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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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新学期始の始まり —ボリューム不良を添えてー

夏休みが終わり、今日から二学期。


「……眠い」


 桐生晃星は、まだ半分眠ったような頭で制服に着替えていた。


 久しぶりの学校ということもあって、朝の準備はいつもより遅くなっていた。


「こら! あっきー! 早くしなさい!」


 母親の声が飛んでくる。


「分かってるって!」


 晃星は慌てて荷物をまとめると、家を飛び出した。


 駅へ向かい、電車に乗る。座席に座った瞬間、また眠気が襲ってきた。


「……二学期初日からこれかよ……」


 ウトウトしながらも、なんとか学校へ到着する。


 校門をくぐろうとしたところで、声をかけられた。


「おはようございまーす!」


 そこにいたのは、真央先輩だった。


「あ、真央先輩。おはようございます」


「おはよう。初日からギリギリじゃん」


「いやー、朝ちょっとバタバタして……」


 そんな会話をしていると、横から突然、大きな声が飛んできた。


「なんだ、その制服の着こなしは!?」


「……ん?」


 振り向くと、縁なし眼鏡をかけた男子生徒が立っていた。いかにも真面目そうな雰囲気で、こちらをじっと見ている。


「あー……朝急いでたからなー」


 晃星は特に気にせず、そのまま行こうとする。


「待て! 聞いているのか!」


「うるさいなぁ。あんた誰?」


「俺は生徒会長だ!」


「……生徒会長?」


 男は胸を張った。


「そうだ! 生徒会長の一条龍成だ!」


 そして、さらに声を張り上げる。


「お前、何年何組だ!」


「……なんでそんな大声出すの?」


「何!?」


「いや、生徒会長だ!! なんて言うくらいならさ、生徒の名前と顔、わかんないの?」


「……」


 龍成が言葉を失った。


 晃星はそのまま教室へ向かった。


「……しまった」


 歩きながら、晃星は少しだけ後悔する。


「あのビッグボイスのせいで目立ちすぎた……」


 教室に入ると、伊織がこちらを見つけた。


「あっきー、今日ギリギリじゃん」


「初日ってだるいよね?」


「いや、眠そうじゃん!」


「伊織ちゃんは朝から元気でいいな……こっちは朝からクソやかましい声の奴に捕まって元気出ないのに……」


「なにそれ」


 伊織は笑った。


 やがてホームルームが終わり、二学期初日の始業式が始まる時間になった。


 しかし、今年は暑さが厳しいこともあり、体育館ではなく各教室でオンラインによる始業式が行われることになっていた。


「それなら全然寝れるじゃん!」


 晃星は嬉しそうに呟く。


 画面に校長が映り、二学期についての話が始まる。


「……」


 穏やかな校長の声。


 朝から眠かった晃星にとっては、まさに睡眠導入ボイスだった。


「……眠い」


 意識が落ちかけた、その時。


『続きまして、生徒会からの話です』


「……ん?」


 画面が切り替わる。


 そこに映ったのは、先ほど校門で会った男だった。


「おはようございます!! 生徒会長の一条龍成です!!」


「うるせぇぇぇ!!」


 晃星の目が一気に開く。


 教室のあちこちからも声が上がった。


「声でか……」


「音量これで合ってる?」


「朝からすげえな……」


 晃星は伊織を見る。


 伊織も「これはキツい」と言いたげな顔をしている。


 晃星は無言で伊織を見る。


 ――ね? クソやかましい声だろ?


 そんな気持ちを目で伝えると、伊織も小さく頷いた。


 始業式が終わると、晃星は学園よろずやの部室へ向かった。


「はぁ……」


 部室に入るなり、椅子に座り込む。


「あー……初日から疲れた〜」


 そんな晃星を見て、奈緒が微笑んだ。


「あきくん、夏休みがよほど楽しかったんだね」


 奈緒の笑顔は、相変わらずとてもステキだった。


「いや、眠くてギリギリでさ。そしたら学校でメガボイスの変な奴に絡まれるし、オンライン始業式でそのメガボイスがうるさいし……あいつ声のボリューム壊れてないすか?」


「あー、生徒会長?」


「うん。初めて見たよ」


 その時だった。


 部室の扉が開いた。


「はー……初日からなんなの?」


 入ってきたのは月姫だった。


 夏休みが終わって久しぶりに登校したことで、朝からたくさんの男子に声をかけられていたらしい。


「みんな夏休み、月姫に会えなかったからだな」


 晃星が苦笑する。


「さすが月姫ちゃん」


 奈緒も微笑む。


「ここでしばらく隠れてなよ」


「うん……そうする」


 月姫は疲れたように息を吐いた。


 そこで晃星が辺りを見回す。


「あれ? 伊織ちゃんは?」


「伊織ちゃん、あっくんの家でママとネットドラマ見る約束してるって先に帰ったよ」


「え?」


「私も行きたかったのに」


 月姫が少し拗ねたように言う。


「あいつ、俺何も聞いてないぞ」


 晃星が呆れたように言う。


「月姫も行くなら俺と一緒に帰る?」


「……え?」


 月姫の胸が少しだけ跳ねる。


 ――一緒に帰る……?


 ただ一緒に帰るだけなのに、妙に特別な響きに感じてしまう。


 ――なんか……一緒に帰るって、同棲してるみたい……。


 一緒に家へ帰って、一緒にご飯を食べて、一緒にテレビを見たりして。


 そんな光景が一瞬、頭に浮かぶ。


 ――いやいや、何考えてるの私!


