バーベキューは楽しいのが1番ですよね!!
「暑っ……」
炎天下。
焼肉の網の前。
「さすがにバテてきた……」
汗だくになりながら、次々と肉を焼いていく俺。
その時だった。
――ピシャッ!
「うおっ!?」
首筋に気持ちのいい冷たい衝撃が走る。
「な、なんだ!?」
振り返った瞬間。
――バシャッ!
「ぶふぉっ!!」
今度は顔面に水が直撃した。
「えへへ!」
よく見ると、俺の強力水鉄砲を片手に伊織が笑っていた。
「気持ちいいでしょ?」
「伊織ちゃん!?」
「ママに冷たい水入れてもらったんだ!」
「だからって顔面狙うな!」
「倉庫で見つけたから、あっきー冷やそうと思って!」
「……」
一応、優しさではあるらしい。
「伊織ちゃん……ありがとう」
「どういたしまして!」
――バシャッ!
「ぶふぉっ!」
「ししし!!!」
「おいぃぃ!!絶対楽しんでるだろぉぉぉ!!」
そんなこんなで水鉄砲を使って遊んでいるうちに、俺も伊織もすっかりずぶ濡れになってしまった。
しばらくして、俺は網の上と残っている肉を見比べる。
「……なあ」
「ん?」
「肉、明らかに多くない?」
まだかなり残っている。
「これ夜もやる?」
「もうお腹いっぱいで夜食べられないかも」
「私もー!」
「ほらやっぱり!」
絶対買いすぎたと思ったんだよ。
「とりあえず、ひと休みするか」
ようやく網の前から離れた俺は、自分の濡れた服を見る。
俺が水鉄砲をかけられて濡れているのは分かる。
でも。
「……ん?」
伊織を見る。
「伊織ちゃん」
「なに?」
「なんで水鉄砲かけてた伊織ちゃんまでずぶ濡れなの?」
「え?」
よく見ると、伊織も頭から足元までびしょ濡れだった。
「……」
ふと、伊織のTシャツに目がいく。
「っ!」
俺は慌てて目線を逸らした。
すると伊織も自分のTシャツを確認する。
「……っ!」
何かに気づいた伊織は、慌てて胸を腕で隠した。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
俺は急いで家の中へ入り、自分の替えのTシャツを持ってきた。
「これ着ろ!」
「ありがと!」
伊織は服を受け取る。
「すけべ」
「何も見てねえよ!」
「ふふっ」
すると母ちゃんが伊織に声をかけた。
「伊織ちゃん、夜までには乾くだろうから洗濯しちゃうね!」
「ほんと?」
「うん。下着も濡れてるなら、そのまま洗濯するから洗濯機入れといて!」
「はーい!」
「着替えてきなー」
「ありがと、ママ!」
伊織は嬉しそうに笑って、着替えに向かった。
しばらくして。
「着替えたよー!」
戻ってきた伊織を見て。
「……ん?」
俺は首を傾げた。
「なんでこいつ俺の短パンまで履いてんだ?」
「全部濡れたから!」
「おまえ何やってんの?」
「水鉄砲!」
「それは知ってる!なんでかけた側がそんな濡れてんだっつー話!!!」
伊織は楽しそうに笑う。
「水着持ってくりゃよかった」
「海とか川じゃないんだから、持ってくるわけないよね」
「そうだよね!!」
「楽しそうだな、ほんと」
俺は伊織を見る。
俺のTシャツ。
俺の短パン。
……なんだこれ。
すると伊織が自分の着ているTシャツをつまんだ。
「あっきーんちの匂いがする!」
「俺の服だからな」
「なんか落ち着く!」
「そうか?」
「うん!」
妙に満足そうだ。
「……ん?」
その時。
俺はあることに気づいた。
「い、伊織ちゃん」
「なに?」
「もしかして下着も洗ってんの!?」
伊織はぴたりと動きを止めた。
そして。
「……だって」
「ん?」
「濡れちゃったんだもん」
顔を赤らめて下を向く。
「……」
やっぱりだ!
こいつ。
下着を着ずに俺のTシャツと短パンを着てやがる!
