よろずやらしい答え
そのまま晃星は、家へ向かって歩いていた。
学校を出て少し歩いたところで、前から親子らしき二人が歩いてくるのが見えた。
どうやら学童から帰ってきたところらしい。
「もっと広い場所でもっと指導員の人が増えればいいのにな」
そんな言葉が聞こえてきて、晃星はふと足を止めた。
「……学童も大変なんだな」
旧校舎のことを考える。
今まで、よろずやとして困っている生徒や地域の人たちの依頼を解決してきた。
だったら――。
「……ちょっと聞いてみるのもありかもな」
晃星はそう呟くと、家へ向かって歩き出した。
――翌朝。
晃星は学校を休んだ。
伊織と月姫には、晃星から短いメッセージが届いていた。
『今日休む』
伊織はスマホの画面を見つめる。
「……あっきー」
そんな伊織のところへ、教室の入り口から声が聞こえてきた。
「失礼しまーす」
入ってきたのは梨愛だった。
「あれ〜? あっきー休み〜? ざんね〜ん」
「……あっきーって呼ぶな」
伊織が睨む。
梨愛はニコッと笑った。
「ふふっ」
それだけ言うと、梨愛は教室を出ていった。
「思ったより簡単だな」
廊下を歩きながら、梨愛は小さく呟く。
キレたら周りが見えなくなるとか面白すぎ。
「最後は私のかわいい駒にしてあげよ」
梨愛は楽しそうに笑った。
――その少し後。
「伊織」
教室に月姫がやってきた。
「月姫?」
「今日、あっくん休むって……」
「うん。さっき連絡きた」
伊織がスマホを見せる。
「家にいるのかな?」
月姫が心配そうに画面を見る。
「ちょっとママに聞いてみる」
伊織は晃星の母親へ連絡を入れた。
――その頃。
梨愛は、花火の日に晃星と揉めた相手のところへ向かっていた。
「じゃあ早速、暴力男子あっきーの噂を流しに行こ」
梨愛は楽しそうに笑う。
そして男子のところへ近づいた。
「昨日、話した通り、花火の日、桐生くんに何やられたか色々とみんなに広めてあげて?」
「いや……それなんですけど」
男子は困ったように答える。
「先輩から、もうあいつと関わるなって言われてて……」
「……?」
梨愛は首を傾げる。
――あれ?
昨日まで、あんなにノリノリだったのに。
なんで今日になって、こんなにビビっちゃってるんだろう?
「何がそんなに怖いの?」
「アイツもそうだし……アイツの周りもヤバすぎるんですよ」
男子は声を落とす。
「学校でその話題が少しでも出ると俺達終わります。勘弁してください」
梨愛はしばらく男子を見つめる。
「……そっかぁ。手伝ってくれたら付き合う以上のことさせてあげるつもりだったんだけどな!」
「えっ!?……いや、でもすいません。」
男子は一瞬目を輝かせたがすぐに俯いた。
思い通りにならないことに、少し苛立つ。
それでも笑顔は崩さない。
「じゃあ、また別の機会に力貸してね!」
梨愛は笑顔でそう言って、その場を離れた。
使えない駒にはお仕置きが必要だな……
――一方、その頃。
晃星は学校を休んで、商店街を歩いていた。
昨日聞いた学童の話が、ずっと頭に残っていた。
「……ここ、聞いてみるか」
商店街の人たちに、旧校舎について話を聞いていく。
「昔はあそこで色々やってたんだけどな」
「使えるなら残してほしいって人も多いよ」
「子供が遊べる場所がもっとあればいいんだけどね」
一人、また一人と話を聞いていく。
晃星はスマホにメモを取りながら、考えていた。
そんな時だった。
「……あっくん!」
聞き覚えのある声がして、晃星が振り返る。
「え? 月姫?」
月姫が駆け寄ってくる。
そして、そのまま晃星に抱きついた。
「もう……心配かけないでよ!!」
「……昨日あんなことあったからか。ごめんね」
晃星は月姫の頭を優しく撫でる。
「何聞いてるの?」
「旧校舎のこと。商店街の人たちに色々聞いてる」
「学校は?」
「早退したの」
「なんで私服?」
「制服で学校の時間にウロウロしてたら、学校に連絡されちゃうでしょ?」
「ああ、なるほどな」
月姫は少し胸を張る。
「これが私の役割なの!!」
「役割?」
晃星は首を傾げる。
「まぁいいか。月姫もいるなら頑張らないとな」
「……!」
月姫の顔が赤くなる。
――私がいると頑張れる?
