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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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この子も相当な奴だった!!


———月姫の姿が見えなくなった瞬間、結衣が雅人の服を掴んだ。


「おい!」


「はい」


「どうなってんのよ!!あんたの親友!!!なんであんなにかわいくて純粋な子に、そんな無意識で思わせぶりなこと言えるの!?」


「……ほんと、その通りだと思います」


雅人は素直に頷いた。


「とりあえず、ごめん」


「本当、本人問い詰めたい」


「マジで悪い奴じゃないんだよ。むしろいい奴過ぎるんだよ」


「でしょうね!!知ってるからイライラすんのよ!」


「でもそういう自然なとこが月姫ちゃんも気になってんだろ?」


「そういう問題じゃないの!」


結衣は呆れたように雅人の服を離した。


雅人は少し考えてから口を開く。


「でもさ、俺、ちょっと気になったんだけど」


「なに?」


「アイツさー、月姫ちゃんのこと無意識のうちに結構特別扱いしてると思う」


「特別扱い?」


「うん。なんかさ……俺らと同じ扱いなんだよ」


「……それ、特別扱いって言うの?」


「言うだろ。たぶん」


「たぶんって何よ」


「『会いたくなったらいつでも会うから』とか、『話したい時は全然付き合う』とか。俺らのいつものメンツには多分、言うんだよ」


「なるほど……」


結衣は一度頷く。


「でも、それって月姫ちゃんからしたら、普通じゃないわよね」


「だよな」


「しかも毎日ゲームとかして連絡してるんでしょ?」


「そう。あいつ、多分伊織ちゃんにもそんなに連絡してないぞ」


「えっ、そうなの?」


「まず俺らでも毎日連絡なんて取らないからな」


雅人は苦笑しながら肩をすくめる。


「なんか俺、負けた気分だわ」


「何に負けてるのよ」


「そりゃ月姫ちゃんだろ!?」


「何に嫉妬してんのよ」


「でも毎日連絡してるって聞くと、なんか悔しくない?」


「知らないわよ」


二人は顔を見合わせ、思わず笑った。


「今の電話も、アイツだったりして」


「……こんな時間に〜?」


そんな話をしていると、月姫が戻ってきた。


「ごめんね!」


「おかえり」と結衣が笑う。


そして、少しニヤつきながら尋ねた。


「もしかして、気になる人からだった?」


月姫の顔が一気に赤くなる。


「……」


小さく、コクン。


「やっぱり!」


結衣が嬉しそうに声を上げる。


「えー、なになに? なんだったの?」と雅人も身を乗り出す。


月姫は恥ずかしそうに話し始めた。


「私の好きな漫画があって、その漫画が映画化されるからって教えてくれて……」


「へぇー!」と結衣が声を上げる。


「それで……一緒に見に行こう!!って……」


「…………」


結衣と雅人は、同時に顔を見合わせた。


月姫は嬉しそうに続ける。


「始まったら一緒に見に行こうって。私、あの漫画すごく好きだから……嬉しくて」


「そっかぁ」と結衣が笑う。


雅人は月姫を見ながら、内心で呟いた。


――いや、それ、ほぼデートの誘いじゃない?


――なんで本人が肝心なとこで漫画が主になってんの?喜ぶとこそこじゃないのよ。


「……どうしたの?」と月姫が二人を見る。


「いや、なんでもない」と雅人が答える。


結衣が雅人の脇腹を肘で小突いた。


「余計なこと言わないでよ」


「はい」


すると月姫が「あ、そういえば」と思い出したように続けた。


「それとね。さっきナンパみたいに声を掛けられて困ってたって話もしたんだけど……」


「うん」と結衣が頷く。

ししさ

「ちょっと聞きづらかったんだけど……『俺の大事な……月姫を困らせるなんて許せない』って言ってたぽくて……」


「…………」


「…………」


結衣と雅人は、思わず顔を見合わせた。


――え!?


――アイツ、月姫ちゃんをちゃんと恋愛対象として見てんの!?