「なんでこいつウチでノーパンノーブラなんだ……」
「ママー!」
伊織が突然叫ぶ。
「なにー?」
「あっきーがすけべな顔してます〜!」
「してねえだろ!」
「してるー!」
「してない!」
すると伊織が立ち上がろうとする。
「だから動くなっつの!」
「え?」
「短パンでかいんだから、下がってくるって!」
「……あ」
伊織も気づいたのか、慌てて短パンを押さえた。
「下着着てないんだから!」
「わ、分かってるもん!」
「分かってるならもっと気をつけろ!」
「怒られた……」
「怒るわ!」
なんだこいつ、前パンツ見えたくらいで殺されそうだったのに……
万が一があった場合、次は…殺される……
その時。
伊織が歩き出した。
「ちょっと待って」
「ん?」
「アイス食べたくない?」
「……食べたい」
「じゃあ買ってくるわ!!」
「私も行く!」
「待て!」
「なんで?」
「そんなノーブラノーパンの女、危険すぎて連れて行けるか!」
「別に見えないもん!」
「問題はそこじゃねえ!」
「えー!」
「洗濯乾くまで家にいろ!」
「えー!」
「そんな無防備な格好で外ウロウロするんじゃない!」
「じゃあ、あっきー買ってきて!」
「最初からそのつもりだ!」
「やった!」
「高いのはダメだからな!」
「じゃあ待ってるー!」
「そう!待ってて!!」
俺は近くの店までアイスを買いに行った。
そして家へ戻る。
「ただいまー」
……。
「ん?」
リビングが静かだった。
ソファを見ると。
母ちゃんが眠っている。
その横にいた伊織が俺に気づく。
「しーっ」
「おう」
伊織は近くにあったタオルケットをそっと持ち上げる。
そして眠っている母ちゃんに優しくかけてあげていた。
「おかえり」
「ただいま」
「さっきまで話してたんだけど」
「うん」
「一息ついて、一緒に寝ちゃってた」
「まだ退院して間もないから疲れるんだな」
「うん。無理させちゃダメだね」
伊織はタオルケットを優しく整える。
「……」
俺はその姿を見ていた。
本当に自然に。
当たり前みたいに優しくしている。
「ありがとね」
「ん?」
「伊織ちゃんのこういうこと普通にできる優しいとこ好きだなー」
「ほんとに優しい子だなって思うよ。」
何も考えず思ったことを口にする。
「……っ!?」
伊織の動きが止まった。
顔がみるみる赤くなっていく。
「な、なに急に!」
「え?」
「い、今の!」
「今の?」
「……もう!」
伊織は恥ずかしそうに視線を逸らした。
そして。
「ア、アイスは!?」
「ん?」
「アイス! 買ってきたんでしょ!?」
明らかに話を逸らしている。
「買ってきたけど」
「じゃ、じゃあ早く食べよ!」
「……?」
俺はアイスを取り出して伊織に渡した。
「はい」
「ありがと!」
伊織は嬉しそうに受け取る。
「いただきまーす!」
ぱくっ。
「ん〜! 美味しい!」
「そんなに美味いか?」
「美味しいよ!」
「そっか」
伊織はアイスを食べながら、さっきの言葉を思い出していた。
――伊織ちゃんのこういうこと普通にできる優しいとこ好きだなー。
「……えへへ」
「?」
「なんでもない!」
どう見てもなんでもなくない。
「今日は美味しいお肉に〜」
「うん」
「水遊びに〜」
「お前が勝手に始めたやつな」
「最高だなー!」
……。
なんか。
めちゃくちゃ機嫌いいな。
「伊織ちゃん」
「ん?」
「さっきよりも機嫌良くない?」
「そ、そうかな?」
「そうだろ」
「普通だよ!」
「いや、さっきより明らかに機嫌いい」
「そんなことない!!」
そう言いながら。
伊織はまた。
「……ふふっ」
「絶対なんかあるだろ」
「ない!」
二人でアイスを食べ終えると、母ちゃんが眠っているソファの下に並んで座った。
「今日は暑かったなー」
「うん」
「でもバーベキュー美味しかった!」
「買いすぎたけどな」
「楽しかったね!」
「そうだな」
そんな他愛もない話をしている間も、伊織は時々笑っている。
「……えへへ」
「伊織ちゃん?」
「なに?」
「いや、なんでもない」
やっぱり今日。
なんか変だ。
そう思いながら話を続けていると、だんだん伊織の返事が小さくなっていく。
「それでさ……」
「うん……」
「伊織ちゃん?」
「聞いてるよー……」
「……」
数分後。
伊織の返事はなくなった。
横を見る。
「……寝た?」
伊織はいつの間にか眠っていた。
そして俺の膝を抱えるような格好になっている。
「……やれやれ」
今日は朝からずっと動いてたからな。
そりゃ疲れるか。
俺は眠っている伊織を見下ろした。
さっきまであんなに騒いでいたのに。
寝ている時は本当に静かだ。
「寝てると静かで可愛いんだけどな」
「起きてても可愛いでしょ?」
いつの間にか起きていた母ちゃんが笑う。
「そういう意味じゃねえよ」
「ふふっ」
「でもほんと、気持ちよさそうに寝てるね」
「遊び疲れたんだろ」
「今日は伊織ちゃんも楽しかったんじゃない?」
「そうだな」
俺は眠る伊織を見る。
「……なんか子供みたいだな」
「伊織ちゃんに聞かれたら怒られるよ?」
「聞こえてねえよ」
「ふふっ」
母ちゃんと小さく笑う。
