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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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ビビりが遅れてやって来た


「奈緒!!!」


突然。


静まり返っていた旧校舎の廊下に、大きな声が響いた。


「奈緒!!」


「……え?」


奈緒が驚いて顔を上げる。


バタバタバタバタと、複数の足音がこちらへ近づいてくる。


そして。


バンッ!


勢いよく音楽室の扉が開いた。


「奈緒!!」


飛び込んできたのは。


「お姉ちゃん!?」


奈緒の姉、真央だった。


「奈緒! 大丈夫!?」


真央は奈緒の姿を見るなり、真っ先に駆け寄ってくる。


「怪我してない!?」


「う、うん!」


「本当に!?」


「本当だよ!」


「怖い思いしてない!?」


「そ、それは……」


奈緒が言葉に詰まった。


「腰抜かして気絶してましたよ」


晃星が横から答える。


「あきくん!?」


奈緒の顔が一気に赤くなる。


「やっぱり!?」


真央は奈緒の肩を掴んだ。


「だから心配だったのよ!」


「も、もう大丈夫だから!」


「本当に?」


「うん!」


奈緒が何度も頷くと。


真央はようやく安心したように息を吐いた。


「……よかった」


「はぁ……はぁ……」


少し遅れて。


もう一人が音楽室へ入ってくる。


「……部長?」


晃星が振り返った。


「はぁ……真央、速すぎんだろ……」


そこには。


少しだけ顔を腫らした虎太が、息を切らして立っていた。


「……虎太」


真央がゆっくり振り返る。


「な、なんだよ」


「奈緒が無事でよかったね」


「……おう」


「それで」


真央の笑顔が、少しだけ変わった。


「なんで部長の虎太が行ってないの?」


「……」


虎太の動きが止まる。


「奈緒が心霊系、苦手なの知ってるよね?」


「……知ってる」


「それなのに?」


「いや、それは……」


「虎太から聞いたの」


真央が奈緒を見る。


「今日、旧校舎の心霊現象を調べる依頼が来たって」


「……あ」


奈緒が虎太を見る。


「虎太が?」


「そ、それはだな……」


「依頼が来た途端」


晃星が口を挟んだ。


「奈緒ちゃんに『俺ちょっと用事あるから!』って言って消えました」


「消えたんじゃねぇ!」


「じゃあ何ですか?」


「……」


「旧校舎で幽霊が出るって依頼だったんで奈緒ちゃん任せにしたんすよね?」


「それは……」


「ビビって逃げたじゃん」


「うるせぇ!」


「部長なのに?」


「うっ……」


「腑抜けですねぇ」


「誰が腑抜けだ!」


「奈緒ちゃんが心配で来た真央さんと」


晃星は虎太を見る。


「顔腫らして連れてこられた部長」


「お前なぁ!」


「情けな」


真央も腕を組んだ。


「本当よ」


「真央まで!?」


「奈緒が行くっていうのに、なんで部長の虎太が行ってないの?」


「だから!」


虎太が声を上げる。


「俺は!」


一度。


全員の顔を見回した。


「奈緒! 晃星!」


そして。


「天川ちゃん!」


「?」


「三人だけでも、ちゃんと活動できるようになってほしかったんだよ!」


「……」


一瞬。


音楽室が静かになる。


虎太は続けた。


「いつまでも俺が全部やるんじゃなくて!」


「三人が自分たちで依頼をこなせるようになれば!」


「学園よろずやとしても――」


「腑抜けのくせに」


真央が遮った。


「……おい」


「言い訳だけは立派ね」


「真央!?」


「みっともない」


「ひどくない!?」


「ふふっ……」


奈緒が思わず吹き出す。


晃星も笑った。


「部長、完全に論破されてやんの」


「お前も笑うな!」


虎太は。


何かを思いついたように。


勢いよく晃星を指差した。


「だ、だいたいお前!」


「俺?」


「さっきから気になってたんだが!」


「?」


「先輩に向かって!」


「……?」


「奈緒ちゃんって呼ぶのはなんだ!!」


「……」


一瞬。


晃星が固まった。


「いや、急に何ですか?」


「急じゃない!」


「虎太先輩」


奈緒が口を挟む。


「私が認めてるんだから、良くないですか?」


「奈緒まで!?」


「……」


虎太が言葉に詰まる。


「ふーん?」


真央が。


じっと奈緒を見る。


「ん?」


「晃星くんと?」


「なっ!?」


奈緒の顔が一気に赤くなる。


「な、何もないよ!?」


「そう?」


「本当に!」


「……?」


晃星は何のことか分からないように首を傾げた。


