俺はあんなに頭おかしい奴と似ていない
「さて」
教頭が虎太と真央の方へ向き直った。
「虎太くんと真央さんには、まだ依頼の内容を詳しく話していなかったわね」
「依頼?」
虎太が首を傾げる。
「ええ」
教頭は静かに頷いた。
「この旧校舎が、近いうちに取り壊される可能性があるの」
「……取り壊し?」
真央が周囲を見回した。
「老朽化も進んでいるし、維持するためにも費用がかかる。学校側としては、取り壊す方向で話を進めているわ」
「……」
虎太が腕を組む。
「そして、生徒会も旧校舎の取り壊しには賛成しているの」
「生徒会が?」
真央の表情が少し変わった。
「ええ。ただ取り壊しに賛成するだけじゃないわ」
教頭は続ける。
「おそらく生徒会は、この旧校舎を取り壊した後、この場所にどんな施設を作るのか。その構想も学校側に提示してくるはずよ」
「なるほどな」
虎太が納得したように呟く。
「だから、あなた達には」
教頭は四人を見渡した。
「生徒会が提示する案よりも、この旧校舎をもっといいものにできる。そう思わせるような案を出してほしいの」
「ここを……それ以上に?」
奈緒が旧校舎を見回す。
「ええ」
教頭は微笑んだ。
「この場所には、まだ可能性があると私は思っているわ」
「その可能性を、あなた達に見つけてほしいの」
「……生徒会か」
虎太が大きくため息をついた。
「どうしたんですか?」
晃星が虎太を見る。
「ビビってんすか?」
「ビビってねーし!」
即座に虎太が言い返した。
「ただな……」
虎太は少し顔をしかめる。
「あそこの生徒会長と俺、仲悪いんだよ」
「へぇ?」
晃星が興味深そうに首を傾げた。
「真央先輩絡みとか!?」
「ちげーよ、でも真央を生徒会で独占してんのはむかつくな」
虎太はもう一度、ため息をついた。
しかし。
すぐに拳を握る。
「でも、生徒会が相手になるかもしれねぇなら」
口元に笑みを浮かべた。
「むしろ燃えてきた」
「この依頼、完璧にこなして」
「生徒会長にギャフンと言わせてやるよ!」
勢いよく言った後。
虎太は奈緒と晃星を見る。
「何より」
少しだけ優しい表情になる。
「ウチのかわいい後輩が受けた依頼を、断るわけにはいかないからな」
「おー」
晃星が虎太を見る。
「ビビりなのに言うことかっこいー」
感情のない声だった。
「お前な!?」
「いやー、部長かっこいー」
「絶対褒めてねぇだろ!」
「めっちゃ褒めてますー」
「お前、さっきから俺への当たり強くない!?」
「気のせいです」
「絶対気のせいじゃねぇ!」
そんなやり取りを見ていた真央が、少し困ったような顔をした。
「……ねえ」
「ん?」
三人が真央を見る。
「私、ちょっと相談してもいい?」
「どうしたんですか?」
晃星が首を傾げる。
真央は少し言いづらそうに視線を落とした。
「私、生徒会の役員でしょう?」
「うん」
「だから、生徒会の役員として、生徒会が決めた方針に従って……ちゃんと生徒会としての責務を果たすべきなのか」
少し間を置く。
「それとも、奈緒や虎太と一緒に、この旧校舎の可能性を考えるべきなのか」
「……」
真央は困ったように眉を下げた。
「私、どっちの味方になった方がいいのかわからなくて」
「どうしたらいいと思う?」
「え?」
晃星が不思議そうに真央を見る。
「どっちの味方とかあるんですか?」
「え?」
今度は真央が聞き返す。
晃星は少しだけ考えるように視線を上げた。
「立場とか考えてもし、自分がやりたくないなぁって思う事やったら」
晃星の表情が真剣になる。
「上手くいかないし、絶対後悔するよ」
「……」
「後悔するくらいなら、」
晃星は真央を見て笑った。
「自分のやりたい事やった方がいいと思います。そうじゃないと何より楽しくないと思うから」
「それに」
晃星は軽く肩をすくめる。
「どうせ夏休み明けてからじゃないと、ちゃんと話できないんでしょ?」
「……そうね」
「じゃあ」
