自分のことは嫌いになっちゃダメ
その後も六人は、思いっきりプールを楽しんだ。
ウォータースライダーに何度も乗ったり、流れるプールで遊んだり、休憩スペースでくだらない話をしたり。気づけば、朝から始まったはずの時間も、あっという間に過ぎていた。
休憩スペースで飲み物を手にしながら、六人は並んで座っていた。
「あー、楽しい!」
美優が満足そうに笑う。
「ね。本当に楽しい」
紗耶も笑顔を浮かべる。
たかちゃんは、そんな二人を見ながら得意げな顔をした。
「まぁ、ユタカは彼女いるけど、女の子楽しませるのは得意だし。俺の人選に間違いなかったな」
「自分で言うんだ、それ」
晃星が笑う。
「いや、実際そうだろ?」
たかちゃんが胸を張ると、ユタカも苦笑した。
「まぁ、こういうのは慣れてるからな」
「ほんと助かったよ。今日来てよかった」
紗耶がそう言って、少し遠くを見るような表情を浮かべた。
「ね。浮気されて別れてから、こんなに笑ったことなかったかも」
「……」
一瞬だけ、みんなの表情が止まる。
紗耶は少し照れたように笑った。
「別れてから、ずっとそのことばっかり考えちゃって。自分のことも嫌いになりそうだったし」
それを聞いたユタカが、いつもの軽い調子とは少し違う表情になった。
「それはダメだろ」
「え?」
「そんな事で自分を嫌いになるのは絶対ダメ!」
ユタカは紗耶をまっすぐ見ながら続ける。
「二股された原因があったとか、自分にも反省するところがあったとか、そういうことを考えるのはいいと思う。でも、それで自分を嫌いになるのは違う」
紗耶は黙ってユタカの話を聞いている。
「自分を嫌いにならなければ、またすぐ新しい出会いにも前向きになれるから」
「……ユタカくんって、優しいんだね」
紗耶が柔らかく笑う。
「お前、いいこと言うな」
晃星が感心したように言うと、ユタカは晃星のほうを見る。
「お前、自分のこと嫌いになったことねえだろ?」
「俺?」
晃星は少し考えてから、いつものように笑った。
「俺はモテないし、これといった特技もないけど、自分を嫌いと思ったことは無いね」
「はい!素晴らしい」
ユタカが突然、大笑いする。
「なんだよ!」
「いや、お前らしいわ!」
「なんで笑うんだよ!」
晃星も笑いながら言い返す。
「そーだよ! これからもっといい男出てくるよ!」
「朝倉も紗耶ちゃんもかわいいから、すぐ男できそうじゃん」
「そうかな?」
紗耶が照れたように笑う。
「うん。絶対そうだって」
美咲も少し恥ずかしそうに笑った。
「……ありがとう」
六人の間に、また明るい空気が戻っていく。
しばらくすると、美優がスマホを取り出した。
「ねえ、とりあえずみんなで写真撮ってSNSにあげていい?」
「いいじゃん!」
「撮ろうぜ!」
六人は休憩スペースで並び、写真を撮ることになった。
「じゃあ、いくよー!」
美優がスマホを構える。
「はい、チーズ!」
普通に撮ったあと、晃星が突然変な顔をする。
「ちょ、あっきー何その顔!」
ユタカも負けじと変顔をする。
「俺も!」
「お前までやるのかよ!」
たかちゃんもつられて変な顔を作る。
「俺も入る!」
男子三人が揃って変顔をすると、女子三人は思わず笑った。
「ふふっ、男子三人とも楽しそう」
美咲が楽しそうに笑う。
「ほんとだね」
美優も笑いながらスマホを確認する。
「これ、いいじゃん!」
「送って送って!」
美優は撮った写真を紗耶と美咲にも送った。
「じゃあ、私もSNSに載せよっと」
「私も!」
女子三人がそれぞれスマホを操作する。
「女の子たちが楽しんでくれてよかったなって思うわ」
晃星が笑う。
「だな」
ユタカも頷いた。
その後も六人はプールを楽しみ、最後まで笑い声が途切れることはなかった。
やがて帰る時間になり、荷物をまとめる。
「あー、楽しかった!」
美優が大きく伸びをする。
「うん。今日は本当に楽しかった」
紗耶も笑顔で頷く。
「せっかくだし、また今度みんなで遊ぼうよ!」
美優が言うと、みんなが顔を見合わせる。
「いいね!」
「また遊ぼう!」
そんな中、紗耶が晃星を見る。
「じゃあ、ユタカくんは彼女いるから……あっきーくん、連絡先交換してよ」
「私も!」
美咲も続ける。
「全然いいよ!」
晃星は笑って、二人と連絡先を交換した。
その様子を見ていたたかちゃんが、ふと思い出したように口を開く。
「……あ、そういえば」
「ん?」
「伊織ちゃん、大丈夫?」
晃星はきょとんとする。
「え?だから、伊織ちゃん関係なくない?」
「……」
たかちゃんが固まる。
「……関係ないの?」
「何が?」
晃星は不思議そうに首を傾げた。
やがて六人はそれぞれ帰路についた。
たかちゃんとも別れ、晃星とユタカはしばらく二人で歩く。
「あー、今日あっきーんち泊まってこうかなー」
「急だな、お前」
そのとき、ユタカのスマホが鳴った。
「あ、彼女だ」
画面を確認したユタカが笑う。
「今日プール行くのも許してくれたし、今から会ってくるわ」
「はいはい。じゃあまたな」
「おう!」
ユタカと別れ、晃星は一人で家へ向かって歩き始める。
その途中、スマホが震えた。
確認すると、紗耶からメッセージが届いていた。
『今日はありがとう! みんなのおかげで楽しかったよ』
晃星はすぐに返信を打つ。
『俺も楽しかった』
そう入力したところで、別のメッセージが届いた。
月姫だった。
『あっくん、今日のプール女の子いたんだ……』
続けて、もう一通。
『美咲ちゃんのSNSに楽しそうな顔で載ってたよ』
「え!?」
晃星は思わず足を止める。
『月姫なんか怒ってる?』
しばらくして、返信が届いた。
『よかったね! 眩しい水着姿の女の子達とプール行けて!!』
「いや、あの……」
晃星は慌ててスマホを操作する。
『あ、後でゲームの時に話すね?』
すると、すぐに返信が来た。
『しませんけど?』
「……」
それを最後に、月姫からのメッセージは来なくなった。
「……怒ってるよな、これ」
晃星が不安そうにスマホを見つめていると、再びスマホが震えた。
「月姫!?」
慌てて画面を見る。
しかし、そこに表示されていた名前は伊織だった。
『海とか行こうとか言っといて、違う子達とプール行くんですね?』
「…………」
晃星はスマホを見つめたまま、ゆっくりと肩を落とした。
「………なんで?」
今日一日、六人であれだけ思いっきり楽しんだ。
なのに帰り道には、月姫と伊織から立て続けにメッセージが届いていた。
晃星は深くため息をつくと、スマホをポケットにしまう。
………どうしてこうなった?……
わけがわからない晃星は初めて自分が嫌いになりそうだった。




