プールへ行こう
夏休みのある日の夕方。
スーパー銭湯のサウナを出た晃星とユタカは、そのまま水風呂へと浸かっていた。
「っはぁ〜……最高」
晃星が気持ちよさそうに息を吐く。
「やっぱサウナからの水風呂はたまんねぇな」
「分かる。これがあるからサウナやめられないんだよな」
隣ではユタカも気持ちよさそうに目を閉じている。
ユタカは晃星の地元の友達で、幼い頃からの付き合いだ。顔立ちがよく、雅人やヒロキと並んでも引けを取らないくらい整った顔をしている。そのうえ顔が広く、女の子の扱いも上手い。初対面の女の子ともすぐに打ち解けるタイプで、ナンパも上手かった。
そんなユタカには、すでに彼女がいる。美人で、育ちのいい年上のお嬢様タイプの女性だ。ユタカとは性格こそ違うものの、妙に相性がよく、仲良く付き合っている。
水風呂から上がった二人は、休憩スペースの椅子に並んで座った。
「ふぅ……」
「整ったぁ……」
二人とも何をするでもなく、しばらくダラダラしている。
その時、晃星のスマホが鳴った。
「ん?」
画面を見ると、たかちゃんからだった。
「もしもし?」
『あっきー? 明日、彼女と近場のプール行くんだけどさ』
「うん?」
『彼女の友達も二人、行きたいって言ってるから、お前らも来る?』
「え、女の子?」
晃星の声が一気に明るくなる。
ユタカも隣から身を乗り出した。
「女の子いるの?」
「たかちゃん、どんな子?」
『二人とも最近失恋したばっかなんだけどさ。新しい恋もしたいけど、まあ、とりあえず今はみんなで楽しく遊びたいって感じみたい』
「なるほどなぁ」
晃星とユタカは顔を見合わせる。
「……行く?」
「行く!」
ユタカは即答した。
「俺、彼女に聞いてみるわ」
そう言ってスマホを取り出し、彼女に連絡を取る。
しばらくして、ユタカが顔を上げた。
「オッケー。行っていいって」
「よっしゃ!」
晃星も嬉しそうに笑う。
「じゃあ決まりだな!」
「おう!」
「俺も彼女できたらいいなぁ」
「いいじゃん、あっきー。明日はチャンスあるかもよ?」
「マジで?」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして、二人のテンションがさらに上がっていく。
「しかもプールだろ?」
「水着女子だもんな!」
「ししし……」
「楽しみだなぁ!」
すっかり浮かれた二人だった。
その夜。
晃星はいつものように月姫とゲームをしていた。
「よしっ! そこ!」
「待って、あっくん! 今行くから!」
「早く早く!」
「もう、あっくんが先に行っちゃうからでしょ!」
ゲームをしながら、いつものように二人で盛り上がる。
ひと段落ついたところで、晃星がふと思い出したように話しかけた。
「そういえば月姫」
「なに?」
「俺、明日プール行くんだ」
「えっ、プール?」
月姫が晃星を見る。
「うん。たかちゃんとユタカと一緒に行くんだ」
「いいなぁ……」
月姫が少し羨ましそうに呟く。
「月姫、プール好きなの?」
「好きだよ。海もいいけど、プールも楽しいじゃん」
「だよな」
「私も行きたいなぁ……」
月姫がぽつりと言う。
「じゃあ、今度行こうよ」
晃星が何気なく言う。
「……本当?」
月姫の顔がぱっと明るくなる。
「うん。今度な」
「約束?」
「約束」
「ふふっ」
月姫が嬉しそうに笑う。
「でも、あっくんは海とプールだったらどっちが好き?」
「俺はプールかな」
「どうして?」
「海はしょっぱいから」
「……理由それ?」
月姫が吹き出す。
「ししし、だってしょっぱいじゃん」
「もう……あっくんらしい」
月姫は笑いながら、少し考える。
「じゃあ、私と行く時もプール?」
「うん。プールでいいんじゃない?」
「そっか」
月姫は嬉しそうに頷いた。
そして、ふと晃星の顔を見る。
「……でもさ」
「ん?」
「あっくんに水着姿みられるの…ちょっと恥ずかしいきも……」
「え?」
晃星が一瞬固まる。
「いや……」
「?」
「月姫の水着って考えたらさ」
晃星は少し照れくさそうに笑った。
「出会った頃みたいに、眩しくて見られなくなるかもしれない」
「……もう!」
