退院祝いのバーベキューやるよ!
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旧校舎の依頼を受けてから数日後。
夏休みということもあり、特に予定のない晃星は朝からリビングのソファでゴロゴロしていた。
「あっきー」
「んー……」
「いつまでゴロゴロしてんの?」
「夏休みだし別にいいだろー……」
眠そうに返事をすると、キッチンから母が顔を出す。
「今日はダメー」
「なんで?」
「お昼からバーベキューするんだから」
「……バーベキュー?」
晃星が少しだけ顔を上げる。
「あー、退院祝いは肉でって約束したじゃん」
「あぁ」
晃星は思い出したように頷いた。
「そういや、そんな約束したな」
「言ってたでしょー?」
「言ってた言ってた」
「適当!」
母は楽しそうに笑いながら、キッチンで野菜を切っていた。
「せっかく退院したんだし、今日はいっぱいお肉食べるの!」
「病み上がりの人が一番食う気満々じゃん」
「もう元気だもーん」
「まぁ、それならいいけど」
晃星が再びソファに沈み込もうとすると。
「あ、そうだ」
「んー?」
「あっきー、駅まで迎えに行ってきて」
「は?」
「お客さん来るから」
「……」
晃星はソファから少し顔を上げる。
「客?」
「うん」
少し考えてから、晃星はゆっくりと母を見る。
「……いや」
「そいつは客じゃない……」
「ふふっ」
母が笑う。
「あっきー、分かった?」
「伊織ちゃんだろ!!」
「正解ー!」
「夏休みほぼ会ってんだけど!!」
「いいじゃん、伊織ちゃんも退院祝いしたいって言ってくれたんだから」
「いや、それはいいんだけど!」
晃星は頭を抱える。
「ほんとこの夏休み、伊織ちゃんの世話ばっかりじゃん……」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
晃星は勢いよく起き上がった。
「連絡してって言われて電話したら、俺んちで母ちゃんと恋愛リアリティーショー見てるし!」
「うんうん」
「挙げ句の果てに今日は駅まで迎えに行って!?」
晃星は両手を広げた。
「夏休み伊織ちゃんの世話ばっかりじゃん!」
「ふふっ。いいじゃん、楽しそうで」
「どこがだよ!」
「なんだかんだ文句言いながら、ちゃんと迎えに行くじゃん」
「……母ちゃんに頼まれたからだよ!」
「はいはい」
「なんだよ、その返事!」
「ほら、早く行ってきなー!」
「分かったよ!」
文句を垂れつつも、晃星は着替えを済ませ駅へと向かった。
「……ほんと、この夏休み伊織ちゃんの世話しかしてなくない?」
ホームでそんなことを呟いていると、やがて電車が駅へと滑り込んできた。
扉が開く。
そして。
「やっほー!」
やけに上機嫌な声と共に、伊織が電車から降りてきた。
「……」
晃星はその姿を見て、少しだけ目を丸くする。
今日はバーベキューということもあり、伊織はいつもの制服ではなくラフな格好をしていた。
楽しそうに歩いてくる伊織を見て、晃星はふと思う。
(うん、まぁ……見た目はほんと可愛いんだよな)
「……あれ?」
伊織が、にやにやしながら晃星の顔を覗き込んできた。
「バーベキュースタイルの伊織ちゃん、可愛ーなーって思ったんだ?」
「は!?」
「思ったでしょー?」
「思ってない!」
「えー? 今めっちゃ見てたよ?」
「……」
(はい、今の却下)
(可愛いと思った俺が馬鹿だった)
晃星は心の中で、さっきの自分の感想を全力で取り消した。
「ほら、行くぞ」
「はーい!」
伊織は楽しそうに晃星の隣を歩き始めた。
家に着くと、キッチンでは母が野菜を切っていた。
「あ! 伊織ちゃーん!」
「あっきーママー!」
いつも通り、二人は顔を合わせるなりぎゅっとハグをする。
「今更だけど、退院おめでとー!」
「ありがとー!」
「今日はいっぱいお肉食べようね!」
「食べる食べるー!」
その光景を横で見ながら、晃星は小さくため息をついた。
