いつもの学園よろずや
討論会が終わり、部室には少しだけ穏やかな空気が戻っていた。
晃星は、まだ月姫の膝枕の上にいる。
「……まだ膝枕してもらったままだった」
「ふふっ。今さら気づいたの?」
月姫は楽しそうに笑った。
その時――
「ガラッ」
部室の扉が開いた。
「……あれ?」
入ってきたのは、梨愛だった。
そして部室の中を見渡した瞬間――
「……え?」
「……なんで?」
梨愛の視線が、月姫の膝に乗っている晃星へ向けられる。
「なんでヒメちゃんが?」
「え? 普通でしょ?」
晃星が何気なく答える。
「……普通?」
梨愛の表情から、笑顔が消える。
少し間を置いて、梨愛が口を開いた。
「さっきの抗議文も……あんたのお友達?」
「え?」
晃星は首を傾げた。
「いや、あれはなんだろ?」
すると月姫が、静かに答える。
「そうだよ」
「みんな、あっくんのこと大事に思ってるから」
「……プリンセスの方か」
梨愛が月姫を見る。
「自分じゃ何もできないからって、周りに頼るんだ」
そして、薄く笑った。
「ほんと、お姫様ね!」
月姫は表情を変えずに答える。
「私は話しただけだよ」
「それでも、みんながあっくんのために動いた」
「だって、あっくんのことを大事に思ってる友達だから!」
晃星は、少し驚いたように二人を見る。
「……そうだったんだ」
そして、小さく呟いた。
「……あいつら」
「ありがとう」
梨愛はその言葉を聞いて、顔を伏せる。
「……何が友達よ」
そして、扉へ向かう。
「もういい」
「ガラッ」
扉を開けると、梨愛は振り返らずにそのまま部室を出ていった。
梨愛がいなくなった部室に、しばらく静かな空気が流れる。
晃星が月姫を見る。
「……ありがとな、月姫」
「別に?」
月姫はそっぽを向いた。
少しだけ頬が赤い。
そして、照れ隠しをするように手元のお菓子を一つ取ると――
「はい」
「え?」
ぽいっ。
晃星の口に、そのままお菓子を入れた。
「……んぐ」
「ふふっ」
月姫は何事もなかったように笑った。
その時――
「ガラッ!」
部室の扉が開いた。
「ただいまー!」
伊織、虎太、奈緒の三人が戻ってきた。
伊織は部室に入るなり、月姫と晃星を見る。
そして――
眉をひそめた。
「……」
しかし、すぐに小さくため息をつく。
「……まぁ、いっか」
そして笑顔になり、晃星とハイタッチする。
「お疲れ、あっきー!」
「お、お疲れ……」
続いて月姫を見る。
「お疲れ、伊織」
「ほんとよ」
伊織も笑顔で返す。
そして――
「で!?」
伊織が晃星を見る。
「……あっきーは、いつまでそこにいるのかな?」
晃星は、伊織の笑顔を見つめる。
「あ、あれ?」
「顔笑ってるけど……」
「いつもより怖いぞ」
晃星はそっと月姫の膝から離れた。
「……」
伊織がじっと見る。
「ずっと?」
「いや……」
晃星は苦笑する。
「伊織ちゃんが、ぽやーっとした顔してたから」
「そしたら、いつもどおりになったでしょ!」
月姫が胸を張る。
「最高の後方支援だったよね!」
「まぁ、確かにな」
虎太が苦笑する。
「私もそう思うよ」
奈緒も笑った。
「まぁ、それはいいとしても……」
伊織が晃星を見る。
「なんで今までやってたのかな?」
「それはそうだね」
奈緒もムッとした表情を浮かべて頷く。
その瞬間――
「ギュッ」
伊織が、いつものように拳を握った。
「いや、それは……」
危険を察知した晃星は、素早く月姫の後ろへ隠れる。
「伊織! 叩くのはダメ!」
月姫が怒った声を出す。
「え?」
伊織は、きょとんとする。
「まだ叩いてないけど……」
「そういう問題じゃないの!」
「えぇ……」
伊織は困ったように月姫を見る。
そして――
「なんで月姫があっきー側なの!?」
「いつも私の味方じゃーん!」
「だって……」
月姫は少し困ったようにしながら、後ろに隠れている晃星を見る。
「今回は、あっくん悪くないもん」
「月姫……!」
晃星は感動したように呟いた。
そして――
月姫の後ろから、そっと顔を出す。
「……」
伊織と目が合う。
晃星はニヤッと笑って――
「……べー」
「……」
伊織の顔から笑顔が消えた。
「……おい」
「……はい」
「ちょっとこっち来ようか?」
「いや、それは……」
晃星が後ずさる。
しかし――
「逃げるなー!!」
「うわっ!」
伊織が追いかける。
「待って! 話し合おう!」
「問答無用!」
「いやぁぁぁ!」
――ゴンッ!
「いったぁぁぁ!」
結局、晃星の頭に伊織のゲンコツが落ちた。
「もう……調子に乗るからよ」
伊織が呆れたようにため息をつく。
「……痛い」
晃星は頭を押さえながら、ふらふらと後ろへ下がる。
そして――
ぽすっ。
そのまま月姫の膝へ倒れ込んだ。
「……」
「……」
部室が一瞬、静まり返る。
伊織が目を見開く。
虎太と奈緒も、晃星と月姫を見る。
そして――
「……結局そこかい!!」
伊織のツッコミが部室に響き渡った。
「はははは!」
「ふふっ……!」
よろずやの笑い声が、再び部室いっぱいに広がった。




