仕事の一貫でも気になります
球技大会まで、あと三日。
昼休み。
俺と天川さんは、教室で球技大会の参加者を確認していた。
「男子サッカーのメンバー、変更ある人いる?」
「俺、やっぱり補欠にしてくれ」
「何で?」
「昨日、足ひねった」
「分かった。先生に伝えとく」
天川さんが名簿に書き込む。
「女子バレーは……変更なし、と」
「よし」
これで俺たちのクラスの確認は終わった。
「じゃあ、次は他のクラスの確認だな」
「うん」
俺たちは資料を持って教室を出た。
実行委員として、各クラスを回る。
廊下を歩いていると――。
「あ、桐生くん!」
後ろから声がした。
振り返る。
「朝倉さん?」
朝倉さんが小走りで近づいてくる。
「ちょうどよかった!」
「どうした?」
「球技大会のことで、ちょっと確認したいことがあって」
「何?」
朝倉さんが手元のプリントを見せる。
「女子バレーの集合時間なんですけど……」
俺がプリントを確認する。
「これって、ここに書いてある時間で合ってますか?」
「ああ。ちょっと見せて」
俺がプリントに目を通す。
「うん、これで合ってる」
「よかった!」
朝倉さんがホッとしたように笑う。
「ありがとうございます!」
「いや、これも実行委員の仕事だから」
「でも助かりました」
朝倉さんが笑う。
「球技大会、頑張らないと」
「うん、頑張って! 応援してる」
「はい!」
朝倉さんが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、私、練習行ってきます!」
「ああ」
「失礼します!」
朝倉さんは体育館の方へ走っていった。
「……元気だな」
「昨日より楽しそう」
天川さんがその背中を見ながら言う。
「球技大会が近づいてきたからかな」
「それもあるかもね」
俺たちは次のクラスへ向かった。
⸻
放課後。
実行委員の仕事を終えた俺たちは、体育館へ向かった。
女子バレーの練習が行われているらしい。
「ちょっと見ていく?」
「実行委員として?」
「そう」
「まあ、いいけど」
体育館の扉を開ける。
「朝倉、ナイス!」
「もう一本!」
「はい!」
朝倉さんがボールを追いかける。
レシーブ。
トス。
そして――。
「えいっ!」
強烈なスパイクが決まった。
「ナイス!」
周りから歓声が上がる。
「……すご」
思わず声が出た。
「バレー部って、あんな感じなのか」
「朝倉さんが特別なんじゃない?」
天川さんが言う。
「確かに」
朝倉さんは息を切らしながらも、楽しそうに笑っていた。
その姿は、部室で恋愛相談をしていた時とは別人みたいだった。
「桐生くん」
「ん?」
「また見てる」
「いや、今度はちゃんと仕事してるだけだ」
「ふーん」
「本当だって」
「まあ、いいけど」
その時だった。
「朝倉!」
体育館の入口から声がした。
朝倉さんが振り返る。
「あ……」
その瞬間。
朝倉さんの表情が少し変わった。
さっきまでの明るい笑顔とは違う。
少しだけ緊張している。
「どうした?」
「え?」
「いや、あの人……」
俺が入口を見る。
そこには、一人の男子生徒が立っていた。
見覚えがある。
名前まではすぐに出てこない。
だけど――。
どこかで見たことがある。
「朝倉、まだ帰らないの?」
「う、うん。今帰るところ」
「そっか」
男が笑う。
「じゃあ、一緒に帰ろうぜ」
「……うん」
朝倉さんが少し戸惑いながら答える。
その様子を見ていると、天川さんが小さく呟いた。
「……あの人が?」
「たぶん」
「朝倉さんの好きな人?」
「……そうだろうな」
男は朝倉さんに近づく。
「じゃ、行こうぜ」
「うん」
二人が体育館を出ていく。
「……」
「桐生くん」
「ん?」
「何か気になる?」
「いや」
俺は首を振る。
「そっか」
天川さんもそれ以上は言わなかった。
――球技大会まで、あと三日。
朝倉さんは、ちゃんと自分の気持ちを伝えられるんだろうか。
俺たちにできるのは、見守ることくらいだった。




