最終日なのに賑やかになる予感しかしない
夏休み最終日の昼前。
晃星が自分の部屋でのんびりしていると、玄関から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おーい、あっきー!」
「ん? ユタカ?」
晃星が部屋から出ると、そこにはユタカが立っていた。
「暇だから来た」
「暇だからって俺んち来んなよ」
「いいじゃん。どうせ暇だろ?」
「まぁ……暇だけど」
二人はそのまま晃星の部屋へ戻った。
エアコンが効いた部屋で、二人並んでゲームをしたり、漫画を読んだりしながらダラダラと過ごす。
「エアコン、キンキンに冷えた部屋でゲームに漫画。最高だな」
ユタカが満足そうに言う。
「だよなー。これぞ夏休みの醍醐味って感じするわ」
二人で笑いながら、しばらく何をするでもなくダラダラする。
すると、晃星が腹を押さえた。
「……でも、お腹すいたな」
「俺も」
晃星が立ち上がる。
「ニンニクチャーハン作るわ」
「いいね!」
二人はリビングへ移動し、晃星がキッチンに立つ。
しばらくして、ニンニクの香ばしい匂いが家の中に広がり始めた。
そこへ玄関のドアが開く。
「お邪魔しまーす」
「よー、あっきー」
入ってきたのは雅人と結衣だった。
「お、雅人。結衣ちゃんも」
「なんかめっちゃいい匂いするな」
雅人がキッチンを見る。
「ニンニクチャーハン」
「俺らの分は?」
「あるわけねえだろ」
晃星が即答する。
結衣が笑いながら、
「大丈夫だよ。私たちはもうランチ食べてきたから」
「そうそう」
雅人も笑う。
「じゃあ俺とユタカの分だからな」
「はいはい」
雅人が笑う。
やがて晃星とユタカがチャーハンを食べ始める。
「いただきます!」
「うまっ!」
「やっぱあっきーのニンニクチャーハンうまいわ」
「だろ?」
そんな中、玄関の方から声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
「ただいま」
晃星が箸を止める。
「ん? なんか騒がしいな……」
ユタカが笑う。
「誰か帰ってきたんじゃね?」
「……いやな予感がする」
「なんでだよ」
晃星が玄関の方を見る。
やがて、リビングのドアが開いた。
「ただいまー!」
最初に入ってきたのは伊織だった。
「お、伊織ちゃんじゃん!」
雅人が声を上げる。
そして、その後ろから月姫が顔を出す。
「月姫ちゃんも!!」
結衣が嬉しそうに声を上げる。
「結衣ちゃんも来てたんだ」
月姫が笑顔で挨拶する。
「うん! 今日も遊びに来ちゃった」
「おー、この子が噂の月姫ちゃんか!」
ユタカが笑いながら言う。
「これが有名な織姫コンビね」
「え? 織姫コンビ?」
月姫が少し驚く。
「そうそう。向こうじゃ結構有名なんだぞ」
「ほんと?」
伊織と月姫が顔を見合わせる。
「なんか恥ずかしいね」
月姫が笑う。
「いや、ほんと二人とも可愛いよな」
結衣も笑顔で二人を見る。
「伊織ちゃんも月姫ちゃんも来たし、なんか一気に賑やかになったね」
「だな」
雅人も笑う。
みんなが盛り上がる中、晃星はふとテーブルの上を見る。
そして伊織を見る。
「……」
「……」
伊織もチャーハンを見る。
「……いい匂い」
「いや、……見過ぎだよ?」
晃星が笑う。
「私のある?」
「いや、ランチ行ってきたんでしょ?」
「行ってきたけど……」
伊織の視線は、じーっとチャーハンに向いたままだった。
「……」
晃星はそんな伊織を見て、ふぅと息を吐く。
「……よかったら」
そう言って、自分の皿を伊織の前へゆっくり移動させる。
伊織の顔がぱっと明るくなった。
「全部いいの?」
「いや、全部じゃねえよ!!」
晃星が即座にツッコむ。
「「「あははははは!!」」」
一同が一斉に爆笑する。
「伊織ちゃん、食いしん坊かよ!」
ユタカが笑いながら言う。
