大好物はあげたくない!!!
「……ん……」
ソファで眠っていた伊織が、ゆっくりと目を開ける。
「……あ」
鼻をくすぐる餃子のいい匂いに気づいた瞬間、伊織の顔がぱっと笑顔になる。
「いい匂い……」
伊織は身体を起こし、眠そうに目をこすりながら周りを見渡す。
すると――見覚えのない、ものすごく綺麗な女の子と目が合った。
「……?」
伊織は少し首を傾げる。
「この超絶美人、どちらさん?」
「伊織ちゃん起きた?」
ユタカが笑いながら答える。
「この子、美都。俺の彼女」
「初めまして、美都ちゃん!」
伊織は人見知りする様子もなく、いつもの調子でニコッと笑う。
「初めまして……」
美都も少し緊張しながら挨拶を返す。
「伊織ちゃんって……すごく話しやすいね」
美都は、初対面でも自然に接してくれる伊織にすぐ好印象を持った。
「でしょ? 伊織ちゃん、こういうところ全然緊張しないだろうから」
ユタカが笑う。
「それより……」
伊織がふと視線を動かす。
そこで目に入ったのは――月姫の膝を枕にして、すっかりくつろいでいるあっきー。
「……何してんの?」
伊織が呆れたように言う。
「今まで寝てた奴に言われたくないね!」
あっきーが即座に言い返す。
「……月姫はあっきーに甘いから」
伊織はそう言って、そっぽを向く。
そのタイミングで――。
「こちょこちょ〜」
「ひゃっ!?」
あっきーが手を伸ばし、伊織の脇腹をくすぐる。
「ちょっ――!」
伊織が振り返る。
ゴンッ!
振り返りざまのゲンコツが、あっきーの頭に見事に入った。
「……」
あっきーはその場で沈む。
そして何事もなかったように立ち上がると、そのまま月姫の膝へ戻っていく。
月姫は苦笑しながら、あっきーの頭を撫でる。
その光景を見ていた全員が、一瞬だけ顔を見合わせた。
雅人、結衣、ユタカ、美都。
誰も何も言わない。
ただ、全員が同じことを思っていた。
――あ、伊織ちゃんもコイツを黙らせる術を知ってるわ。
無言のまま、全員が視線を交わした。
そして――。
「伊織ちゃんも起きたし、そろそろ焼いてこうか?」
ママが声をかける。
「よっしゃー!」
「待ってました!」
一気にみんなが盛り上がる。
ホットプレートに餃子が並べられ、ジュウゥゥ……と香ばしい音が響く。
「うわ、めっちゃいい匂い!」
「早く食いてぇ!」
次々と焼き上がる餃子を、それぞれ皿に取っていく。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
一口食べた瞬間、みんなの顔がほころぶ。
「うまっ!」
「これめっちゃ美味しい!」
「皮もいい感じ!」
美都も一口食べて、嬉しそうに笑う。
「……美味しい」
「でしょ?」
月姫も嬉しそうに頷く。
あっきーも餃子を頬張りながら、しみじみと言う。
「マジでこれ、母ちゃんの作る飯の中で一番美味いよなー」
するとママが笑う。
「それ、もう月姫ちゃんが作ってくれたやつだよ」
「え?」
あっきーが餃子を見る。
「マジ!?」
「うん。月姫ちゃんがほとんど作ってくれたから」
「月姫すげえ!!」
あっきーが嬉しそうに月姫を見る。
「えへへ」
月姫も照れながら笑う。
「ママに教えてもらって、スマホにメモしたから、いつでも作れるよ」
「最高じゃん!」
あっきーは満面の笑み。
「月姫最高!!」
「……!」
月姫の手が止まる。
(え? 最高!?)
(好きってこと?)
