これが噂の侍ね!
ショッピングモールに到着した二人は、さっそく服屋を見て回っていた。
「とりあえず薄手の上着みたいなのと、ロンTが欲しいんだよなー」
あっきーが店内に並んだ服を眺めながら呟く。
「これがいいんじゃない?」
伊織が一着の薄手の上着を手に取って、あっきーに合わせてみる。
「これ?」
「うん。似合いそうじゃん」
「いや、派手すぎるって!」
「えー、そう?」
伊織が楽しそうに笑う。
「じゃあ、こっちは?」
「それなら……まあ、いいかも」
「でしょ?」
「でも伊織ちゃん、さっきから派手なのばっかり選んでない?」
「だって、あっきー地味なのばっかり選ぶんだもん!」
「普通でいいんだよ、普通で!」
「あはは!」
二人は顔を見合わせて笑った。
その後も何軒かの店を回りながら、伊織が服を選び、あっきーが試着する。
「これどう?」
「おお、いいじゃん!」
「ほんと?」
「うん。これは普通に似合ってる」
「じゃあ、それ買おうよ!」
「伊織ちゃんがそこまで言うなら」
そんなやり取りを繰り返し、二人は何着かの服を購入した。
「よし!」
買った服の入った紙袋を手に、あっきーが満足そうに頷く。
「これでとりあえず秋は大丈夫だな!」
「よかったじゃん」
「いやー、服買うのって結構疲れるな」
「私は楽しかったけど」
「伊織ちゃんは選んでただけだろ!」
「失礼だな!」
二人で笑いながら歩いていると、伊織が突然足を止めた。
「あっ!」
「どうした?」
「ゲームセンターじゃん!」
目の前にはゲームセンターがあった。
「クレーンゲームやろ?」
「えー?!」
「ほら、行こう!」
伊織に促され、二人はゲームセンターへ入っていく。
「何狙う?」
「私はあれ!」
伊織が指差した先には、大きなぬいぐるみが入ったクレーンゲームがあった。
「いや、あれ結構難しくない?」
「でも欲しい!」
「じゃあ、どうやって取るか考えるか」
二人は筐体の前に並び、景品を眺めながら作戦を話していた。
その時だった。
「――伊織!」
「え?」
突然、後ろから名前を呼ばれた。
伊織が振り返る。
「……えっ?」
そこに立っていたのは、二人の女子だった。
「なっち? ニコ?」
中学時代の同級生だった。
「あれ? なんでこんなショッピングモールに?」
伊織が驚いたように尋ねる。
「たまにはここ来てみようかなって」
なっちが笑顔で答える。
「そっか!」
伊織も笑顔になる。
すると、なっちがちらっとあっきーを見る。
そして伊織の耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「伊織、あんたやっぱ彼氏いるんじゃん!」
「えっ!?」
伊織の顔が一気に赤くなる。
「い、いや、彼氏じゃないし!」
慌てて否定する伊織。
「ほんとに?」
「ほんと!」
なっちはニヤニヤする。
その隣では、ニコが微笑んでいた。
「あ、伊織ちゃんの友達?」
あっきーが二人に気づいて声をかける。
「初めまして」
笑顔で挨拶するあっきー。
「初めまして!」
なっちも笑顔で返す。
「初めまして」
ニコも少し緊張しながら頭を下げた。
「えっとね、この二人は私の中学の時の友達」
伊織が二人を紹介する。
「こっちがなっち。こっちがニコ」
「よろしく!」
なっちが笑顔で手を上げる。
「よろしくお願いします」
ニコも穏やかに挨拶する。
「で、こっちがあっきー。私の友達」
「よろしく」
あっきーが笑う。
そんな時、なっちが何かを思い出したように口を開いた。
「あ、そうだ」
「なに?」
伊織が振り返る。
「前に同窓会で話題になってたカフェで、一緒にパフェ食べてたっていうのも……このあっきーくん?」
「えっ……」
伊織の動きが止まる。
「う、うん……」
小さく頷く伊織。
「やっぱり!」
なっちがニヤニヤし始める。
「ちょ、ちょっと、なっち!」
「だってさぁ、伊織が男の子と二人でパフェ食べてたって、みんな結構話してたんだよ?」
「もう、その話はいいじゃん!」
「えー、気になるじゃん」
「だから違うって!」
「はいはい」
ニヤニヤするなっちと、慌てて否定する伊織。
その様子をニコが微笑みながら見ていた。
そんな中、あっきーがニコを見る。
「そういえば…」
「え?」
「ニコちゃんってかわいい呼び方だね」
「……!」
ニコが少し驚いたように目を瞬かせる。