虎太は顔をしかめる。


「……くそ」


話を逸らせなかった。


その時。


晃星が音楽室の奥にいる教頭を見た。


「おばちゃん」


「なあに?」


晃星は虎太を指差した。


「こんな頼りない部長だけど」


「誰が頼りないだ!」


「依頼してくれる?」


「……依頼?」


虎太が首を傾げる。


教頭は。


ふふっと笑った。


「もちろんよ」


「え?」


「神崎さんと晃星がいるから」


教頭は頷く。


「大丈夫でしょう?」


「……」


「……」


真央と虎太が。


ゆっくりと晃星と教頭を見た。


「……おばちゃん?」


虎太が呟く。


「ほんと晃星って失礼よね」


教頭が普通に返す。


「……」


真央も固まった。


「ちょっと待って」


二人は。


晃星と教頭を交互に見る。


「教頭先生って」


虎太が恐る恐る聞く。


「何かしら?」


「学校で、めちゃくちゃ厳しい人として有名ですよね?」


「そうなのよねぇ」


教頭が困ったように笑った。


「見た目なのか」


「注意している時の怖い印象が強いのか」


「なぜかそういう話になってるのよねぇ」


「……」


真央と虎太が。


意外そうに教頭を見る。


「私だって」


教頭は優しく微笑んだ。


「生徒はみんなかわいいし」


「本当は仲良くしたいわ」


「だよなー!」


晃星が嬉しそうに笑った。


「やっぱ俺」


教頭を見る。


「おばちゃん好きだなー」


「ふふっ」


教頭が笑う。


「ありがとう」


「見た目で判断するやつって」


晃星が腕を組む。


「そういうとこ損してんだよなー」


「……」


真央が少し驚いたように晃星を見る。


虎太も。


何も言わず晃星を見ていた。


「話してみたら」


晃星は教頭を見る。


「めちゃくちゃいいおばちゃんじゃん」


「最後におばちゃんを付けなければ、もっといいこと言ってるんだけどねぇ」


「そこはおばちゃんも俺のこと呼び捨てだし、別にいいじゃん」


「よくないわよ」


「ははっ」


晃星が笑う。


その笑顔を見て。


奈緒の胸が、きゅっと締め付けられた。


高校で見るあきくんは。


一年前のあきくんとは、どこか違って見えていた。


落ち着いていて。


周りとの距離感も上手く取っていて。


――一年で、大人になったのかな。


奈緒は。


そう思っていた。


けれど。


今、目の前で楽しそうに笑っているあきくんは、


奈緒の記憶に残っている、一年前のあきくんと、変わっていないように見えた。


頭をかきながら笑うところも。


思ったことを素直に口にするところも。


少し子供っぽく笑うところも。


その姿を見ていると。


あの日の記憶が。


鮮明に蘇ってくる。


――たった一度。


一年前に会っただけ。


それなのに。


あの日のあきくんの言葉は。


奈緒の中にずっと残っていた。


そして今。


また目の前で。


あの日と変わらないように笑っている。


「……」


奈緒は。


自分の胸が、いつもより速く鳴っていることに気付く。


――なんで。


一年前の記憶まで。


こんなにはっきり思い出すんだろう。


そう思いながら。


奈緒はもう一度。


晃星の笑顔を見つめた。


すると。


胸の奥が。


さらに大きく跳ねた。


そんな奈緒の様子には気づかず


「……あれ?」


真央が首を傾げた。


「ん?」


晃星が振り返る。


「晃星くんって」


真央は不思議そうに晃星を見る。


「そんなフランクな感じだったっけ?」


「あー……」


晃星は少し考えてから、頭をかいた。


「夏休みだからかな」


「?」


「高校モードより」


少し笑う。


「地元モードの素が出てるかも」


「地元モード?」


「うん」


晃星は肩をすくめた。


「学校だと、あんまり目立ちたくもないっていうのもあるし」


「それに高校で地元のノリのままバカやってると」


少し苦笑する。


「多分、俺、歯止め効かなくなるんだよね」


「歯止め?」


「地元の奴らといる時みたいに、ずっとバカやって遊んじゃうと思う」


「……」


「そしたら勉強とか、ついていけなくなっちゃうから!」


晃星は肩をすくめた。


「せっかく努力して入った高校だし」


「地元の奴らにも、せっかく入ったんだからちゃんとした方がいいって釘刺されてるしね」


「へぇ」


晃星は苦笑する。


「俺、自分が地元のノリになったら調子乗って遊びまくるの分かってるし」


「だから抑えて」


「なるべく目立たないようにしてるんだよ」


「……なるほどね」


「そんな事より、部長!依頼受けますか?」


「どんな内容かによるだろ」


あ、このヘタレ、まだ内容知らないんだった…

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