私だけの時間
その日の夜。
月姫は自分の部屋でスマホを眺めながら、昨日のことを思い出していた。
本屋で偶然会ったあっくん。
いつもと変わらない笑顔。
そして別れ際に言ってくれた言葉。
『また月姫の都合いい時は、一緒にゲームやろう!』
『月姫がいないと面白くないから!!』
「……あっくん……」
月姫は思わず頬を緩ませる。
昨日まで、自分はあっくんが女の子たちとプールに行ったことを気にして、勝手に拗ねていた。
でも――。
(……私が拗ねてるだけで、二人だけのゲームの時間まで奪われたくない……)
月姫はスマホを握り直した。
「……よし!」
覚悟を決めて、ゲームにログインする。
すると、すぐに聞き慣れたあっくんの声が聞こえてきた。
『やったー! 月姫来てくれた!!』
「……!」
その声を聞いた瞬間、月姫の顔が自然とほころぶ。
「……あっくん」
『ん?』
「……ごめんね」
『え? なんで?』
晃星は本当に分からないようだった。
「最近、ゲーム来なかったから……」
『ああ、そのこと?』
晃星は笑う。
『別にいいよ! 月姫にも都合あるだろ?』
「……うん」
そして晃星は、嬉しそうな声で続けた。
『でも俺、月姫とゲームやってる時大好きだから今日は最高だ!』
「…………え?」
月姫は固まった。
(……今……)
晃星の言葉の中の「ゲームやってる時」を、月姫は聞き逃してしまった。
(……月姫、大好き……?)
「…………っ!」
一気に顔が真っ赤になる。
(え!? あっくん、今……私のこと大好きって……!?)
「ちょ、ちょっと待って……!」
『え?』
「い、今の……!」
『今の?』
「……なんでもない!」
慌てて誤魔化す月姫。
けれど、心臓はどんどん速くなっていく。
『月姫、今日なんか変じゃない?』
「へ、変じゃない!」
『そう?』
「う、うん! 全然!」
自分でも分かるくらい声が上ずっていた。
『まあいいけど。じゃあゲームやろうぜ!』
「う、うん……!」
月姫は必死に落ち着こうとする。
けれど、頭の中ではさっきの言葉が何度も繰り返されていた。
(……月姫……大好き……)
しばらくして、月姫は我慢できずに聞き直す。
「……ねえ、あっくん」
『ん?』
「さっき……なんて言ったの?」
『さっき?』
「その……大好きって……」
『ああ』
晃星は何でもないように答える。
『月姫とゲームやってる時、大好きだから今日は最高だって言ったけど?』
「…………」
月姫は一瞬、固まった。
そして――。
「……ふふっ」
思わず笑ってしまう。
(私……「ゲームやってる時」のところ、聞き逃してたんだ……)
さっきまで顔を真っ赤にして大慌てしていた自分がおかしくなってくる。
「…ははっ」
『何? なんで笑ってんの?』
「ううん。なんでもない」
月姫は笑いながら、少し恥ずかしそうにする。
「……でも、あっくん」
『ん?』
「私も……あっくんとゲームしてる時間、大好きだよ」
晃星は嬉しそうに笑う。
「おー!嬉しい!! 月姫大好き〜!」
「…………っ!」
今度は、はっきり聞こえた。
聞き間違いじゃない。
「え……」
月姫の顔が一気に赤くなる。
『ん? どうした?』
「……い、今……私のこと……」
『大好き?』
「……っ!」
さらに顔が熱くなる。
晃星はいつものノリで笑っている。
「だって月姫とゲームやるの楽しいし!」
「……もう……あっくん……」
月姫は恥ずかしそうに顔を伏せる。
さっきは勘違いだった。
でも今度は、ちゃんと自分に向けて言われた。
(……嬉しい……)
月姫は赤くなったまま、思わず笑ってしまう。
「……ふふっ」
『何笑ってんの?』
「なんでもない……」
月姫は嬉しそうにゲーム画面を見つめる。
「今日は……いっぱいやろうね、あっくん」
『おー!! とことんやろ!』
二人はそのまま楽しくゲームを続けた。
しばらくして、晃星がふと思い出したように言う。
