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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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恋愛経験はそれなりですが

 放課後。


 俺は天川さんに連れられて、学園よろず屋の部室へ向かっていた。


「なあ、天川さん」


「何?」


「俺、本当に入ることになったの?」


「もう入ったんじゃない?」


「俺の意思は?」


「ちゃんと聞いたよ」


「俺の意思が反映されてない」


「うん」


「……」


 やっぱり、この人には敵わない。


 校舎の端にある教室の前で、天川さんが足を止める。


「ここ」


「ここが?」


「学園よろず屋」


 扉を開ける。


「おかえり、二人とも」


 中には神崎先輩がいた。


「お疲れ様です」


「こんにちは、神崎先輩」


「うん。昨日ぶりだね、桐生くん」


 俺たちが中に入ると、神崎先輩が机の上の紙を手に取った。


「それでね、さっそくなんだけど」


「何か依頼が来たんですか?」


「うん」


「どんな依頼ですか?」


「恋愛相談」


「……恋愛?」


 思わず聞き返す。


「そう。一年生の女の子から相談があったの」


「誰です?」


「朝倉美咲さん」


「朝倉……」


 聞き覚えのない名前だった。


「それで、何を相談したいんですか?」


「好きな人に告白したいんだけど、自信がないんだって」


「告白……」


 俺は何となく天川さんを見る。


「何?」


「いや……そういうの、天川さんの方が詳しいんじゃない?」


「え?」


「天川さん、恋愛経験あるの?」


「んー……それなりに?」


「へぇ……」


 思わず天川さんの顔を見る。


 確かに、かわいい。


 整った顔立ちをしているし、普通にしていれば十分モテそうだ。


 これで彼氏の一人や二人いても、別におかしくはない。


「……何?」


「いや」


「何か言いたそうだけど」


「今、彼氏いるの?」


「いませんけど!?」


「あぁ……」


 なんとなく納得した。


 顔はかわいい。


 でも、色々と……アレだからな。


 いないのも納得できる気がする。


「……何、その『あぁ……』」


「いや、何でもない」


「絶対なんか思ったでしょ」


「気のせいじゃない?」


「ふーん……」


 天川さんが疑わしそうに俺を見る。


「まあ、いいけど」


 神崎先輩がクスクスと笑う。


「二人とも仲良しだね」


「どこがですか」


「そういうところ」


「……」


 神崎先輩が笑いながら椅子を一つ引いた。


「じゃあ、朝倉さんに来てもらおうか」


「ここで話すんですか?」


「うん。こういう相談は、落ち着いて話せる場所の方がいいから」


 しばらくして――。


 コンコン。


 部室の扉がノックされた。


「どうぞ」


「失礼します」


 扉が開く。


 そこに立っていたのは、一人の女子だった。


 黒に近いダークブラウンの髪を高めのポニーテールにまとめている。


 健康的な肌。


 細身ながら、運動部らしいしなやかな身体つき。


 そして、笑うと少しだけ見える八重歯。


 スポーツ女子らしい爽やかな雰囲気。


 ――まあ、普通にかわいい。


「あの……朝倉美咲です」


「入って」


「はい」


 美咲さんが部室に入る。


「桐生くん、天川さん……ですよね?」


「そう」


「よろしく!」


「よろしく」


「よろしく」


 美咲さんは少し緊張した様子で椅子に座った。


「それじゃあ、改めて聞かせてもらおうか」


 神崎先輩が優しく声をかける。


「はい……」


 美咲さんは少し俯く。


「私、好きな人がいるんです」


「うん」


「それで……告白したい」


 そこで一度、言葉が止まった。


「でも、自信がなくて」


「どうして?」


「私、今までスポーツばっかりやってきたから」


 美咲さんが少し苦笑する。


「バレーなら、失敗しても次のプレーがあるじゃん」


「うん」


「でも恋愛って、一回失敗したら……もう取り返せない気がして」


 俺は黙って聞いていた。


「だから、告白する勇気が欲しくて……」


「それで、よろず屋に?」


「はい」


 美咲さんが小さく頷く。


「変ですよね?」


「そんなことないよ」


 神崎先輩が笑う。


「困っている人を助けるのが、私たちの活動だから」


「……ありがとうございます」


「それで、いつ告白するの?」


 天川さんが聞いた。


「……球技大会が終わったら」


「球技大会?」


「はい」