「そ、そうかな……」
「うん。なんかいい呼び方だよね」
気さくに笑うあっきー。
ニコは少し恥ずかしそうに視線を落とした。
「む、昔からだから……」
「へえ、昔からなんだ」
「うん……あだ名で……ずっと……」
「そうなんだ」
あっきーが頷く。
「あ、俺も『あっきー』って保育園の頃からだから!」
そう言って笑う。
「……ふふっ」
ニコの表情が柔らかくなる。
人見知り気味だったニコも、気さくに話してくれるあっきーに、少しずつ自然な笑顔を見せるようになっていた。
「なんか、話しやすいね」
「ほんと?ニコちゃんも話しやすいね」
あっきーが笑う。
その様子を見ていたニコも、嬉しそうに微笑んだ。
あっきーはふと、なっちと伊織を見る。
「こうして見ると、なっちゃんってなんか伊織ちゃんと似てそうだね」
「え?」
ニコが二人を見る。
「二人とも元気だから」
あっきーが笑う。
ニコも二人を見ながら微笑んだ。
「そうかも」
その時、ふとなっちがニコを見る。
「……あれ?」
「ん?」
伊織がなっちを見る。
「ニコが初対面で、あんな普通に話してるの見るの初めてかも」
「あー、確かに」
伊織もニコを見る。
ニコは少し人見知りしながらも、あっきーとは自然に会話を続けていた。
「バカだから話しやすいのかな?」
「ちょっと?伊織ちゃん!?」
あっきーがすぐに反応する。
「あはは、ごめんごめん!」
伊織が笑う。
「でも、あっきーって学校ではあんな感じじゃないけどね」
伊織が話す。
「学校ではもっと大人しいっていうか……」
「なんか目立たないように気をつけてるらしいから」
「へえ……」
なっちが少し意外そうな顔をする。
「そうなんだ?」
「うん」
伊織が頷く。
「本人がそう言ってるから」
ニコがあっきーを見る。
「でも……私は話しやすいよ」
「ほんと?」
あっきーが笑顔になる。
「うん」
「じゃあよかった」
あっきーも笑顔を返した。
しばらく四人で話していると、あっきーがふと口を開く。
「じゃあ、俺なんなら一人で本屋とか行ってくるから、三人で遊んでたら?」
すると、なっちが伊織を見る。
「……」
ニヤニヤ。
「え?」
伊織が怪訝そうな顔をする。
「いや?」
「なに、その顔!」
「別にぃ?」
なっちは楽しそうに笑った。
「それはダメでしょ」
「なんで?」
「せっかく会ったんだから、四人で遊ぼうよ」
ニコも小さく頷く。
「うん……一緒でいいと思う」
「じゃあ、いいか」
あっきーが笑う。
すると、なっちが二人を見る。
「ご飯まだなら、一緒にちょっと遅めのお昼ご飯でもどう?」
「あー、確かに。朝遅かったから昼ご飯まだだね」
伊織が頷く。
すると、あっきーが伊織を見る。
「伊織ちゃん、お腹ペコペコでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
「やっぱり」
「もう、そういうの言わなくていいから!」
「え? なんで?」
「デリカシーない!」
「そうか!ごめんね!」
四人はそのままフードコートへ向かった。
昼食には少し遅い時間だったが、フードコートは意外と混んでいる。
「あ、あそこ!」
伊織が空いたテーブル席を見つけた。
「俺がここ座ってるから、先に買ってきなよ」
あっきーが席に座る。
「いいの?」
「うん。場所取っとくから」
「じゃあお願い」
三人はハンバーガーショップへ向かい、注文の列に並んだ。
しばらくすると、なっちが伊織に話しかける。
「あっきーくん、優しいじゃん?」
「まあ……そうだね」
「ほんとは王子様でしょ?」
「違うし!」
伊織が即座に否定する。
「絶対違うから!」
「でも、ちゃんと席取ってくれてるよ?」
「それはそうだけど……」
伊織があっきーのほうを見る。
「……あれ見てよ」
なっちとニコも、伊織の視線を追う。
あっきーはテーブル席に座り、足を少し広げて腕を組んでいた。
周囲を気にしながら、四人分の席をしっかり確保している。
その姿を見た伊織が、思わず笑う。
「王子様ってより侍って言ったの、わかるでしょ?」
「……確かに!」
なっちが吹き出す。
「ふふっ……確かに」
ニコも笑う。
三人は顔を見合わせて笑った。
そんなことを言われているとは知らないあっきーは、少し離れたテーブルで、四人分の席を守るようにじっと座っていた。