二人とも、驚きを隠せない。


月姫はそんな二人の様子に気づかず、頬を赤くしている。


「……嬉しかった」


「そりゃ嬉しいよね」と結衣が笑う。


その時、雅人のスマホが震えた。


ブブッ。


雅人が画面を見る。


そこには、


『俺の大事なオタ友の月姫助けてくれてありがと!』


というメッセージ。


雅人は画面を見たまま、数秒固まった。血の気が引く

。


そして、テーブルの下で結衣にスマホを見せる。


結衣が画面を覗き込む。


「…………」


二人は顔を見合わせる。


雅人は小さく息を吐いた。


――あー。


――ああ……こいつに期待するのはやめよう。


結衣も同じように呆れた顔をする。


そして二人で月姫を見る。


「……月姫ちゃん」


「なに?」


「さっきの『俺の大事な月姫』ってところ、どういう感じで聞いたの?」


「え?」


月姫は少し考える。


「『俺の大事な……月姫を困らせるなんて許せない』って」


「うん」


「まさか俺の大事な月姫なんて言ってくれるなんて思ってなくて」


と嬉しそうに顔を赤らめる月姫。


結衣と雅人は、また顔を見合わせた。


――あれ?


――もしかしてこの子、都合のいい耳してんのかな?


雅人は思わず苦笑する。


「……まあ、うん」


「なに?」


「いや、なんでもない」


結衣も呆れながら笑う。


「月姫ちゃんって、本当に純粋よね」


「……だって、嬉しいから」


月姫はまた顔を赤くする。


「大事って言ってもらえるの、嬉しいよ?しかも…俺の…とか?」


「うん。そうだね。めちゃくちゃ嬉しいよね?」


結衣は優しく頷いた。


雅人も笑いながら続ける。


「でもさ、向こうも映画とか誘ってくれるんだし、月姫ちゃんも『どっか一緒に行きたい〜』とか『遊びに連れてって〜』とか、どんどん言った方がいいよ!」


「私から?」


「そうそう。遠慮する必要ないって」


月姫は少し考えてから、こくんと頷く。


「……言ってみようかな」


「うん。その方がいい」


雅人は楽しそうに笑った。


「尚更、鈍感な奴っぽいから」


「そんなに?」


月姫が驚いたように聞く。


「そんなに」


雅人は即答する。


「月姫ちゃんが思ってる以上に、たぶん鈍感だと思うぞ」


「……そっか」


月姫は少し困ったように笑った。


「じゃあ……頑張ってみる」


「それでいい、それでいい」と雅人が笑う。


「あと、時々ちゃんとアピールするのも忘れないでね」と結衣が続ける。


「アピール?」


「ほら、今までみたいに『お嫁さんにしてもらおっかな』とか」


「ああ……」


月姫は思い出したように頷く。


「最近は恥ずかしくなっちゃうけど」


「うん。でも、なんだったらそれだけじゃなくてもいいんじゃない?」


「例えば?」


結衣が少しいたずらっぽく笑う。


「……いっそ、抱きついちゃうとか?」


「抱きつく……?」


月姫は首を傾げる。


「冗談でいいのよ。『今日ちょっと寂しいから〜』とか」


「ああ、それなら……」


月姫は何かを思い出したように、ふっと笑った。


「この前、感極まってやっちゃった」


「…………え?」


結衣と雅人が同時に固まる。


「抱きついたの?」と雅人が聞く。


「うん」


月姫は何でもないことのように頷く。


「なんか……嬉しくなっちゃって」


そして首を傾げながら、にこっと笑った。


「やっちゃった」


「…………」


結衣と雅人は顔を見合わせる。


「……うん、この子逸材だわ」


雅人が笑う。


「うん。私もそう思う」


結衣も呆れながら笑った。


「え?」


月姫だけが、二人の反応が分からず首を傾げていた。


「……でもなんか、楽しかった。」


月姫がぽつりと呟く。


「ん?」と結衣が顔を向ける。


「こういう話するの……こんなに楽しいんだね」


月姫は少し照れながら笑った。


「気になる人のことを、こんなに聞いてもらったり……アドバイスしてもらったりするだけで、こんなに楽しいなんて知らなかった」


「でしょ?」


結衣が嬉しそうに笑う。


「恋バナってそういうもんだから」


「恋バナ……」


月姫はその言葉を小さく繰り返した。


自分が誰かを好きなのかも、まだはっきりとは分からない。


それでも、その人のことを話しているだけでこんなにも嬉しくなる。


そして、その話を誰かと共有できることが、こんなにも楽しい。


月姫は、今日ここに来てよかったと素直に思った。


雅人と結衣はこの子の想いが少しでもその鈍感野郎に伝わればいいなと思いながら、笑う月姫を見つめていた。

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