 美咲さんが顔を上げる。


「私、バレー部なので」


「なるほど」


「球技大会でちゃんと頑張って……自分に自信をつけてから告白したいんです」


「いいと思う」


 俺は頷いた。


「じゃあ、まずは球技大会だな」


「はい!」


 美咲さんの表情が少し明るくなる。


「絶対、頑張ります!」


 神崎先輩が笑った。


「じゃあ、私たちも協力するね」


「はい!」


 美咲さんが笑う。


 その笑顔を見ていると、さっきまでの緊張が嘘みたいだった。


「じゃあ、まずは告白の練習でもしてみようか」


「告白の……練習?」


 美咲さんが目を丸くする。


「うん。本番で緊張しないように」


「そ、それなら……」


 神崎先輩が俺を見る。


「桐生くん、相手役お願いできる?」


「俺?」


「うん」


「まあ……いいですけど」


 俺は美咲さんの前に立った。


「じゃあ、やってみよう」


「はい……」


 美咲さんが深呼吸する。


「桐生くん……」


「うん」


「私……あなたのことが――」


「待って」


「え?」


「これ、俺に告白する練習じゃなくて、好きな人に告白する練習だよな?」


「そ、そうだけど……」


「なんか俺まで緊張するんだけど」


「桐生くんが緊張してどうするの?」


「いや、真正面から女子に告白されるの初めてだし」


「……」


 美咲さんの顔が赤くなる。


 俺も何となく気まずくなって、視線を逸らした。


「……なんで相手役の桐生くんが照れてんの?」


 天川さんが呆れたように言った。


「いや、これは仕方ないだろ」


「あー、やれやれ。恋愛経験ない男子はこれだから」


「何だよ」


「もっと簡単に考えれば?」


「簡単に?」


「うん」


 俺は少し考えてから、美咲さんを見る。


「……好きなら、好きって言えばいいんじゃない?」


「…………」


 天川さんが呆れた顔で俺を見る。


「それができないから相談してるんでしょ?」


「……あ」


 確かに、その通りだった。


「じゃあ、お前が手本見せてやれよ」


「え?」


「恋愛経験、それなりにあるんだろ?」


「…………」


 天川さんが黙る。


「ほら」


「……分かった」


 天川さんが俺の前に立つ。


「じゃあ……やってみる」


「ああ」


 天川さんが俺を見る。


「…………」


「どうした?」


 さっきまで余裕そうだった天川さんの頬が、少しずつ赤くなっていく。


「……なんか恥ずかしい」


「なんで?」


「知らないよ……」


 天川さんが一度、深呼吸する。


「……桐生くん」


「ん?」


「私……桐生くんのこと――」


 不思議だった。


 さっき美咲さんを相手にした時は、真正面から女子に告白されるという状況だけで緊張した。


 なのに、天川さんが相手だと妙に落ち着いている。


 いつもくだらないことで言い合っているせいだろうかもしくは本能で野生のハードパンチャーだと認識していふからなのか。


 目の前で顔を赤くしている天川さんを見ても、さっきほど気まずくはなかった。


「……天川さん?」


「……無理!」


「えぇ!?」


 天川さんが真っ赤な顔で視線を逸らす。


「ほ、ほら! 私、告白されたことはあっても、自分から告白したことないし!」


「ああ……なるほど」


「だから無理なの!」


「いや、でも手本なんだから……」


「もういい!」


 俺は思わず笑ってしまった。


「……何?」


「いや、天川さんでも照れるんだなって」


「照れてないけど?」


「え?照れてますけど?」


「照れてない」


「顔、真っ赤だけど」


「これは暑いだけ」


「この部屋、そんな暑くないぞ」


「……桐生くん、うるさい」


「ほら」


「照れてないってば!」


 神崎先輩が口元を押さえて笑っている。


「天川さんでも照れるんだね」


「神崎先輩、照れてないです……」


「ふふっ」


 美咲さんも小さく笑っていた。


「なんか……安心しました」


「何が?」


「私だけじゃないんだなって」


「……」


 天川さんが少しだけ顔を赤くしたまま、俺を睨む。


「桐生くん」


「何?」


「次、ちゃんと練習するから」


「お、おう」


「今度は笑わないでよ」


「分かった」


 神崎先輩が笑う。


「じゃあ、球技大会までに少しずつ練習していこうか」


「はい!」


 美咲さんが元気よく返事をした。


 その表情は、最初にここへ来たときより少しだけ明るくなっていた。


 ――球技大会。


 ただの学校行事だと思っていた。


 けど。


 どうやら今回は、少し違うらしい。

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