男なんてみんなそんなもんです
日曜日。
晃星が二階からリビングへ降りてくると――
「だからね、それでね!」
「へぇ~!」
「それは面白いな!」
リビングでは、伊織が晃星の両親と楽しそうに話していた。
「……」
晃星が階段を降りてきても、誰も気にしていない。
いや、正確には気づいているのだろうが、話が盛り上がっていて、それどころではないらしい。
「……あの」
晃星が恐る恐る声をかける。
「ん?」
母が振り返る。
「あの……俺の朝ごはんは?」
「え?」
母が時計を見る。
「朝じゃないから、もう片付けたけど?」
「……」
晃星は時計を見る。
確かに、もう朝と言うには遅い時間だった。
「……マジか」
「ドンマイ」
伊織が笑う。
「ドンマイだな」
父まで笑っている。
「なんで二人ともそんなに他人事なんだよ……」
「パンならあるよ」
母がキッチンを指差す。
「……パンだけ?」
晃星がため息をつく。
すると――
「じゃあ!」
伊織が勢いよく立ち上がった。
「私が作ってあげるよ!」
「え? いいの?」
晃星が少し驚く。
「任せて!」
伊織は胸を張った。
「ピザトーストと目玉焼きくらいなら、すぐできるよ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん!」
伊織は嬉しそうにキッチンへ向かった。
ピザソースを塗り、チーズを乗せ、具材を乗せていく。
その横ではフライパンに卵を落とした。
しばらくして――
「できた!」
テーブルにピザトーストと目玉焼きが並ぶ。
「おお……」
晃星が嬉しそうに席につく。
「いただきます」
一口食べる。
「……うまい」
「ほんと!?」
伊織の顔がぱっと明るくなる。
「うん。普通にうまい」
「ふふん!」
伊織が胸を張る。
「伊織様ありがとうございます」
晃星がわざとらしく頭を下げる。
「よろしい!」
伊織はさらに得意げになる。
その様子を――
晃星の両親が並んで眺めていた。
「……」
「……」
二人とも、ニヤニヤしている。
「……なに?」
伊織が二人を見る。
「いやぁ?」
母が笑いを堪える。
「仲良いなぁと思って」
「そうだな」
父もニヤニヤしながら頷く。
「もう完全に家族みたいだな」
「えっ!?」
伊織の顔が一気に赤くなる。
「ち、違うから!」
晃星はピザトーストを頬張りながら、そんな三人を見ていた。
「……なんなんだよ、この家」
リビングには、楽しそうな笑い声が響いていた。
「加奈ちゃん、いつだっけ?」
父が、ふと思い出したように母へ尋ねる。
「あー」
母は少し考える。
「後数年後かな?」
「何が?」
晃星と伊織が、ほぼ同時に聞き返す。
父は二人の顔を見て――
真顔で答えた。
「ん?」
「伊織ちゃんが嫁いでくる時期」
「ぶっ――!」
晃星は飲んでいた牛乳を吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
「ちょっ……!」
伊織の顔は一瞬で真っ赤になる。
「な、なに言ってるの!?」
「いや、だってそうだろ?」
父は真顔のまま答える。
「……!」
伊織は恥ずかしそうに両手を振る。
「違うから!」
晃星も必死に平静を装う。
「ていうか、あっきーパパまでママみたいなこと言わないでよ!」
伊織は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いた。
「だって――」
父は伊織を見る。
「俺、伊織ちゃん以外の子が嫁いできても、もう嫌なんですけどー」
「えぇ!?」
伊織がさらに顔を赤くする。
「ちょっと、もう!」
母はそんな二人を見て、楽しそうに笑った。