「だって……!」
伊織は恥ずかしそうにしながらも、まだチャーハンから目を離さない。
月姫も笑いながら、
「もう、伊織。どれだけ食べるの!」
「月姫まで!?」
伊織が頬を膨らませる。
「いや、今のは俺もびっくりしたわ!」
雅人も笑う。
「『全部いいの?』はないだろ!」
「冗談だってば!」
伊織も笑いながら反論する。
「ほんとかなぁ?」
結衣が笑うと、またみんなが笑った。
「絶対冗談じゃないね!」
晃星が笑いながら言う。
「だって伊織ちゃん、初めて会った時もそうだったじゃん」
「え?」
「ほら、弁当のおかず分けてあげようと思ったら、『全部いいの?』って言っただろ?」
「「あははははは!」」
また一同が爆笑する。
「お弁当の時も!?」
ユタカが笑う。
月姫も笑いながら、
「あはは! やっぱ伊織だね!」
「ち、違うって!」
伊織が慌てて否定する。
「絶対同じじゃん!」
晃星が笑う。
「わんぱくだからな。伊織ちゃんは!」
「もう! 違うし!!!」
そう言いながらも、伊織の視線は再びチャーハンへ向いていた。
「ほら!」
「「「あははははは!」」」
また全員が笑い出した。
そんな賑やかなやり取りが続いていると、晃星の母が財布からお金を取り出した。
「はい、あっきー」
「ありがとう」
晃星は素直に受け取ると、そのまましまう。
すると母がすぐに言った。
「早く飲み物買ってきて」
「またかよ!」
晃星が立ち上がる。
しかし、ユタカは椅子から動く気配がない。雅人もソファに座ったまま、こちらを見るだけ。
「お前らも行けよ」
「俺、熱中症かも」
「俺も」
二人とも一歩も動こうとしない。
「クソが!!」
晃星が叫ぶと、みんなが笑う。
すると、その横で月姫が立ち上がった。
「あっくん、行こっか」
「え?」
月姫が自然に晃星のところまで歩いてくる。
晃星は嬉しそうに笑った。
「さすが月姫!」
そう言って、月姫の手を握る。
「えっ……」
月姫の顔が一気に赤くなる。
「ちょ、あっくん……」
握られた手を見ながら、月姫は焦ったように晃星を見る。
そして少し照れながら、今度は自分から晃星の腕に身体を寄せた。
「……じゃあ、腕組んで行こっか」
「えぇ!? なんで?」
晃星が一気に焦る。
月姫も顔を真っ赤にしながら、それでも離れない。
そして、少しだけ上目遣いで晃星を見上げた。
「私も嫁候補だから?」
「……!」
晃星が固まる。
月姫も自分で言った直後に、さらに顔を赤くする。
「……いや?」
月姫が小さな声で聞く。
「いやじゃない」
晃星が即答する。
「返事早すぎじゃない!!?」
伊織がすかさず叫ぶ。
「なんでそこだけ迷わないの!?」
「え!? だって……」
晃星が焦る。
「だってじゃないでしょ!」
伊織のツッコミに、雅人もユタカも結衣も一斉に笑い出す。
「「「あははははは!」」」
その場にいるみんなが笑う。
すると晃星が、何でもないように言った。
「月姫は魔法使えるから」
「だからあっくん、魔法じゃないよ!」
月姫がすかさず返す。
そして、少し照れながら晃星を見る。
「愛だよね?」
「ね!!!」
晃星が即答する。
「「「ぎゃははははは!!」」」
また一同が爆笑する。
伊織は思わず頭を抱えた。
「だからなんで二人とも息ぴったりなの!?」
月姫は顔を真っ赤にしながらも、晃星の腕を組んだまま離れなかった。
「じゃ、買ってきます〜」
晃星がそう言うと、月姫も笑顔で頷く。
「行こっか、あっくん」
「行きますか!」
二人はそのまま腕を組んだまま玄関へ向かう。
「いってらっしゃーい!」
結衣が笑顔で手を振る。
「気をつけてなー!」
雅人も声をかける。
「ちゃんと飲み物買ってこいよー!」
ユタカが笑いながら言う。
「分かってるって!」
晃星が振り返って答える。
そして晃星と月姫は、そのまま腕を組んで家を出ていった。




