↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/116

執着

放課後。


学園よろずやでの作業を終えた虎太と真央は、並んで帰り道を歩いていた。


夕暮れの道を歩きながら、真央はどこか考え込んでいる。


「……ねえ、虎太」


「ん?」


「私、生徒会……すぐ辞めた方がいいのかな」


真央がぽつりと呟いた。


虎太は少しだけ真央の方を見る。


「なんで?」


「だって……」


真央は視線を落とした。


「先週の桐生君の件を見てたら、あそこに私がいる意味が分からなくなってきて」


虎太は少し黙ってから、ゆっくり口を開いた。


「真央が、生徒会に残ってることで生徒のためになると思ってるなら、辞める必要はないと思う」


「……うん」


「ただ」


虎太の声が少しだけ低くなる。


「晃星にやったことは、別だけどな」


真央が顔を上げる。


「あれは生徒会の活動でも何でもない」


「……うん」


「ただの嫌がらせだと思う」


真央は何も言わず、前を向いた。


「たぶん……あれをやったのって、副会長の方だよな…」


虎太がそう言うと、真央は少し間を置いてから頷いた。


「……たぶんね」


「やっぱりか」


「でも……」


真央は小さく息を吐いた。


「梨愛は、昔からあんな子だったわけじゃないんだよ」


「昔から?」


「うん」


真央は歩きながら、昔のことを思い出すように話し始めた。


「梨愛ね、うちの近所に住んでるの」


「へえ」


「近所だったから、私と奈緒、梨愛の三人でよく一緒にいたんだ」


虎太が少し驚いた顔をする。


「じゃあ、奈緒も藤宮とは昔から?」


「そう」


真央は懐かしそうに笑った。


「梨愛、小さい頃にいじめられてたことがあってね」


「……そうだったのか」


「その時、私が止めたの」


「真央が?」


「うん」


真央は少し照れくさそうに笑った。


「それで、梨愛の髪をツインテールにしてあげたの」


「髪を?」


「そう。落ち込んでたから、少しでも元気になればいいかなって」


「……なるほど」


「そしたら梨愛、すごく喜んでくれて」


真央は微笑む。


「それから、私のことをお姉ちゃんみたいに慕ってくれるようになったの」


「じゃあ、奈緒と藤宮の二人が真央の妹みたいな感じだったんだな」


「うん。私もそんな感じで思ってた」


真央の表情が少し柔らかくなる。


「梨愛も、昔はもっと明るくて……よく私についてきてた」


「それが今みたいになったのか」


「学校でも目立つようになってからかな……」


真央の声が少し曇った。


「私が他の人の話をすると、梨愛が嫌そうな顔をするようになったの」


「……他の人って?」


「誰でも」


「誰でも?」


「うん。私が誰かと仲良くしてると、なんとなく機嫌が悪くなるの」


虎太はしばらく黙って歩いた。


そして、ぽつりと言った。


「……それ、真央への執着が結構強いんじゃないか?」


「……執着」


その言葉を聞いて、真央も黙り込む。


「もしかしたら……」


真央が小さく呟いた。


「私に助けてもらったことが、梨愛にとってすごく特別だったのかもしれない」


「……」


「自分の味方になってくれたのは私だけだって……そう思ってるのかな」


虎太は答えなかった。


真央はさらに続ける。


「私が彼氏できたって話した時も……」


「ん?」


「梨愛、明らかに落ち込んでた」


「いや、怖いんですけど!!?」


虎太が思わず声を上げた。


「え?」


「いや、それ俺じゃん!?」


「……ふふっ」


真央が思わず笑う。


「藤宮からしたら、俺って真央を取っていった男ってことになるんじゃないの!?」


「虎太、考えすぎだよ」


「いやいやいや!」


虎太は少し慌てた様子で前を見る。


「だって、昔から慕ってたお姉ちゃんみたいな人に彼氏ができたんだろ?」


「……まあ、そうだけど」


「それが俺って……」


虎太は頭を抱える。


「怖すぎるって!」


真央はそんな虎太を見て、くすっと笑った。


「たぶん、私が考えすぎてるだけだよ」


「……そうだといいけどな」


しばらく二人の間に沈黙が流れる。


やがて虎太が口を開いた。


「でもさ」


「うん?」


「とりあえず、真央は生徒会に残った方がいいと思う」


真央が虎太を見る。


「梨愛を監視しろって意味じゃないぞ」


「うん」


「昔から知ってる真央だからこそ、近くにいた方がいいと思う」


虎太は前を向いたまま続ける。