月姫の頬が一気に赤くなる。
「なんでそんなこと言うの……」
「いや、本当にそうなりそうだなって」
「……もう眩しいなんて思ってないくせに」
月姫は照れながら、視線を逸らした。
「楽しみにしてるわ」
「……うん」
月姫は小さく頷いた。
そして晃星に気づかれないように、心の中で決めていた。
――新しい水着、買いに行こう。
翌日。
晃星とユタカは待ち合わせ場所へ向かっていた。
「いやー、楽しみだな!」
「だな!」
「たかちゃんの彼女の友達って、どんな子なんだろうな?」
「失恋したばっかって言ってたからなぁ」
そんな話をしながら歩いていると、待ち合わせ場所が見えてきた。
そこには、たかちゃんと彼女の美優。そして美優の友達二人がいた。
「おっ!」
晃星が三人の女の子を見る。
「……かわいい!」
ユタカも目を輝かせる。
「みんなかわいいじゃん!」
二人のテンションが一気に上がった。
「たかちゃん、やるなぁ!」
「いや、俺の彼女は美優だからな?」
たかちゃんが呆れたように返す。
「じゃあ、私から自己紹介するね」
美優が笑って、一歩前に出る。
「私は美優。たかちゃんと付き合ってます。よろしくね」
明るく親しみやすい雰囲気の女の子だった。
「私は紗耶です。美優とは中学からの友達で、美咲とも仲良くしてます」
紗耶が柔らかな笑顔を浮かべる。髪は肩より少し長めで、前髪はきれいに揃ったぱっつん。落ち着いた雰囲気がありながら、笑うと可愛らしい印象になる。
「私は朝倉美咲。同じ学校のきりゅちゃんとは知り合いです」
最後に美咲が笑う。
学校ではよく見かける美咲も、今日はいつもの制服姿とは違う、明るく親しみやすい雰囲気だった。
「よろしく!」
晃星が笑う。
すると紗耶が晃星の顔を見て、ふと声を上げた。
「あっ……もしかして、美咲が告白した時に手伝ってくれた桐生くん?」
「え? ああ、そうそう」
美咲が頷く。
「この前話してたきりゅちゃんって、この人なんだ」
紗耶が納得したように笑う。
すると美優も晃星の顔を見て、ふっと笑った。
「桐生くんって、あっきーくんのことだったんだ」
「え?」
晃星が驚く。
「たかちゃんから、あっきーくんって話は聞いてたから」
「なるほど……」
晃星が頷く。
「じゃあ、俺も自己紹介しとくわ」
ユタカが一歩前に出る。
「ユタカ。よろしく!」
「……え?」
三人の女子が顔を見合わせる。
「もしかして、南中でユタカってあのユタカくん?」
「知ってる!」
「私も聞いたことある!」
ユタカは地元でも顔が広く、名前を知られているほどの有名人だった。
「おお、嬉しい」
ユタカが嬉しそうに笑う。
「今日楽しみだね〜!」
ユタカは三人を見回す。
「こんなかわいい子たちが、どんな水着着るのか楽しみだわ」
「ちょっと、ユタカくん!」
美優が笑う。
「だって気になるじゃん。みんな、どんな水着?」
すると晃星がニヤッと笑った。
「そんなに俺のブーメランパンツ見たい?」
「は?」
晃星はバッグに手を入れ、水着を取り出そうとする。
「俺、持ってきてるけど」
「おお!」
ユタカもすぐに乗っかる。
「俺と一緒じゃん!」
「だろ?」
「お揃いだもんな!」
二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「いや、誰も見たくないから!」
美咲が即座にツッコむ。
「いや、こんなかわいい子たちの水着姿に対抗するには、ブーメランパンツ履くしかないかと思って」
晃星が真顔で言う。
「そうそう!」
ユタカも大きく頷く。
「たかちゃんもブーメランやんな?」
「もういいって!」
たかちゃんが呆れたように返す。
するとユタカが、ふと美優を見る。
「あ、美優ちゃんいるから、いつもと違うな」
「ん?」
「たかちゃん、彼女といるとキャラ作るタイプか?」
晃星もすぐに乗っかる。
「ダセェ!!」
「な!! ダセェ!!」
ユタカも笑いながら返す。
「ダセェなぁ!」
「ダセェ!!」
二人は顔を見合わせてケラケラ笑う。
「お前ら、いい加減にしろ!」
たかちゃんが怒ると、美優、紗耶、美咲の三人は顔を見合わせて、思わず笑っていた。