「……俺の家だよな、ここ」
「ほら伊織ちゃん、リビング行っててー!」
「はーい!」
伊織は本当に自分の家であるかのように、リビングへと入っていく。
「で、あっきー」
「ん?」
「倉庫に色々あるから、準備お願い!」
「……俺?」
「他に誰がいるのよ」
晃星は野菜を切っている母を見る。
「まぁ、病み上がりの母ちゃんにやらせるわけにはいかないか」
「ありがとー!」
「はいはい」
晃星は倉庫へ向かい、バーベキューの準備を始めた。
コンロを運び出し、テーブルを広げる。
椅子もいくつか庭に並べていると。
「……」
ふと。
背後に気配を感じた。
嫌な予感しかしない。
晃星はゆっくりと振り返る。
そこには伊織が立っていた。
「何?」
「別にー?」
「……」
その返事が、もう怪しい。
「伊織ちゃん」
「なにー?」
「うん、とりあえずリビング行くか」
「えー」
「椅子出したから、ここでじっとしてて」
晃星は伊織を指差しながら念を押す。
「本当に」
「じっとしててね?」
伊織はムスッと頬を膨らませた。
「子供扱いしてるー」
「してない」
「してるー」
「伊織ちゃんが何するか分からんから」
「何もしないもん」
「その顔で言われても説得力ないのよ」
「むー」
伊織は不満そうな顔をすると、そのまま倉庫の方へ向かった。
「……」
晃星はその背中を見る。
「……いや」
「なんで倉庫行くの?」
「別にー」
「待て待て待て!」
晃星が慌てて後を追おうとする。
しかし伊織はすでに倉庫の中へ入っていた。
そして。
「……」
伊織の視線が、あるものに止まる。
「……ふふっ」
伊織は。
にやりと笑った。
一方、何も知らない晃星は。
「……ほんと」
「嫌な予感しかしないんだけど」
と不安を感じながらもバーベキューの準備を続ける。
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しばらくして。
バーベキューコンロやテーブル、椅子の準備も終わった。
あとは火を起こすだけ。
そんな状態になったところで。
「よし!」
母が手を叩いた。
「じゃあ、みんなでお肉買いにいこっか!」
「おー!」
伊織がすぐに反応する。
「伊織ちゃん、あんまり豪華な肉は期待しない方がいいよ?」
「えー?」
晃星が伊織にそう話していると。
「大丈夫大丈夫」
母が何かを取り出した。
「今日はこれがあるから!ジャーン!!」
「ん?」
晃星が視線を向ける。
母の手にあったもの。
「……」
「父ちゃんのクレジットカードだ!!」
「これでいっぱい買おうねー!」
母は満面の笑みを浮かべる。
「やったー!」
伊織も嬉しそうに両手を上げた。
しかし。
「いや、待て待て待て」
晃星だけが慌てて止める。
「それ使ったら実質、うちの家計に直結するんじゃないの?」
「大丈夫だって」
「何が!?」
「お父さんの了承得てるから」
「……ほんとに?」
晃星が怪しそうな目を向ける。
すると母は、どこか得意げに笑った。
「前、お父さんが私との約束破ったじゃん?」
「……あー、なんか前に朝から怒鳴られてたな」
晃星にも何となく心当たりがあるのか、微妙な顔になる。
「それで?」
「『これで許してあげる』って言ったら」
母は父のクレジットカードをひらひらと振る。
「すんなり出した」
「……」
「だから今日は遠慮なし!」
「おー!」
伊織が再び盛り上がる。
「いや、あいつ何やらかしたの?」
晃星は父のいない場所で、少しだけ心配になった。
「まぁ、それはいいとして」
母は気にする様子もなく笑う。
「ほらあっきー、伊織ちゃん! 行くよー!」
「え、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって!」
「……」
晃星は不安そうに父のクレジットカードを見る。
(これ、本当に大丈夫なんかな……)
そんな晃星の心配をよそに。
伊織と母はすでに、今日の肉の話で盛り上がっていた。