「まぁまぁ」
「もっと早くなるかもしれないから、プレッシャーかけないであげて」
「ママまで!」
伊織は両手で顔を隠す。
晃星も牛乳を飲み直しながら、呆れたように呟いた。
「……朝から何の話してんだよ、うちの親」
「ふふふ」
母は楽しそうに笑う。
父も満足そうに頷く。
そして伊織だけが――
「もう……恥ずかしい……」
真っ赤な顔のまま、俯いていた。
すると、何かを思い出したように伊織が顔を上げた。
「……あ!」
「ん?」
父が伊織を見る。
「だから、あっきーは月姫とか奈緒先輩にも手出してるから!」
「何ぃ!?」
父の表情が一変した。
「ちょ、パパ!?」
「とりあえず二人とも家に連れてきなさい」
「……」
伊織がジト目で父を見る。
「……あっきーパパ」
「ん?」
「二人がどんな子か見たいだけでしょ」
「そ、そんなことない」
父は慌てて否定する。
そして、にこっと笑った。
「俺は伊織ちゃんが一番だと思ってるよ」
「……」
伊織はさらにジト目になる。
「ママ」
「なに?」
「男って嫌だね」
「ふふっ」
母が笑う。
「まぁ、そういうところあるかもね」
「だって!」
伊織は再び父を見る。
「あっきーなんて、前ここで餃子パーティやった時から、月姫に膝枕しまくってもらってるんだよ?」
「……」
父の目が丸くなる。
「膝枕……?」
「そう!」
伊織は少しむくれながら頷く。
「何回も!」
母が伊織の顔を見て、優しく笑う。
「伊織ちゃん、妬かないよ」
「や、妬いてないし!」
伊織が即座に否定する。
「全然妬いてないから!」
「ふふふ」
母は楽しそうに笑う。
その横で、父が晃星を見る。
「おい、晃星」
「……なに?」
「今度、近いうちに連れてこいよ」
「え?」
「月姫ちゃんと奈緒ちゃん」
「……」
晃星が固まる。
そして――
伊織が、ゆっくり父を見る。
「……パパ?」
「ん?」
伊織はジト目で父を睨んだ。
「……やっぱり見たいだけじゃん」
「いや、違うって!」
父が慌てて弁解する。
「俺は伊織ちゃんが一番だから!」
「……もう知らない」
伊織はぷいっと顔を背ける。
その様子を見て、母はまた楽しそうに笑っていた。
晃星はそんな家族のやり取りを眺めながら、静かに牛乳を飲む。
「……俺、悪いやつみたいになってない?」
「自業自得じゃない?」
伊織が即答する。
「なんでだよ!」
リビングに、また笑い声が響いた。
「……じゃあ、出かけてこようかな」
晃星がそう呟いた。
「どこ行くの?」
伊織がすぐに聞き返す。
「いや、そろそろ寒くなってきてるし」
晃星は窓の外を見ながら答える。
「そこのショッピングモールで、秋服でも買ってこようかなって」
「じゃあ、私が選んだげるよ!」
伊織が勢いよく手を挙げる。
「あ、大丈夫」
晃星は即答した。
「なんでよ!」
伊織がむっとする。
「私も見たいのに~」
「いや……自分で選べるし」
「いいじゃん! 一緒に行こうよ!」
伊織が晃星の横でぶつぶつ言っていると、母が二人を見る。
「じゃあ、二人で行ってきたら?」
「え?」
「せっかくだし、伊織ちゃんに選んでもらえばいいじゃない」
「……」
晃星は伊織を見る。
伊織は期待に満ちた目で晃星を見ている。
「……まぁ、いいか」
「やった!」
伊織が嬉しそうに笑う。
すると――
「なんか不満気じゃない?」
伊織が晃星の顔を見る。
「いや、全然!」
晃星は不自然なほど勢いよく首を横に振った。
「ほんと?」
「ほんとほんと!」
「……怪しい」
伊織はジト目で晃星を見る。
「まぁ、いいけど」
二人はそれぞれ出かける準備を始める。
秋の休日。
伊織と晃星は、ショッピングモールへ向かうことになった。




