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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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始まりは1年前

——旧校舎での依頼へ向かう前。


待ち合わせより少し早く着いた奈緒と晃星は、近くのカフェに入ることにした。


夏休み中ということもあり、店内には学生の姿もちらほら見える。二人は窓際の二人席に向かい合って座り、それぞれ飲み物を注文した。


「晃星くん」


「はい?」


「夏休みどう?」


晃星は少し考えてから、苦笑いを浮かべた。


「なんか地元の友達より伊織ちゃんに会う回数の方が多くて、休み感がないですね」


「ふふっ、そんなに?」


「はい。なんか毎日のように会ってる気がします」


奈緒は楽しそうに笑っていたが、少しだけ迷うように視線を落とした。


「ふ、二人って付き合ってるの?」


その声は、先ほどより少し小さかった。


晃星は一瞬きょとんとしてから、すぐに首を振る。


「いやいや、違いますよ」


「でも、よく一緒にいるよね?」


「なんかうちの母親と仲良くなっちゃって。二人で遊びに行ったりもしてるみたいで」


「へぇ……伊織ちゃんすごいね」


「最近じゃ伊織ちゃんの方が、うちの子供みたいになってますよ」


「ふふっ、なにそれ」


「いや、本当に。うちにいる時とか、めちゃくちゃ馴染んでますから」


奈緒はくすくすと笑った。


「じゃあさ……晃星くん」


「はい?」


「月姫ちゃんとは?」


「月姫?」


「……付き合ってたり?」


「いやいや、ないない」


晃星は苦笑しながら手を振った。


「多分、伊織ちゃんと俺がよく一緒にいるから話しやすいんじゃないかなって」


「話しやすい?」


「はい。月姫も伊織ちゃんとは仲良いですし。伊織ちゃんと一緒にいる俺なら、なんとなく話しやすいとか」


晃星は特に深く考えていない様子で笑う。


「そんな感じだと思いますよ」


「……そうなんだ」


奈緒は何気ない顔で答えながら。


ほんの少しだけ、安心したように微笑んだ。


そんな奈緒の様子には気づかず、晃星が首を傾げる。


「奈緒先輩は彼氏いないんですか?」


「い、いないよ!」


あまりにも慌てた返事に、晃星が少し驚く。


「そ、そうですか」


「う、うん!」


「こんな美人なのに勿体無い」


「……っ!」


奈緒の顔が一気に赤くなった。


「な、なに急に……」


「え? 本当にそう思いますよ」


晃星は何でもないことのように続ける。


「奈緒先輩優しいし、気が利くし、美人だし。欠点なんて、ドジなとこくらいだけど」


「……もう」


「でもそれもかわいいですし」


「やめてよぉ……」


奈緒は恥ずかしそうに顔を伏せた。


そんな奈緒を見て、晃星は笑う。


「奈緒先輩男子からめっちゃ人気だよ?」


「そんなことないよ……」


「ありますって」


晃星は即答した。


「少なくとも俺はそう思ってます」


奈緒の顔が、さらに赤くなる。


そして晃星は。


そんな奈緒を見ながら、ふと尋ねた。


「好きな人もいないんですか?」


奈緒の動きが止まった。


さっきまで晃星の言葉に照れていただけだったのに、その質問にはすぐ答えられない。


カフェの中には静かな音楽が流れている。


奈緒は恥ずかしそうに俯いたまま、小さく呟いた。


「……い、いるよ」


「え?」


「好きな人」


晃星が少し驚いた顔をする。


「いるんですか?」


奈緒は小さく頷いた。


「……うん」


晃星は少し考えてから、羨ましそうに笑った。


「羨ましい〜」


「……なんで?」


奈緒が顔を上げる。


「だって、奈緒先輩に好きになってもらえるんですよ?」


晃星は笑いながら続けた。


「奈緒先輩みたいにかわいいのにドジとか男が寄って くる特性のやつですよ」


「何それ……」


「だって本当ですから」


「もう……」


奈緒は恥ずかしそうに笑った。


晃星はそんな奈緒を見ながら、少し興味を持ったように聞く。


「その羨ましい人のことは、いつから好きなんですか?」


奈緒は少しだけ遠くを見るような目をした。


そして、懐かしいものを思い出すように微笑む。


「……一年前くらいかな」


「一年!?」


晃星が驚く。


「そんなに長いんですか?」


「うん」


奈緒は小さく頷いた。


「一年くらい……ずっと」


「そんなに長い間、奈緒先輩から想われるなんて……いいなぁ」


晃星は本当に羨ましそうに笑った。


奈緒はその顔を見て、少しだけ笑う。


目の前にいる晃星は。


まだ何も知らない。


自分が誰を好きなのか。


どうして一年も想い続けているのか。


奈緒はカップに視線を落とした。


一年前。


あの夏の日。


まだ高校一年生だった自分。


人と話すことが苦手で。


困っている人がいても、自分から声をかけることができなかった頃。


姉と喧嘩して。


どうしても渡したかったものがあって。


一人で向かった。


あの体育館。


そして。


偶然。


出会った。


一人の男の子。


奈緒は静かに、あの日のことを思い出していた。


――あの日が。


全部の始まりだった。

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