始まりも終わりも膝の上
「じゃあ、これやろうぜ!」
そう言って、雅人が持っていた袋を掲げる。
「ん?」
あっきーが袋を覗き込む。
「おー!!」
中から出てきたのは、スーパーで買ってきた手持ち花火だった。
「いいね!!」
ユタカも嬉しそうに笑う。
「せっかくだし、最後に花火やろうぜ!」
「賛成!」
みんなで庭に出ると、それぞれ好きな花火を手に取っていく。
「お前らのくせに気が利くな」
ユタカが笑いながら言う。
「帰れ」
雅人が即答する。
「なんなら土に還れ」
あっきーも続ける。
「返し酷くない!?」
ユタカが笑うと、みんなも一斉に笑った。
その隣で、美都がユタカの頭を優しく撫でる。
「よしよし」
「……え?」
ユタカが固まる。
それを見たみんながニヤニヤする。
「おいおい……」
「ユタカ、よかったな」
「な、なんだよ!」
美都も少し恥ずかしそうに笑う。
「……もう」
そんなやり取りをしながら、みんなで花火に火をつける。
色とりどりの火花が庭に広がり、みんなの笑い声が夜の中に響いていく。
「うわ、綺麗!」
「これ結構長いな!」
「そっちの花火すげえ!」
一つ、また一つと花火が終わっていく。
そして最後に残ったのは、みんなが手に持った線香花火だった。
「じゃあ、最後はこれだな」
あっきーが線香花火を持ち上げる。
「最後まで火種落ちなかったやつの勝ちな!!」
「おっ、勝負ね!」
みんなが一斉に火をつける。
小さな火花が、静かにぱちぱちと弾け始める。
「おー……」
誰もが集中して、自分の線香花火を見つめる。
そして――。
「あっ!」
あっきーの火種が落ちた。
「くそー!」
続いて、月姫の火種も落ちる。
「あっ……」
「月姫も終わったな!」
「もう、あっくん!」
笑いながら月姫が言う。
その後、結衣の火種も落ちる。
「あー!」
「結衣も終わり!」
さらにユタカの火種も落ちる。
「マジかよ!」
そして――雅人の火種も落ちた。
「よっしゃ!」
残ったのは、美都と伊織。
「頑張れ!! 美都ちゃん!」
「美都ちゃん、頑張って!」
雅人と結衣が声を揃えて応援する。
「いや、なんで美都ちゃんの応援ばっか!?」
伊織が不満そうに言う。
すると、あっきーが伊織を見る。
「伊織ちゃん、負けんな!!」
「……!」
伊織は少し驚いたあと、笑顔になる。
「うん!」
二人の線香花火は、まだ小さな火花を散らしている。
「頑張れ……」
「もうちょっと……!」
そして――。
「あっ!」
美都の火種が落ちる。
「……あ」
ほぼ同時に、伊織の火種も落ちた。
「えっ!?」
「同時!?」
二人とも顔を見合わせる。
「引き分けじゃん!」
「ほんとだ!」
みんなが笑う。
花火がすべて終わり、夜の庭に静けさが戻ってくる。
伊織が空を見上げながら、ぽつりと言った。
「あー……なんか夏終わった感じだね」
「だな」
あっきーも頷く。
ユタカがみんなを見る。
「来年もさ、またみんなでやろうぜ!」
「いいね!」
「絶対やろう!」
「今日来れなかったやつらも呼んでさ!」
みんなが楽しそうに話す中、あっきーだけが苦笑する。
「それ、また俺んちとか嫌なんですけど」
伊織が当然のように言った。
「ママが体調良ければ、あっきーの家でやろ!」
「お前、リラックスできるからだろ」
「絶対それだろ」
「伊織ちゃん、自分の家みたいになってるもんね!」
「違うし!」
伊織が必死に否定し、みんなが笑う。
それから、みんなで花火の片付けを始めた。
片付けも一通り目処がついた頃、雅人が時計を見る。
「じゃあ、俺らそろそろ帰ろうかな」
結衣も頷く。
「そうだね。明日から学校だし」
「そうだな! そろそろ帰らないと美都の親さんも心配するからな」
ユタカもそう言って、美都と一緒に帰る準備を始める。
玄関にみんなが集まり、それぞれ靴を履いていく。
「じゃあ、みんなまたね!」
「またなー!」
「今日は楽しかった!」
「じゃあね、月姫ちゃん!」
それぞれ手を振りながら、雅人と結衣、ユタカと美都が帰っていく。
玄関のドアが閉まり、家の中が一気に静かになった。
「……ふぅ」
一息ついた月姫は、小さく欠伸をする。
「月姫ちゃん、眠そうだね」
ママがそう言うと、月姫は目をこすりながら笑った。
「うん……ちょっと眠いかも」
その様子を見たママが、優しく言う。
