とりあえず、やることはやります
翌日。
昼休み。
俺は教室で弁当を食べながら、昨日のことを思い出していた。
学園よろず屋。
まさか自分が入ることになるとは思わなかった。
しかも、最初の依頼が恋愛相談。
「……」
向かいでは、天川さんが弁当を食べている。
「なあ、天川さん」
「何?」
「昨日のことなんだけど」
「何のこと?」
「告白の練習」
「忘れて」
「いや、無理だろ」
「忘れて」
「天川さん、めちゃくちゃ照れてたし」
「照れてない」
「まだ言うのかよ」
「照れてないったら照れてない」
「はいはい」
「その返事、絶対信じてないでしょ」
「まあ」
「……」
天川さんがじろっと俺を見る。
「桐生くんって、たまに性格悪いよね」
「たまに?」
「……結構」
「ひどくない?」
そんなやり取りをしていると――。
「桐生くん、伊織」
教室の入り口から声がした。
俺と天川さんが同時に振り向く。
「月姫!」
天川さんが声を上げた。
「ちょっといい?」
「どうした?」
美空さんが俺たちのところまで歩いてくる。
「球技大会の実行委員のことで先生が呼んでたよ」
「ああ……そういえば」
俺と天川さんは球技大会の実行委員だった。
「放課後に打ち合わせするんだって」
「分かった」
天川さんが頷く。
「じゃあ、放課後に行こう」
「うん」
美空さんが笑う。
「じゃあ、頑張ってね」
「ありがとうございます、美空さん」
「うん」
美空さんが教室を出ていく。
その後ろ姿を、何となく目で追ってしまう。
「……」
「桐生くん」
「ん?」
「見すぎ」
「いや、別に」
「ふーん」
天川さんがニヤッと笑う。
「月姫、かわいいもんね」
「……まあ」
素直に認める。
「普通にかわいいと思う」
「へぇ」
「何だよ」
「別に?」
天川さんは楽しそうだった。
⸻
放課後。
俺と天川さんは、球技大会の実行委員会が行われる教室へ向かった。
中には数人の生徒と先生が集まっている。
「今年の球技大会は、クラス対抗で行う」
先生が説明を始める。
「種目は男子がサッカー、女子がバレーボール。詳細は後日配布する」
「バレー……」
俺は昨日の朝倉さんを思い出した。
バレー部だと言っていた。
球技大会は、朝倉さんにとっても大事な大会になりそうだ。
「実行委員には、各クラスへの連絡や参加者の確認、当日の進行補助をしてもらう」
「結構やること多いですね」
俺が言うと、先生が笑う。
「だから二人にお願いしているんだ」
「……なるほど」
天川さんが資料を受け取る。
「これ、今日中にクラスに伝えるんですか?」
「そう。よろしく頼む」
「分かりました」
天川さんはすぐに資料へ目を通し始める。
「仕事早いな」
「桐生くんが遅いだけ」
「まだ何もしてないんだけど」
「だから遅いの」
「理不尽だろ」
そんなやり取りをしながら、俺も資料に目を通す。
――思っていたより、やることが多い。
参加者の確認。
競技のルール確認。
当日の進行。
クラスへの連絡。
実行委員って、もっと名前だけの仕事だと思っていた。
「桐生くん」
「ん?」
「これ、お願い」
天川さんから名簿を渡される。
「はいはい」
「返事が軽い」
「ちゃんとやるって」
「ならよし」
こうして、俺たちの球技大会準備が始まった。
⸻
翌日。
昼休み。
俺と天川さんは、クラスで球技大会の参加者を確認していた。
「男子サッカー……これで全員?」
「うん」
「女子バレーは?」
天川さんが名簿を見る。
「朝倉さん、入ってるね」
「ああ」
その名前を見た直後だった。
「朝倉ー!」
教室の後ろから声が飛んできた。
「球技大会、絶対勝とうな!」
「うん!」
朝倉さんが笑顔で答える。
昨日、部室で見せていた不安そうな顔とは全然違う。
やっぱり、スポーツをしている時の方が生き生きしている。
そんなことを考えていると、朝倉さんがこちらに気づいた。
「あ、桐生くん!」
「ん?」
「昨日はありがとうございました!」
「いや、別に」
「球技大会、頑張りますね!」
「うん、頑張って! 応援してる」
「はい!」
朝倉さんが元気よく返事をする。
そのまま友達のところへ戻っていった。
「……元気だな」
「うん」
天川さんが名簿に目を落とす。
「でも、あの子がちゃんと頑張れればいいね」
「ああ」
昨日の話を思い出す。
球技大会で自信をつけてから、好きな人に告白する。
俺たちの役目は、その手助けをすること。
そう思っていた。
――だけど。
その日の放課後。
朝倉さんが、俺たちのところへやってきた。
「桐生くん」
「どうした?」
「あの……」
いつもの元気な朝倉さんとは違って、少し言いにくそうにしている。
「昨日、言い忘れてたことがあって」
「何?」
「私の好きな人……」
朝倉さんが少しだけ俯く。
「私と同じ中学なんです」
「同じ中学?」
「はい。今も同じ高校です」
「じゃあ、今もよく会うんだ」
「はい」
朝倉さんが頷く。
「桐生くんとは隣の中学だったんですけど」
「俺とは隣の中学?」
「はい」
その言葉を聞いて、俺は少し考える。
……聞いたことがある。
確か、隣の中学にそんなやつがいた。
女の子関係で有名なやつ。
名前まで聞いたことがある気がする。
「地元も近いから、桐生くんも知ってるかもしれません」
「そうかもな」
朝倉さんが少し困ったように笑う。
「その人、女の子にすごく人気があって……」
「うん」
「中学の頃から、女の子関係で結構有名だったんです」
「……そうなんだ」
「それでも好きなの?」
「……はい」
朝倉さんは迷わず答えた。
「どうして、その人を好きになったの?」
「え?」
「いや、そういう噂があるなら、何かきっかけがあったのかなって」
「あ……」
朝倉さんが少し照れたように笑う。
「部活の時に、よく声をかけてくれたんです」
「部活の時?」
「はい」
「何て?」
「頑張ってるね、とか」
朝倉さんは少し恥ずかしそうに俯く。
「練習が終わった後に、大丈夫? とか声をかけてくれたり……」
「なるほど」
「私、ずっとスポーツばっかりだったから」
朝倉さんが苦笑する。
「そういうふうに声をかけてもらえるのが、なんか嬉しくて」
「それで好きになったんだ」
「はい」
朝倉さんが小さく頷く。
「だから、球技大会でちゃんと頑張って……」
朝倉さんが拳を握る。
「今度は私から、ちゃんと気持ちを伝えたいです」
「分かった」
俺は頷いた。
「じゃあ、俺たちもできることは手伝うよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
朝倉さんが笑う。
その笑顔を見て、俺も少しだけ安心した。
球技大会まで、あと少し。
まずは朝倉さんが思い切りプレーできるように。
俺たちも、実行委員としてしっかり準備を進めよう。