 月姫は慌てて頭の中の想像を振り払った。


「うん!」


 そう答えて笑った。


 その直後だった。


「……!」


 廊下から、大きな声が聞こえてきた。


「だから、そういうことじゃない!」


「いや、こんな部活動は――」


 声が近づいてくる。


 そして、部室の扉が開いた。


 入ってきたのは、虎太と一条龍成だった。


「……メガボイス」


 晃星が白い目を向ける。


「何だ、その目は!」


 龍成は部室を見回すと、開口一番に言い放った。


「さっさとこんな、生徒の役にも立たない部活動などやめてしまえ!!」


「役に立ってんだよ!!」


 虎太がすぐに言い返す。


「生徒会で対応すればいい!」


「全部が全部、生徒会でできるわけねえだろ!」


 二人が言い合っていると、廊下から別の声が聞こえた。


「会長ー!」


 振り返ると、ツインテールの女子生徒がこちらへ歩いてきた。


 アイドルのような可愛らしい顔立ちで、柔らかな笑顔を浮かべている。


「会長、こんなところにいたんですね」


 彼女は龍成を呼びに来たようだった。


「……」


 晃星は思わず彼女を見た。


「……かわいい」


 そして、少しニヤける。


「……あっくん」


「ん?」


 次の瞬間。


「いででででで!!」


 月姫が晃星の頬をつねった。


「ちょ、月姫! 痛い痛い!」


「……」


「なんで!?」


「別に」


 月姫は頬をつねったまま、ぷいっと顔を逸らした。


 副会長はそんな二人を見て、柔らかく笑った。


「ふふっ」


 そして龍成に向き直る。


「会長、もう行きましょう」


「まだ話は終わっていない!」


「でも、次がありますから」


 副会長に促され、龍成が動こうとした。


 その時、龍成が晃星と虎太を見る。


「……ん?」


 じっと二人を見た。


「君は……」


 晃星は嫌な予感がした。


「……朝の……」


「あ」


 晃星は一瞬固まった。


 そして何事もなかったかのように、すっと机に突っ伏した。


「……」


「おい」


 龍成が怪訝そうにする。


 晃星は完全に寝たふりを続ける。


 龍成は晃星と虎太を交互に見た。


「……なるほどな」


「何がだよ?」


 虎太が怪訝そうに聞き返す。


 龍成は二人を見ながら、淡々と言った。


「類は友を呼ぶ、ということか」


「はぁ!?」


 虎太が声を荒らげる。


「どういう意味だ、一条!」


 すると晃星が、間髪入れずに口を挟んだ。


「いや、そんなヘタレと一緒にしないで」


「おい!!」


 虎太が即座に叫ぶ。


「誰がヘタレだ!」


「いや、だって怖いの苦手じゃん」


「だってじゃねえよ!」


 龍成はそんな二人を見ながら、少し眉をひそめる。


 晃星は笑いながら、龍成をまっすぐ見た。


「俺、こんなんでも部長好きだからさ」


「……何?」


 龍成が晃星を見る。


「だから、部長が悪く言われてるのは、あんまりいい気はしないかな」


 虎太が少し驚いた顔をする。


 晃星は続けた。


「頭ごなしに否定したりしてるのを見るのも、俺はあんまり好きじゃないな」


 そして、龍成を見る。


「メガボイス会長は、なんでそんなにここ潰したいの?」


 龍成は少し間を置いて答えた。


「困っている生徒がいるなら生徒会に来ればいい。そしたら我々は正面から向き合い、解決策を導く。みんながそうすれば、こんな部活動は必要ではないということだ」


「え?」


 晃星が首を傾げる。


「生徒会はなんでもやってくれるんだ?」


「当たり前だろ! そのための生徒会だ!」


「じゃあさ」


 晃星は月姫を見る。


「男達から毎日、毎日言い寄られて困ってる子はどう救ってくれるの?」


「そんなものは自分でなんとかしろ!!」


「……はぁ」


 月姫が深いため息をつく。


 そんな月姫を見て、晃星は苦笑しながら頭を優しく撫でる。


「よしよし」


「……あっくん」


 月姫は少しだけ晃星を見上げる。


 晃星はそのまま龍成を見ると、笑みを浮かべながら言った。


「人の悩みを自分の価値観でしか見てないから、本人がどれだけ大変かわかってねえんだよ」


「……!」


 龍成の表情が固まる。


 その時だった。


「会長ー」


 先ほどの副会長が、再び龍成を呼びに来た。


「そろそろ行きましょう」


 柔らかな笑顔。


 けれど、奈緒へ視線を向けた瞬間――その目から笑みが消えた。


 奈緒も静かに彼女を見る。


「……」


「……」


 互いに何も言わない。


 それでも、そこには明らかな対抗意識が漂っていた。


「会長、行きましょう」


「ああ」


 副会長に促され、龍成が部室を出ようとする。


 その時、龍成が晃星を見る。


「……」


 晃星は即座に机へ突っ伏した。


「……」


「おい


 それでも晃星は寝たふりを続ける。


「会長、もう行きましょう」


「ああ……」


 二人は部室を出ていった。


 扉が閉まる。


「……なんなんだ、あいつら」


 晃星が顔を上げた。


 そして虎太を見る。


「部長! あいつらなんなんだよ!?」


「一条龍成。生徒会長だ」


「それは知ってる」


「その隣のツインテールの子は?」


「ああ、あいつは生徒会副会長だ」


「副会長……?めちゃくちゃニコニコしてたけど、絶対目笑ってなかったぞ」


「まあ……そういう奴だな」


 晃星は深いため息を吐いた。


「新学期初日から疲れること多すぎだろ……」


新学期早々から不穏な幕開けになる晃星だった…


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