『そういえば明日は依頼あるから、月姫来なかったら早めに切り上げようと思ってたけど……来てくれたし、まだまだやろ!』
「あー、よろずやの?」
『そうそう! 草むしりが明日まであるんだよ〜。炎天下の中、ひどい依頼でしょ』
晃星は笑いながら話す。
「ふふっ。大変そう」
そして月姫は少し心配そうな声になる。
「熱中症、気をつけてよ?」
『大丈夫、大丈夫!』
「本当に? 無理しちゃダメだからね」
『分かってるって!』
晃星が笑うと、月姫も少し安心したように微笑んだ。
――翌日。
予想以上の暑さの中、晃星と虎太は朝から草むしりを続けていた。
照りつける太陽の下で作業を続け、ようやく今日の分を終える。
「……死ぬ〜」
晃星がぐったりしながら言う。
「……俺も死ぬ〜」
虎太も疲れ切った様子で答える。
「よし、なんとか終わったな!」
虎太が立ち上がる。
「今日は真央も用事あるからさっさと帰ってゴロゴロするわ」
「受験勉強しろよ……」
虎太が振り返る。
「ボチボチやってんだよ!」と虎太が笑う。
途中で虎太と別れ、晃星は一人で帰路についた。
「……あっつ……」
その時だった。
「――あっくん!」
聞き慣れた声がした。
晃星が振り返る。
「月姫?」
そこには月姫が立っていた。
「お疲れ様、あっくん」
月姫はそう言うと、持っていた冷たいスポーツドリンクを晃星の頬に押し当てる。
「つめたっ!」
晃星は驚きながらも、嬉しそうに笑う。
「ありがとう、月姫!」
「今日も暑いから。あっくん、昨日、草むしりって言ってたし……ちょっと心配だったの」
「わざわざ来てくれたの?」
「うん」
月姫は小さく笑った。
「今日も暑いから」
「月姫優しい!!ありがとう」
晃星はスポーツドリンクを受け取って、一口飲む。
「じゃあ、せっかくだしさ」
「ん?」
晃星が月姫を見る。
「かき氷でも食べに行かない?」
「……!」
月姫の顔がぱっと明るくなる。
「行く!」
思わず食い気味に答えてしまい、月姫は少し照れながら笑った。
「ふふっ」
「そんなに嬉しい?」
「だって……あっくんと行けるし」
「ん?」
「……なんでもない」
月姫は少しだけ顔を逸らした。
二人はそのまま並んで歩き始める。
向かったのは、かき氷で有名な店だった。
店に着くと、それぞれ好きなかき氷を注文する。
しばらくして運ばれてきた大きなかき氷を見て、月姫の顔がぱっと明るくなった。
「わぁ……美味しそう!」
「すげえな、これ!」
二人は並んでかき氷を食べ始める。
「ん〜! 美味しい!」
月姫は嬉しそうにスプーンを口に運ぶ。
「ほんとだ。これうまい!」
「ね!」
しばらく食べていると、月姫がスマホを取り出した。
「ねえ、あっくん。一緒に写真撮ろう?」
「いいよ!」
二人でかき氷を持って並び、月姫がスマホを構える。
「はい、笑って!」
「はーい!」
パシャッ。
撮れた写真を確認すると、月姫は満足そうに微笑んだ。
「……うん。いい写真」
「ほんとだな!」
「これ、今日の思い出にしよっと」
月姫は嬉しそうに写真を眺める。
その後も二人は楽しくかき氷を食べ続けた。
「ねえ、あっくん。そっちの味ちょっと食べてみたい」
「いいよ。じゃあ俺も月姫の食べたい」
「じゃあ……はい」
月姫がスプーンですくって晃星の方へ差し出す。
「あーん」
「ありがと!」
晃星が食べると、月姫は嬉しそうに笑った。
「どう?」
「うまい!」
「ほんと?」
「うん!」
今度は晃星が月姫の方へスプーンを差し出す。
「じゃあ月姫も、あーん」
「……え?」
少し照れた月姫だったが、嬉しそうに口を開ける。
「あーん……」
「どう?」
「……美味しい」
二人は笑いながら、最後までかき氷を楽しんだ。
店を出る頃には、月姫はすっかり満足そうな表情になっていた。
「今日は楽しかったね、あっくん」
「俺も楽しかった!」
月姫は隣を歩く晃星を見て、嬉しそうに微笑む。
暑い夏の日。
二人は仲良く並んで、かき氷の店を後にした