「もし藤宮がまた何かやりすぎそうになった時に、止められる人が近くにいるってだけでも違うだろ」


真央は黙って聞いていた。


「私が辞めたら……」


「うん」


「藤宮のタガが外れて、もっと大きなことをしちゃうんじゃないかって……」


真央が不安そうに呟く。


虎太は少しだけ真央を見る。


「だからこそ、残った方がいいんじゃないか?」


「……」


真央はしばらく考えた。


そして――。


「私も、その方がいいと思う」


真央は再び前を向いた。


生徒会を辞めるという考えは、今は胸の中から消えていた。


梨愛を監視するためではない。


ただ、昔から知っているあの子を、完全に一人にしてしまうことだけは避けたい。


真央はそんなことを考えながら、虎太と並んで帰り道を歩いていった。



——その頃、晃星は一人、家へ向かって歩いていた。


すると――。


「あれ? あっきーじゃん」


聞き慣れた声がした。


振り返ると、そこにはユタカと美都が並んで歩いていた。


「お、ユタカ。美都ちゃんも」


「あっきーくん!」


美都も嬉しそうに声をかける。


「二人とも、こんなところで何してんの?」


「たまには平日にデートだよ」


「そっか」


晃星は二人に近づくと、ふと思い出したように頭を下げた。


「あ、そうだ」


「ん?」


「この前の見積もりの件、ありがとな」


「ああ、それな」


ユタカが笑う。


「大変だったらしいな」


「まぁな」


晃星は苦笑した。


「月姫が止めてくれなきゃ終わってたな」


「月姫ちゃんに感謝しろよ」


ユタカも苦笑する。


すると、美都が少し心配そうに晃星を見る。


「あ、あっきーくん……」


「ん?」


「月姫ちゃん、大丈夫そう?」


「うん!」


晃星はすぐに笑顔で答えた。


「月姫にも手伝ってもらうから」


「そっか……!」


美都の表情がほっとする。


「それなら良かった」


「当日は俺と一緒に後方支援してもらう予定」


「へえ」


ユタカが感心したように頷く。


「じゃあ月姫ちゃんも役割できたんだな」


「そうそう」


晃星は笑った。


その時、ユタカがふと思い出したように言う。


「そういや、お前のこと調べたりしてる暇な奴がいるんだって?」


「……ああ」


晃星が苦笑する。


「それ、多分ウチの副会長だわ」


「副会長?」


「そー、前に美都ちゃんが見かけた俺のこと調べてたって童顔美人」


晃星は軽く肩をすくめた。


「今日も昼になんか揺さぶりかけてこようとしてきたから」


「マジかよ」


ユタカが笑う。


「何されたんだ?」


晃星は思い出しながら話す。


「『お弁当、伊織ちゃんに作ってもらってるの?』って聞いてきたからさ」


「あー」


「だから俺、『加奈ちゃんの手作り弁当』って本当のこと言ったんだよ」


「……加奈ちゃん?」


美都が首を傾げる。


「そしたらさ」


晃星は思い出して笑う。


「『加奈ちゃん以上の愛情いっぱい込めたお弁当作ってあげようか?』とか言ってんの」


「ははは!」


「バカだなーと思って見てたよ」


晃星も笑う。


ユタカは呆れたように笑いながら、晃星の肩を軽く叩いた。


「お前、本当、人を小馬鹿にする天才だな」


「いや、嘘はついてなくね!?」


「いやいや、面白すぎるだろ」


そこでユタカが、隣にいる美都を見る。


「あ、美都」


「ん?」


「加奈ちゃんって、あっきーのお母さんね」


「……え?」


美都が一瞬、固まる。


「えっ……」


そして――。


「ふ、ふふっ……!」


口元を押さえる。


「……あはははは!」


ついに堪えきれず、美都も笑い出した。


「え!? お母さん!?」


「そう」


晃星が笑いながら頷く。


「うちの母親」


「そ、それは……!」


美都は笑いながら、少しだけ困ったような顔になる。


「さ、流石に……お母さん以上の愛情込めたお弁当は……」


「だろ?」


晃星が笑う。


「無理だよな」


「う、うん……」


美都も笑いながら頷いた。


「お母さんには勝てないよね……」


「だろ?」


「そりゃ勝てんわ」


ユタカも大笑いする。


三人の笑い声が、夕暮れの帰り道に響いた。


晃星も笑いながら、ふと思う。


(……まあ、あいつが何考えてるのかは知らんけど)


今日もまた、梨愛は何かを仕掛けてきた。


けれど――。


それすらも、今の晃星にはどこか可笑しく感じられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。