晃星は笑う。
「ゆっくり考えましょう」
「……」
真央はしばらく晃星を見つめていた。
さっきまで虎太をからかって、ふざけていると思っていたのに。
こういう時には、ちゃんと相手のことを考えて話している。
――ふざけていると思ったら、ちゃんと考えてたりもするんだ。
真央は少し感心したように晃星を見つめた。
「……晃星くんって」
「ん?」
「意外とちゃんと考えてるのね」
「意外とって何ですか」
晃星が苦笑する。
「あぁ!!」
突然。
晃星が大きな声を上げた。
「な、何!?」
奈緒が驚いて晃星を見る。
晃星は慌ててスマホを取り出した。
「伊織ちゃんに連絡してって言われてたの忘れてた!」
「……」
「まあ、新しい依頼のこともあるし」
晃星はスマホを操作する。
「とりあえず電話するか」
その様子を見ていた虎太が、ふっと笑った。
「なんか」
「ん?」
「素のお前見てたら、天川ちゃんとほんとそっくりだなと思うわ」
「は!?」
晃星が勢いよく虎太を振り返る。
「マジでやめてほしい」
「なんでだよ」
「いや!」
晃星は本気で嫌そうな顔をした。
「話してて怒ったと思ったら、急に機嫌良くなったり!」
「俺、あんなに感情の波激しくないし!」
「俺、あんな感じじゃないでしょ!?」
「……」
虎太は少し考えるように晃星を見る。
「いや、似てる」
「似てねえ!!」
「似てるって」
「マジでどこが!?」
「なんかこう……根本的なところ?」
「抽象的過ぎてほんとにやだ!!」
晃星はぶつくさと文句を言いながら、伊織へ電話をかけた。
数回の呼び出し音の後。
『あっきー、どしたー?』
電話の向こうから、やけに上機嫌な伊織の声が聞こえてきた。
「今日の依頼さ――」
『あー!』
伊織が声を上げる。
『そうだった!』
「いや、そうだったじゃなくて」
晃星は眉をひそめた。
「連絡してきてって伊織ちゃんに言われたんだけど」
『そうだっけ?』
「そうだよ!」
『あ、でも』
伊織はまったく悪びれた様子もなく続ける。
『今、あっきーママと恋愛リアリティーショー見てるから、また後で!』
「え?」
ブツッ。
電話が切れた。
「……」
晃星はしばらく、スマホを見つめていた。
そして。
ゆっくりと顔を上げる。
「ね」
虎太と真央、奈緒を見る。
「この人、頭おかしいでしょ?」
「昨日は俺と奈緒ちゃんが心配だから電話してきてって言ったのに」
晃星はスマホを持ったまま、みんなに訴える。
「多分、今」
一拍置いた。
「俺の家で、俺の母親と恋愛リアリティーショー見てるんだよ?」
「俺いないのに」
晃星は虎太を見る。
「こんなやつと俺、似てないよね?」
三人は顔を見合わせて確かに伊織ちゃんは変わってる。とそれぞれ思った。
そして、そのまま教頭へと視線を向ける。
「教頭のおばちゃん。こんな頭おかしいやつに、ビビりの部長で、この依頼こなせるか不安になってきたんですけど」
「誰がビビりだ!」
虎太がすかさず突っ込む。
そんな二人を見て、教頭は小さく笑った。
「一人でやるわけじゃないでしょう?」
晃星はきょとんとした顔をする。
「みんなで力を合わせて頑張りなさい」
「……」
晃星は虎太、奈緒を見る。
そして、少しだけ笑った。
「まぁ……なんとかするしかないか」
「そうだな!」
虎太が力強く頷く。
「まだ何も決まってないけどね」
真央が苦笑いすると、奈緒も笑った。
「でも、みんなで考えれば何か見つかるかもしれません」
「だね!」
晃星は旧校舎を見渡す。
どうすれば、この場所をもっといいものにできるのか。
生徒会がどんな案を出してくるのか。
まだ何も分からない。
それでも。
「よし!」
晃星は新たな依頼に向けて、気合を入れた。
「二学期始まったら、おばちゃんの為に頑張りますか!」
「ふふっ」
教頭は嬉しそうに笑った。
こうして学園よろずやは、
新たな依頼に挑むことになった。
しかし騒がしい夏休みはまだまだ続く……




