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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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悪くはないとわかっているんです


———あっくんが他の女の子たちとプールに行った日以来。


月姫は、夜のゲームにログインすることができなくなっていた。


いつもの時間になると、自然とスマホを手に取る。


「……今日も、やろうかな」


ゲームのアイコンを見つめ、アプリを開こうとする。


けれど、その瞬間――美咲がSNSに載せていた写真が頭に浮かんだ。


プールで楽しそうに笑っている、あっくんの顔。


「……」


月姫の指が止まる。


別に、あっくんが悪いことをしたわけじゃない。


友達とプールに行っただけ。


それも分かっている。


それなのに、あの写真を思い出すと、胸の中に何とも言えない複雑な気持ちが湧いてくる。


「……なんだろう、これ」


もう一度、ゲームを開こうとする。


けれど、やっぱり指が動かない。


ログインすれば、いつものようにあっくんと話せる。


一緒にゲームだってできる。


それなのに――今は、それができなかった。


月姫はスマホを伏せる。


「……今日は、やめとこう」


そう呟いて、ベッドに横になった。


その頃、晃星はいつものようにゲームをしていた。


けれど、何となく落ち着かない。


「……今日も月姫来ないなー」


ゲーム画面を見ながら、ぽつりと呟く。


いつもなら、この時間になれば月姫がログインしてくる。


けれど、あのプールの日から、月姫はゲームに来ていなかった。


「忙しいのかな?」


そう思いながらも、少し気になっていた。


それでも、月姫から連絡が来るわけでもない。


「まあ、また明日やればいいか」


晃星はゲームをそこそこで切り上げる。


明日は、学校から頼まれている用事がある。


「明日も早いし、そろそろ寝よ」


晃星はスマホを置くと、布団に入った。


「月姫、明日は来るかな……」


そんなことを少しだけ考えながら、晃星は眠りについた。


翌朝。


晃星は朝早くから学校へ来ていた。


今日の依頼は、学校の校庭の草むしり。


照りつける太陽の下、晃星はしゃがみ込み、黙々と草を抜いていく。


今日のメンバーは晃星と部長の虎太の二人だけだった。


奈緒は家の用事があるらしく、今日は欠席。


そして伊織も「今日は用事がある」と言って欠席していた。


「……奈緒ちゃんはともかく、伊織ちゃんは絶対やりたくなかっただけだろ」


晃星は額の汗を拭いながら、ぶつぶつ文句を言う。


「なんで俺と部長だけなんだよ……」


「まあまあ。こういうのも、よろずやの仕事だろ」


虎太は慣れた様子で草を抜いている。


「いや、分かってるけどさぁ……」


二人は炎天下の中、黙々と作業を続ける。


しばらくして、虎太がふと晃星に話しかけた。


「そういえば晃星、夏休み楽しんでるか?」


「まあまあです」


晃星は少し考えてから答える。


「でも、色々と面倒なこともありますけど」


「へえ?」


虎太がニヤッと笑う。


「どうせ天川ちゃんと痴話喧嘩とかだろ?」


「……うぜえ」


「ははは!」


虎太は楽しそうに笑う。


「まあ、青春だな」


「部長に言われると余計うぜえ」


晃星はそう言いながら、再び草を抜き始める。


そして、仕返しするように虎太を見る。


「部長も大学受験、頑張ってくださいね」


「お前、それ嫌味だろ」


「応援してるだけですよ」


「……絶対嫌味だろ」


草むしりを続けることしばらく。


虎太が腰を伸ばし、大きく息を吐いた。


「よし、今日はこの辺でいいだろ」


「やっとか……」


晃星も立ち上がり、腰を伸ばす。


「続きは明後日にしよう」


「明後日?」


「明日は俺、用事あるからな」


虎太がそう言ってから、少し考えるように晃星を見る。


「まあ、お前一人でやってくれるなら来てくれてもいいけど?」


「絶対やだ!」


晃星は即答した。


「なんで俺一人で炎天下の草むしりしなきゃいけないんだよ!」


「ははは。だよな」


学校を出た晃星は、そのまま学校の近くにある大きな本屋へ向かった。


今日は、以前から楽しみにしていた漫画の新刊発売日だった。


店内に入り、漫画コーナーへ向かう。


「あ、あった!」


目当ての新刊を見つけた晃星は、嬉しそうに手に取った。


「これこれ!」


新刊を手にしたまま、レジへ向かおうとする。


その時だった。


ふと、店内に見覚えのある姿があることに気づいた。


「……ん?」


晃星が顔を上げる。


そこにいたのは――。


「月姫!」


「……あっくん?」


突然呼ばれた月姫が振り向いた。


一瞬、驚いた表情を浮かべる。


そして、晃星の顔を見た瞬間、月姫の口元がほんの少し緩んだ。


けれど、その直後――。


美咲がSNSに載せていた写真が頭に浮かぶ。


プールで楽しそうに笑っている、あっくんの顔。


月姫の表情から、さっきまでの柔らかさが消えていく。


「……こんにちは」


「え?」


晃星は少し戸惑った。


「どうしたの? 月姫」


「別に」


月姫はそっけなく答える。


晃星は月姫の手元を見る。


「今日の新刊、買いに来たんでしょ?」


「うん」


「俺も」


晃星は自分が持っている新刊を見せながら、笑顔で答える。


「これさ、週刊誌の方で読んでるけど、今回めっちゃいいとこだよ!」


「え?」


漫画の話になった途端、月姫の表情が少し変わった。


「前巻からそんな急展開になるの!?」


「そうなんだよ! しかも――」


「え? 前巻からそんな急展開になるの!?」


「そうそう! それでさ――」


さっきまでそっけなかった月姫が、いつの間にか晃星の話に食いついている。


「じゃあ、あの二人ってどうなるの?」


「それがさ……」


二人はそのまま漫画の話で盛り上がりながら、レジへ向かった。


そして、それぞれ同じ新刊を購入する。


本屋を出ると、さっきまで漫画の話で盛り上がっていた月姫が、また少し口数を減らした。


晃星はそんな月姫の様子には深く気づかず、いつものように笑顔で言う。


「じゃあ俺帰るから。月姫も気をつけてね!」


「うん。バイバイ」


月姫が小さく手を振る。


「じゃあね!」


晃星も手を振り、そのまま歩き出す。


数歩進んだところで、晃星が何かを思い出したように振り返った。


「あ、そうだ!」


「?」


月姫が振り返る。


「また月姫の都合いい時は、一緒にゲームやろう!」


晃星はいつもの笑顔で言う。


「月姫がいないと面白くないから!!」


「……」


月姫は一瞬、目を丸くする。


そして、少しだけ口元を緩めた。


「うん。また行ける時、行くね」


「うん! バイバイ!」


晃星は笑顔で手を振る。


月姫も笑顔で手を振り返す。


「バイバイ」


二人は手を振りながら、それぞれ帰っていった。

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