ここ俺の家な!!
「……ん?」
晃星は目を覚ました。
昨日は深夜まで漫画を読んでいたせいで、まだ少し眠い。
ベッドの上でぼんやりしていると、下の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「……なんだ? 朝から騒がしいな」
晃星は眠そうに頭をかきながら、部屋を出る。
階段を降りてリビングへ向かうと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「それでね、ママ――」
「へぇ〜、そうなの?」
そこには、母親と伊織がいた。
しかも、二人で仲良くスイカを食べながら話している。
「……昨日電話したばかりなのに、もうスイカ食いに来てやがる」
晃星が呆れながらリビングに入る。
「お、あっきー。起きた?」
伊織が振り向く。
「おはよ、あっきー」
「おはよ……って、なんで朝から伊織ちゃんがウチでスイカ食ってんだよ?」
「だって、ママに今日来る?って誘われたんだもん」
「……まあ、いいけどさ」
伊織はスイカを食べながら、また母親との話に戻る。
「それでね、ママ。昨日のカラオケなんだけど――」
伊織は昨日の出来事を話していく。
「やっぱりさぁ、紹介とかされても、ろくな男いないね」
「そうなの?」
「うん。最初は爽やかで優しそうだったんだけどね」
伊織は昨日のことを思い出しながら話す。
「でも、ニコがあんなに気まずそうにしてるのに全然気にしてないし、自分が私と仲良くなれればそれでいいみたいな感じだったから」
「なるほどねぇ」
ママは頷きながら聞いている。
「それで、伊織ちゃんが怒って帰ったの?」
「うん。ニコ連れて帰った」
伊織は頷く。
するとママが、嬉しそうに伊織を見る。
「よくその爽やかイケメンのこと見抜いた!」
「え?」
「さすが私の娘!」
「えへへ……」
伊織が少し照れながら笑う。
その時、晃星が二人の会話に入ってきた。
「……で、何の話?」
ママが晃星を見る。
「あっきーが伊織ちゃん大事にしないせいで、他の子のところ行っちゃうとこだったじゃん!!」
「……は?」
晃星は何のことか分からず固まる。
「いや、そういうことでもないよ?」
伊織が苦笑いしながら否定する。
「昨日の男の子は、そういう感じじゃないから」
「でもね、ママ」
伊織はスマホを取り出す。
「これ見て」
美咲がSNSにアップした昨日のプールの写真をママに見せる。
「ほら、めっちゃ楽しそうでしょ?」
写真には、水着姿の女の子たちと一緒に楽しそうに笑っている晃星が写っている。
「嫌だよねー、スケベは!」
「ほんとやだよねぇ」
ママも写真を見ながら笑う。
「……おい」
晃星が呆れたように二人を見る。
するとママが伊織をぎゅっと抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「浮気されたと思って、他の子のところ行ったんだよね!」
「いや、さっきも言ったけど、そんなんじゃないし!!」
伊織は慌てて否定する。
「……お前、大丈夫か?」
晃星が呆れたようにママを見る。
「何が?」
「いや……なんか変な方向に話進んでない?」
ママは気にする様子もなく、伊織を抱きしめたまま頭をヨシヨシする。
「よしよし。伊織ちゃん、寂しかったんだよね〜」
「だから違うってば、ママ!」
そこへママが思い出したように話す。
「でもね、さっきまでユタくんがいて、伊織ちゃんの誤解を解いてくれたのよ」
「昨日のプール、失恋した子たちを楽しませるために行ったんだって。ユタくんがちゃんと説明してくれたの」
胸の奥にずっと引っかかっていたものが、少しだけ軽くなった。
プールの写真を見た時から感じていたモヤモヤも、少しずつ消えていく。
「……なんだ。そういうことだったんだ」
ユタカの説明を聞いた伊織は表情が柔らかくなった。
そして、説明してくれたユタカを思い出しふっと笑った。
「ユタカくんも、やっぱりあっきーの友達って感じの子だったな」
「だろ?」
晃星が笑う。
「ノリとか、あっきーとそっくりだったし」
「おい、褒めてんのか?」
「もちろん」
伊織は楽しそうに笑った。
「で、あいつは?」
晃星がユタカのいた場所を見ながら聞く。
「先輩のところ行ってから、彼女のところ行くって出てったよ」
「相変わらず忙しい奴……」
晃星は呆れたように呟いた。
「まあ、とりあえずスイカ食べなよ」
伊織が晃星の前にスイカを差し出す。
「あ!ありがとう!!」
晃星が受け取る。
「いや、ここ俺んちな!!」
「ふふっ」
伊織が楽しそうに笑う。
晃星はスイカを食べながら、ふと思い出したように聞く。
「つか、明日の草むしりは来るよな?」
「……あー、あ、明日はママと買い物行くから、無理かなぁ」
伊織が気まずそうに目を逸らす。
「無理かなぁじゃねえよ!」
晃星が即座に突っ込む。
「草むしるの嫌なだけだろうが!」
「ち、違うし!」
「絶対そうだろ!」
「違うってば!」
するとママが二人を見ながら言う。
「だって、さっき約束したもんね」
「ねー!」
伊織も嬉しそうに頷く。
「つか、なんで今日やってないの?」
伊織が晃星に聞く。
「部長が用事あるんだと」
「絶対大した用事じゃないよね」
伊織が笑う。
「まあ、明日で終わるだろうし、頑張ってくるか」
晃星は諦めたように息を吐く。
そして伊織を見る。
「でも、もうすぐ二学期だから、それまでにはおばちゃんの方の依頼、何か考えといてよ」
「あー、旧校舎の使い道ね!」
伊織は軽いノリで頷いた。
「オッケー」
「……頼むぞ」
晃星は苦笑しながら、スイカを口に運んだ。
午後になってしばらくすると、伊織はソファに座りながら小さくあくびをした。
「……ふぁ……眠くなってきた」
「じゃあ寝れば?」
晃星が何気なく言う。
「うん……そうする」
伊織は立ち上がると、慣れた様子で晃星の部屋へ向かった。
「ちょっと、あっきーの布団借りるねー」
「はいはい」
伊織は晃星の布団に入ると、枕に頭を乗せて目を閉じる。
「……おやすみ」
「おやすみ、伊織ちゃん」
それからしばらくして、伊織はすっかり眠ってしまった。
晃星は眠っている伊織を見て、思わず呟く。
「……ほんと、かわいい寝顔」
「……っ」
伊織は、まだ完全には眠っていなかった。
目を閉じたまま、晃星の声だけはしっかり聞こえている。
(……かわいいって……言った……?)
一気に頬が熱くなる。
恥ずかしくて目を開けられないまま、そのまま本当に眠りに落ちていった。
そして夕方。
「伊織ちゃん、ご飯できたよー」
晃星のママに声をかけられ、伊織はゆっくりと目を覚ました。
「ん……あれ、私寝ちゃった?」
「結構寝てたよ」
「うそ……」
伊織は眠そうに目をこすりながら起き上がる。
「もう晩ご飯できてるよ」
「ほんと!? 食べるー!」
そのままリビングへ行き、晃星とママと一緒に晩ご飯を食べる。
「いただきまーす!」
いつも通り楽しそうに話しながら食事を終えると、外はすっかり暗くなっていた。
「伊織ちゃん、そろそろ送ってくね」
「うん!」
玄関で靴を履き、伊織は晃星に手を振る。
「じゃあね、あっきー!」
「またな、伊織ちゃん」
「うん、またねー!」
伊織は晃星のママと一緒に車へ乗り込み、そのまま家へ帰っていった。