頭の中でいつもの様に一瞬だけ軽く暴走する。
月姫は顔を赤くしながら、餃子を一つ口に運んだ。
その横で、伊織がぼそっと呟く。
「あっきーママ……」
「ん?」
「また私にも教えて」
「もちろん。伊織ちゃんにもいつでも教えるから安心して」
「ほんと!?」
伊織が嬉しそうに顔を上げる。
その様子を見ていたユタカがニヤッとする。
「伊織ちゃん、焦ってるね〜」
「えっ!?」
伊織がユタカを見る。
「な、何が!?」
「いやいや、別に〜?」
「……そういうんじゃないから!!」
みんなが笑う中、伊織は頬を膨らませながら、もう一個餃子を取った。
あっきーは、自分の大好きな餃子を夢中になって頬張っていた。
「うまっ! やっぱこれだわ!」
一つ食べ終わると、すぐにもう一つ取る。
「うんめぇ〜!」
その食べっぷりを、月姫は隣で嬉しそうに見ていた。
自分が教えてもらいながら作った餃子を、あっくんがこんなにも美味しそうに食べてくれている。
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……よかった)
心から、幸せな気持ちになった。
ふと隣を見る。
するとそこには――。
「あむっ……うん! 美味しい!」
あっきーにも負けないくらい、伊織が餃子を美味しそうに頬張っていた。
「これ美味しい〜!」
次々と餃子を取っていく伊織を見て、月姫は思わず微笑む。
(ママに教えてもらって……本当によかった)
自分が作った餃子を、自分の大切な二人が美味しそうに食べてくれている。
月姫はそんな二人を眺めながら、幸せそうに笑っていた。
「俺まだ食べたい!」
あっきーが餃子を取りながら言う。
「私も!」
伊織も負けじと手を伸ばす。
結衣が二人を見て、苦笑する。
「二人とも、まだまだ食べるね」
「さっきまで寝てたくせに、めっちゃ食うじゃん」
「はぁ!?」
伊織があっきーを見る。
「でもあっきーだって、なんの役にも立ってないくせに食べはするんだね!」
「俺はちゃんと餃子包んだし!」
「ちょっとだけでしょ!」
「伊織ちゃんだって何もしてないじゃん!」
「私は寝てたからね!!!」
「それ堂々と言うことじゃねえだろ!」
二人が言い合う姿を見て、一同は苦笑する。
「……なんて卑しい奴らだ」
雅人が呆れたように呟く。
そして二人を交互に見ながら続ける。
「たださ……二人とも似すぎなんよ」
「ね、本当そっくり」
結衣が頷く。
「うん、そっくりだと思う」
美都も笑いながら頷く。
月姫も思わず笑う。
みんなが揃って頷く。
すると――。
「「全然似てない!!!」」
あっきーと伊織が、見事に同時に叫んだ。
一瞬、静かになる。
そしてユタカがニヤッと笑う。
「ほら見ろ」
「何が!?」
「そこだよ、そこ!」
ユタカが笑い出す。
「言うことまで一緒じゃん!」
「「違うって!」」
また二人の声がぴったり重なる。
「ほらぁ!」
ユタカが大笑いする。
美都も思わず吹き出す。
「ふふっ、あははは!」
「もう……本当にそっくりだね」
結衣も笑う。
「だから似てないって!!」
また二人の声が重なり、今度は全員が大爆笑した。
やがて、あれだけあった餃子も、すっかりなくなっていた。
「……あー、食ったー」
あっきーは満足そうにお腹をさする。
「……もう無理……」
伊織も苦しそうにお腹を押さえる。
二人はそのまま、ほぼ同時に倒れ込む。
「めっちゃ美味しかったー……」
伊織が満足そうに呟く。
するとあっきーは、何の迷いもなく月姫のほうへゴロゴロと移動していく。
「……あっくん?」
そのまま月姫の膝に頭を乗せる。
「ふふっ」
月姫は嬉しそうに笑いながら、あっきーの髪をそっと撫でる。
「二人で食いすぎだって」
ユタカが呆れながら言う。
あっきーが月姫の膝に頭を預けたまま答える。
「普通に食ってたら、伊織ちゃんに全部食べられると思って……」
「いや、こっちのセリフね!!」
伊織が即座に反応する。
「私だって、普通に食べてたらあっきーに全部食べられると思ってたんだから!」
「仲良すぎだろ、お前ら」
雅人が笑う。
結衣も楽しそうに笑っている。
美都もみんなのやり取りを眺めながら、ふっと笑った。
「……今日、来てよかった」
ユタカが嬉しそうに胸を張る。
「だろ? 俺の友達、最高だろ?」
「うん。今日来てよかった」
美都が笑顔で答える。
「よかったじゃん、ユタカ」
雅人が笑いながら言う。
「じゃあ俺らにありがとうって言えよ」
「なんで!?」
ユタカが即座に振り返る。
「急にウザくなるのはなぜ!?」
みんなが笑う。
「……ありがとう」
ユタカが渋々言う。
すると、あっきーが即座に突っ込む。
「素直か!?」
「はははは!」
一斉に笑いが起こる。
「なんでだよ!」
ユタカが笑いながら突っ込む。
そして、ふと思い出したように美都を見る。
「美都、コイツら殴っていい?」
「ダーメだよ」
美都は笑いながら、ユタカの頭を優しく撫でる。
「……」
あっきーがその様子を見てニヤッとする。
「お前、美都ちゃんの言う事はちゃんと聞くんだな」
ユタカ、美都、雅人、結衣があっきーを見る。
………お前が言うな。
そんな空気の中あっきーがふと思い出す
「あ、雅人!さっき買ったやつやろう!」
「お、そーだな!!」
2人は玄関に置いたままの買い物袋を取りに行った。