そんな風に伊織を見ていると。
今度は俺まで眠くなってきた。
「……俺もちょっとだけ」
「寝ちゃえば?」
「そうするか……」
そして。
そのまま俺も眠ってしまった。
「……ん」
ふと。
俺は目を覚ました。
「……あれ?」
横を見る。
すぐそこに伊織の顔があった。
「……」
すやすやと。
まだ気持ちよさそうに眠っている。
「あ、寝ちゃってたか」
よく見ると。
俺と伊織の二人にはタオルケットがかけられていた。
「母ちゃんか」
「あ、起きた?」
ソファから母ちゃんの声がする。
「おう」
「よく寝てたねぇ」
「いや」
俺は母ちゃんを見る。
「最初に寝てたのお前な」
「そうだったっけ?」
「そうだよ!」
「ふふっ」
「笑って誤魔化すな!」
母ちゃんと顔を見合わせて笑う。
そして改めて眠る伊織を見る。
「……ほんとよく寝るな」
「今日はいっぱい遊んだからね」
「水鉄砲とか特にな」
「ふふっ。でも寝顔、可愛いね」
「……まあ」
「ん?」
「いや、気持ちよさそうに寝てるなって」
「素直じゃないねぇ」
「うるさい」
そんな話をしていると。
「ん〜……」
伊織が小さく動いた。
ゆっくりと目を開ける。
「……あ」
ぼんやりと周りを見渡し。
「寝ちゃってた」
寝ぼけ顔のまま。
にへっと笑った。
「おはよう」
「……おはよー」
「よく寝てたぞ」
「ほんと?」
「うん」
伊織は自分にかけられているタオルケットを見る。
「あれ?」
「母ちゃんがかけてくれた」
「そっか」
「最初は母ちゃんが寝てたけどな」
「それは言わなくていいの!」
母ちゃんがソファから突っ込む。
「ふふっ」
伊織は寝ぼけながら笑う。
そして大きく伸びをした。
「なんかスッキリした!」
「あ、そうだ」
母ちゃんが伊織を見る。
「伊織ちゃん! 洗濯乾いてるからお風呂入ってったら?」
「え!? いいの?」
「いいよ!」
母ちゃんが笑う。
「帰りは送ってくから、もう寝るだけにしときな!」
「ほんと!?」
「うん」
「やったー!」
「じゃあお風呂入る!」
伊織は嬉しそうにお風呂へ向かった。
しばらくして。
「あ!」
母ちゃんが声を上げる。
「どうした?」
「伊織ちゃん、タオル忘れてるから持ってってあげて」
「……はいはい」
俺はタオルを持って脱衣所の前へ行く。
「伊織ちゃんー! タオルここに置いとくぞ!」
シャワーを浴びているからか返事はない。
ま、置いておけばいいだろ。
その時。
「ママー!」
がちゃっ。
「……」
「……」
伊織が扉を開けた。
二人の時間が。
止まった。
「えっ!?」
「へっ!?」
俺は慌てて目線を逸らす。
すると伊織も慌てて胸を腕で隠した。
「……っ!」
「ご、ごめん!」
「ち、違っ!」
「タオル!」
「あ……うん!」
「ここに置くから!」
俺はタオルを置く。
そして。
「早く出てけ!」
「開けたの伊織ちゃんだろ!?」
「いいから早く!」
「はい!!」
俺は慌ててその場から離れた。
しばらくして。
「ふぅ〜!」
お風呂から出てきた伊織。
「……」
「伊織ちゃん?」
顔が真っ赤だった。
「……また覗いた!!」
「覗いてねえ!!それに、またでもねえ!!」
「絶対見た!!!」
「わざとじゃない!!!」
二人とも顔が赤い。
「つか、開けたの伊織ちゃんだし!」
「だってママだと思ったんだもん!」
「俺だってまさか開けるとは思わねえよ!」
「もう、やだーー!!!」
伊織は恥ずかしそうに顔を隠した。
「ママー!」
「なに?」
「ほんっとにお嫁に行けない!!」
すると母ちゃんは、きょとんとして。
「なんでー?」
「なんでって……!」
伊織が顔を真っ赤にする。
母ちゃんは当然のように笑った。
「だってウチ来るんだから問題ないじゃん?」
「……っ!?」
「ないでしょ?ふふっ」
「マ、ママぁ!」
「そういう意味じゃないもん!」
「えー? そうなの?添い寝もしてたし別にいーじゃん」
「添い寝!?」
伊織は顔を真っ赤にしながら抗議する。
「絶対分かってて言ってるでしょ!」
すると母ちゃんは笑いながら。
「早く娘になってよ〜」
「ママぁぁぁ!」
「ふふっ」
伊織は恥ずかしそうに顔を隠した。
その横で。
俺は小さくため息をついた。
「……今日一日、なんだったんだ」
「楽しかったよ!」
伊織が即答する。
そして少しだけ、にやっと笑った。
「ところどころすけべがいたけど」
「誰がすけべだ!」
「あっきー!」
「俺!?」
「うん!」
「事故だっつってんだろ!」
「ふーん?」
伊織はわざとらしく笑う。
「本当はラッキーとか思ってるくせに」
「うん?まぁちょっとだけ?ってやかましい!!!」
「ふふっ」
母ちゃんまで笑っている。
「でもほんっと楽しかった!」
——こういうこと普通にできる優しいとこ好きだなー ……この言葉が頭をよぎる。
伊織は満面の笑顔でそう言った。
……まあ。
伊織ちゃんが楽しかったなら。
それでいいか。
本当に騒がしい一日だったけど。
まぁいい日だったとするか。
———そして、仕事から帰ってきた父が冷蔵庫に入っている大量の肉、海鮮物を見て膝から崩れたことは誰も知らない……