「二人とも車で送ってくから、ちょっと休んで」
「ありがとうございます……」
月姫がソファに座ると、すぐにウトウトし始める。
その隣で、あっきーも大きく欠伸をした。
「あー……確かに眠いな」
そう言いながら、あっきーは月姫のところへ行こうとする。
「こら! 月姫寝てるでしょ」
伊織がすぐに止める。
「……あ」
「こっち来なよ」
伊織は自分の膝をポンポンと叩いた。
あっきーは何も言わず、遠慮することなく伊織のところへ行く。
そして、そのまま伊織の膝に頭を乗せた。
「おやすみ、あっきー」
伊織がそう言って、そっと髪を撫でる。
すると、あっきーはほんの数秒で眠りについてしまった。
「……寝るの早っ」
伊織が呆れたように笑う。
ママも帰る準備を終えて戻ってくる。
「もう準備できたよ……って、あれ」
伊織の膝で爆睡しているあっきーを見て、ママが苦笑する。
「ほんと、寝付くのは早いんだから」
「ね。さっきまであんなに騒いでたのに」
それから10分ほど。
あっきーは、まるで何事もなかったかのように爆睡していた。
「……ほんとよく寝るなぁ」
伊織は呆れながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、行こうか」
ママがそう声をかける。
伊織は膝の上で眠っているあっきーを起こさないように、そっと頭を持ち上げようとした。
その瞬間、あっきーがゆっくり目を開ける。
「……ん?」
「起きた?」
「あー……うん」
まだ眠そうに目をこすりながら、あっきーは周りを見る。
そして、ソファで眠っている月姫に目を向けた。
「……月姫、まだ寝てるな」
「うん。起こすのもかわいそうだよね」
伊織がそう言うと、あっきーは少し考える。
「じゃあ、俺が連れてくよ」
あっきーは眠っている月姫をそっと抱き上げた。
「よいしょ……」
月姫は起きることなく、あっきーの腕の中で眠ったまま。
「じゃあ、行ってくるね」
「気をつけてね」
ママと伊織に見送られながら、あっきーは月姫を抱っこしたまま玄関へ向かう。
その途中――。
「……ん……」
月姫が小さく身じろぎした。
ゆっくり目を開ける。
「……あっくん……?」
「お、起きた?」
月姫はぼんやりした頭で周りを見て、次の瞬間、自分があっきーに抱っこされていることに気づく。
「……え?」
一気に目が覚める。
「え、え!? あっ……」
心臓が飛び出しそうなくらい、鼓動が速くなる。
「どうした? まだ眠い?」
「い、いや……その……」
月姫は顔を真っ赤にしながら、あっきーの腕の中で固まってしまう。
「ご、ごめん……私、自分で歩くよ……」
「大丈夫だって。もう車すぐそこだから」
あっきーは何でもないように、そのまま月姫を抱っこして歩いていく。
月姫は何も言えず、ただ真っ赤になったまま小さく頷いた。
そして車まで着くと、あっきーはゆっくり月姫を下ろして、車に乗せる。
「はい、ゆっくりね」
「……う、うん」
月姫は座席に座ったものの、まだ顔が赤い。
あっきーも車に乗り込む。
「今日は俺もついてくよ」
「……うん」
月姫は小さく返事をした。
帰り道。
車の中では、今日一日の楽しかった時間を振り返るように、自然と会話が続いていた。
「明日から、もう学校かー」
あっきーがそう言うと、伊織が後部座席から声を上げる。
「ほんとだよ! 夏休み終わるの早すぎ!」
「でも、楽しかったよね」
月姫が笑顔で言う。
「うん! めっちゃ楽しかった!」
伊織も笑う。
ママも前を向いたまま、嬉しそうに笑った。
「今日もみんなで遊べて、本当に楽しかったね」
「今日最高だったな!」
あっきーも笑う。
「餃子作って、みんなで食べて、最後に花火までやってさ」
「うん。今日みんなで遊べたの、最高だったね」
月姫も笑顔で頷く。
「来年もまたみんなでやりたい!」
伊織が元気よく言う。
「絶対やろうぜ!」
あっきーも笑う。
車の中に、四人の笑い声が響く。
長かったようで、あっという間だった夏休み。
たくさん遊んで、たくさん笑った夏の日々も、今日で終わりを迎える。
そして――明日から二学期が始まる。
楽しかった夏休みが終わり、新たな日々が始まろうとしていた。
二学期が始まって間もなく、学園よろずやに大きな危機が迫ることを、この時の伊織たちはまだ知らなかった――。




