に女になったんだね」
「ニコまで!?」
伊織が顔を赤くしているところへ、あっきーが戻ってきた。
「なに? 伊織ちゃんテンションひくっ!!」
「……別に」
「やっぱハンバーガーだけじゃ足りないんだろ」
「こいつ……」
伊織がジト目であっきーを見る。
そのとき、あっきーの呼び出しブザーが鳴った。
「あ、できた」
あっきーが席を立ち、料理を受け取りに向かう。
しばらくして戻ってきたあっきーの手には、カツ丼とざるそばのセットがあった。
「いただきます」
あっきーは勢いよく食べ始める。
カツ丼を頬張り、ざるそばを啜り、またカツ丼を食べる。
「うまっ」
満足そうに食べ進めていく。
そんなあっきーの向かいで、伊織がチラチラとカツ丼を見ていた。
――え!? 何コイツ。
友達いるのにめっちゃカツ丼見てくんじゃん。
伊織はなっちやニコと話しながらも、またカツ丼を見る。
――チラチラ見てくんなぁ! もう!!
あっきーは箸でカツを一切れつまんだ。
「食べる?」
伊織は無意識に口を開ける。
あっきーはそのままカツを食べさせる。
伊織は何も考えず、モグモグと食べた。
「はいはい、ご飯もだろ」
今度はご飯も箸ですくって差し出す。
伊織はまた自然に口を開け、そのまま食べた。
「ありがと」
本人は何も気にしていない。
それを見ていたなっちとニコは、顔を見合わせる。
「伊織なんか、もうあーんなんて普通なんだね」
「なんか自然すぎて夫婦みたい」
「え!?」
ここで初めて、伊織が自分のしていたことに気づいた。
「ち、違うから!」
伊織が慌てる。
あっきーは何がそんなに面白いのか分からず、首を傾げている。
その後も、あっきーはガツガツとご飯を食べ続けた。
「ふぅ……」
最後まで食べ終えると、満足そうに息を吐く。
「うまかったー!」
あっきーは食器をまとめて立ち上がった。
「食器返してくるついでにトイレ行ってくる!」
「うん」
あっきーはトレーを持ち、そのまま席を離れていった。
あっきーの姿が見えなくなったところで、なっちが伊織に身を寄せる。
「ねえ!」
「何?」
「あっきーくん、めっちゃ余裕あるし良いじゃん!?」
「え?」
「良い男見つけたね」
「ちょ、ちょっと!」
伊織が慌てる。
「そんなんじゃないって!」
すると、ニコが伊織を見る。
「あっきーくんに彼女できたら嫌じゃないの?」
「え!?」
伊織が目を丸くする。
そんなことを聞かれるなんて、考えたこともなかった。
「……」
あっきーに彼女ができる。
そう考えた瞬間、伊織の頭の中にいろんなことが一気に浮かんできた。
今みたいに一緒にいる時間が減る。
学校でも今までみたいに話せなくなる。
お弁当を取られることもなくなる。
一緒に遊ぶことも減る。
そして――。
あっきーが、自分じゃない女の子と楽しそうにしている。
「……」
嫌……なのかな?
でも、なんで?
そもそも自分はあっきーのことを――。
「……」
考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
「伊織?」
「えっと……」
なっちとニコが伊織を見る。
「あー、もういい!!」
「え?」
「考えないで!」
なっちが慌てて止める。
「ニコ、もう考えさせちゃダメ!」
「うん!」
「伊織、もうそのこと考えなくていいから!」
「え、でも……」
「いいの!」
二人が伊織の思考を強引に止める。
「……うん」
伊織はまだ戸惑ったまま、二人を見る。
そのとき――。
「ただいまー!」
三人が一斉に振り返った。
「……え?」
戻ってきたあっきーは、何か大きなものを抱えていた。
「ちょっと待って!」
伊織が目を見開く。
それは、ゲームセンターで伊織が欲しがっていた大きなぬいぐるみだった。
「それ……!」
「ああ、これ?」
あっきーは笑顔でぬいぐるみを見せる。
「取れそうだったから、やってみたら一発で取れた」
「一発!?」
なっちとニコが驚く。
「うん」
あっきーはぬいぐるみを伊織に差し出す。
「伊織ちゃん欲しいって言ってたから」
「……!」
伊織がぬいぐるみを見る。
そして、あっきーを見る。
なっちとニコは顔を見合わせた。
――キュン。
――キュンキュン。
二人の中で、キュンキュンが止まらない。
伊織は大きなぬいぐるみを受け取ると――。
「あっきー!」
そのまま、ぎゅっとぬいぐるみに抱きついた。
「ありがとう!!」
嬉しそうな笑顔。
「あっきーが取ってくれたの?」
「うん」
「ありがとう!」
「そんな喜ぶ?」
あっきーも嬉しそうに笑う。
「ししし」
いたずらっぽく笑うあっきーを見て、なっちとニコはまた顔を見合わせた。
――キュンキュンが止まらない。
伊織も、大きなぬいぐるみを抱きしめたまま、嬉しそうに笑っていた。
昼食を終え、四人はフードコートを出た。
しばらく館内を歩いたところで、なっちが隣のニコに声をかける。
「じゃあ、そろそろ私たち行こっか」
「そうだね」
二人が足を止める。
「伊織、あっきーくんまたね!」
「うん! またね!」
伊織も笑顔で手を振る。
「あっきーくんも、またね!」
「うん、またね」
あっきーも笑顔で手を振った。
「じゃあねー!」
「またね!」
そうして、二人は別々の方向へ歩き始めた。
なっちとニコも歩き出したが、少し進んだところで、二人とも同時に振り返った。
「……」
「……」
少し離れたところを、あっきーと伊織が歩いている。
伊織は、さっきゲームセンターで取ってもらった大きなぬいぐるみを抱えていた。
「……あ」
しばらくすると、あっきーが伊織の様子に気づいた。
そして、やれやれと言わんばかりに手を伸ばす。
「それ、持つよ」
「え? いいの?」
「大きいし」
「あ、じゃあお願い!」
あっきーがぬいぐるみを受け取る。
「ありがと!」
伊織は嬉しそうに笑いながら、あっきーの隣を歩いていく。
そんな二人の姿を、なっちとニコは少し離れたところから眺めていた。
「……キュンキュンしたよね」
なっちが笑う。
「うん。めっちゃした」
ニコも笑顔で頷く。
「付き合ってないんだったら、距離感バグってるよね」
「ほんとそれ」
二人は顔を見合わせて笑った。
それでも、二人には分かっていた。
伊織があんなに自然な笑顔で誰かと一緒にいること。
昔から知っている友達だからこそ、それがなんだか嬉しかった。
「伊織、幸せそうだね」
「うん」
「よかった」
「うん。ほんとにね」
二人はもう一度、遠ざかっていく伊織とあっきーを見る。
大きなぬいぐるみを持って歩くあっきーの隣で、楽しそうに話す伊織。
その姿を見ながら、なっちとニコは笑った。
「伊織が幸せなら、それでいいよね」
「うん」
二人はそう言って、今度こそ振り返らずに歩き出した。