――それって、私がそばにいると嬉しいってこと?
――もしかして……あっくん、私のこと……。
「ふふっ……」
「月姫?」
「な、なんでもない!」
慌てて顔を逸らす。月姫は嬉しそうに微笑んでいた。
――放課後。
伊織、虎太、奈緒の三人は、よろずやの部室で討論会について話し合っていた。
「あんな奴らには負けないから!」
伊織が言う。
「二週間しかねえんだ。やるだけやるしかないな!」
虎太も頷く。
「うん。旧校舎を残すだけじゃなくて、どう使うのかをちゃんと伝えないとね」
奈緒も資料を見ながら言う。
その時、虎太のスマホが鳴った。
「ん?」
画面を見る。
晃星からだった。
『部長、帰りにみんなでここに来て!』
ファミレスの場所も送られている。
「晃星からだ」
「何か思いついたのかな?」
奈緒が尋ねる。
「行ってみようぜ」
三人はファミレスへ向かった。
店内に入ると、晃星と月姫が座っていた。
しかも二人は、向かいではなく隣同士だった。
「……」
伊織と奈緒が二人を見る。
晃星はそんな二人の視線に気づきながらも、まず頭を下げた。
「とりあえず昨日のこと、ごめん。昔のことまで掘り返されて、迷惑かけて…」
なぜか月姫も一緒に頭を下げる。
「なんで月姫まで…」
「でも……」
「そんなことどうでもいいよ」
虎太が言う。
「今は討論会のこと考えようぜ」
伊織は月姫を見る。
「ていうか月姫、なんで私服なの?」
「え? あっくんが色々動いてるって言ったから、早退してついてきたの」
「こんな行動力ある子だっけ?」
伊織が笑う。
「それでさ」
晃星が話を切り替える。
「俺、今日商店街で色々聞いてたんだけど……旧校舎、学童保育にも使えるんじゃないかなって思って」
「学童?」
奈緒が聞き返す。
「うん。昨日、帰り道で学童の子たちを見かけてさ。『もっと広い場所でもっと指導員の人が増えればいいのにな』って話してたんだ」
晃星は続ける。
「それで今日、商店街の人たちにも色々聞いてみたんだけど、やっぱり子供たちが過ごせる場所がもっとあった方がいいみたいなんだ」
「なるほど……」
虎太が資料を見る。
「でも、人手の問題とかはどうする?」
「そこなんだよ」
晃星が頷く。
「地域には教員免許を持ってるけど、定年になった人とかもいるみたいでさ。そういう人たちが子供たちと触れ合える場所にできないかなって」
「それ、いいね」
奈緒が頷く。
「あと、家で仕事してる人たちに協力してもらって、定期的にいろんな仕事を体験できるようにするのもいいかも」
伊織が続ける。
「子供たちが色んな仕事を知れるし!」
「うん」
晃星はみんなを見る。
「地域の人たちが困ってることを、地域の人たちと一緒に解決していくって方向はどうかな?」
奈緒が頷く。
「よろずやが何でも代わりにやるんじゃなくて、地域の人たちと一緒に考えていくってことだね」
「そう。それなら、俺たちらしいんじゃないかな」
晃星が笑う。
「旧校舎を残すだけじゃなくて、そこを地域の人たちが使える場所にする。だったら、生徒会の案とは違う形で勝負できると思う」
虎太が腕を組む。
「……なるほどな」
伊織も頷く。
「私、いいと思う!」
月姫も嬉しそうに笑う。
「うん。あっくんらしい案だと思う」
晃星は少し照れくさそうに笑った。
「じゃあ、これをもっと具体的にしていこうぜ」
四人はテーブルの上に資料を広げる。
討論会まで、残された時間は二週間。
よろずやは、旧校舎を残すために、もう一度動き始めた。




