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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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意識されないのもそれはそれで気になります

そのまま並んで歩き始めた。


しばらく歩いたところで、晃星が月姫に尋ねる。


「そういえば月姫、同窓会だからもう食べてきた?」


「すぐ出ちゃったから」


「ああ、そうなんだ」


晃星は頷く。


「まあ、今から行くとこスイーツ的なもんもあるから」


「もう食べるもの決まってるの?」


「そう! 見たらビビるよ」


「ふふっ」


「駅から近くだからちょうどよかったし」


二人はそのまま歩いていく。


ゲームの話をしたり、最近読んだ漫画の話をしたり。


話しているうちに、二人とも自然と笑顔になっていった。


月姫は、そんな時間が心地よかった。


変に着飾ったり、気を遣ったりしなくてもいい。


ただ、いつもの自分のままで笑っていられる。


やがて、目的の店が見えてきた。


駅からすぐ近くにある、昔ながらの喫茶店。


晃星たちがよく利用している、馴染みの店だった。


店に入ると、馴染みの女性が晃星に気づく。


「あー、あっきー! いらっしゃい!」


「あ、おばちゃん! 久しぶり!」


女性は晃星の隣にいる月姫を見る。


「あら?」


そして、目を丸くする。


「すっごい美人じゃない!」


「え?」


「まあ、あっきーにもこんな美人の彼女ができたのねぇ!」


「だから違うって!」


晃星が慌てて否定する。


月姫は思わず笑った。


「お母さん大丈夫なの?」


「ああ、もうクソほど元気!」


「こら、言い方!」


「今日はお母さんおやすみDAYだから。俺がここに食いに来たんだよ」


「ああ、そういうことね」


おばちゃんは月姫を見る。


「かわいい彼女は何にする?」


「だから彼女じゃないって!」


月姫は少し笑って答える。


「私は……同窓会でちょっと食べてきたので、あまりお腹空いてなくて」


「お腹空いてないなら、バナナジュースが美味しいよ」


「じゃあ、それお願いします」


「はいよ!」


晃星も続けて注文する。


「俺はいつものね」


「あっきー、あれ好きだね」


しばらくして、月姫の前にバナナジュースが置かれた。


グラスの中には、細かく砕かれた氷が入っている。


月姫は一口飲む。


「……美味しい!」


嬉しそうに笑う。


「だろ!」


晃星も嬉しそうに笑った。


そして晃星の前に運ばれてきたのは――


「え?」


月姫が目を丸くする。


一つの丼の上に、カツ、焼肉、そしてエビフライ。


「これが――この店の隠れメニュー! わんぱく丼だ!」


「すごい……」


晃星は誇らしげに笑う。


「いただきまーす!」


晃星はさっそく、わんぱく丼を口に運ぶ。


カツ、焼肉、エビフライ。


一つのどんぶりに乗った料理を、晃星は嬉しそうに頬張っていく。


「うめぇ!」


その姿を見て、月姫は思わず微笑んだ。


「ふふっ……」


本当に美味しそうに食べる。


見ているだけで、なんだか微笑ましい。


でも――


月姫はふと考えた。


普通、年頃の男の子なら。


女の子と二人でご飯に来たら、もう少しくらい格好つけたりするんじゃないだろうか。


少しだけ格好よく見せようとしたり。


「……」


でも、あっくんはそんなことを全然しない。


いつも通り。


食べたいものを、美味しそうに食べているだけ。


「……それとも」


月姫の中に、少しだけ引っかかるものが生まれる。


「私って……そういう対象に見えてないのかな?」


そう思うと、ほんの少しだけムッとした。


そんな月姫の気持ちには気づかず、晃星はわんぱく丼を食べ続けている。


やがて、晃星がふと思い出したように月姫を見る。


「そうだ!」


「ん?」


「月姫、願い事のことなんだけどさ」


「え?」


「俺がこうやって付き合ってもらってるから、ノーカンでいいよ!」


「ノーカン?」


「うん!ノーカウント!!」


晃星は笑う。


「だから、まだお願いはそのまま残ってるからさ」


「……」


「何かできることあったら、いつでも言って!」


「……ふふっ」


月姫は笑った。


そして、ふと思いつく。


ちょっとだけ、からかってみよう。


「じゃあ……」


月姫は、いたずらっぽく笑った。


「雅人くん達にも認めてもらったし……」


一瞬、間を置いて。


「お嫁さんにしてもらおうかな?」


「ぶっ!?」


晃星が思いっきりむせた。


「げほっ! げほっ!」


「ふふっ!」


月姫は思わず笑ってしまう。


「もう、あっくんったら」


「いやいやいや!」


晃星は慌てて水を飲む。


「急に何言ってんの!?」


「ふふふっ」


月姫は笑いながら晃星を見る。


自分でも、今のは完全に揶揄うつもりだった。


ただの冗談。


そのはずだった。


なのに――


「……あれ?」


月姫はふと気づく。


今までなら、こんなことを言っても。


ただの冗談として笑っていられた。


でも今日は。


「……なんで」


胸の奥が、少しだけ熱い。


顔まで、少しずつ熱くなってくる。


「……恥ずかしい」


自分で言った言葉なのに。


今までとは、何かが違っていた。


月姫は誤魔化すように、もう一度笑った。


そんな月姫に、晃星は何も気づかない。


そして何気なく、わんぱく丼のカツを一切れ取る。


「月姫も食ってみ?」


「え?」


「……これ、うまいから」


そう言って、晃星は自然な動作で月姫の口元へ箸を持っていく。


「あーん」


「……!」


月姫は目を見開いた。


頬が一気に熱くなる。


けれど――


少し迷ったあと、そっと口を開ける。


「あ……」


カツを口に入れる。


「……美味しい」


月姫が嬉しそうに笑う。


その様子を見て、晃星も満足そうに笑った。


「だろ!」


月姫はふと、自分のバナナジュースを見る。


――もし、逆に私がやったら。


あっくんは、どんな反応をするんだろう。


少しだけ興味が湧いた。


月姫はそっとストローを晃星のほうへ向ける。


「……あっくんも、どうぞ」


「ん?」


晃星が月姫を見る。


「いいの?」


「うん」


月姫は少しだけ緊張しながら頷く。


すると晃星は――


「ありがとう!」


にっこり笑って、何のためらいもなくストローに口をつけた。


「……」


月姫の目が止まる。


「ごくっ」


晃星は普通にバナナジュースを飲んでいる。


「うん、うまい!」


「…………」


月姫は固まった。


「……あっくん」


「ん?」


「……なんとも思わないの?」


「何が?」


本当に分かっていない顔。


「……いや」


月姫は視線を逸らす。


「なんでもない……」


自分からやったのに。


自分が飲んでいたストローなのに。


それをあっくんが普通に使っている。


その事実を意識した瞬間――


「……っ」


今度は月姫のほうが急に恥ずかしくなった。


「……私、何やってるんだろ」


晃星はそんな月姫の変化にも気づかず、またわんぱく丼を食べている。


「やっぱここのバナナジュースうまいよなー!」


「……うん」


月姫は小さく返事をしながら、もう一度ストローを見る。


さっきまで普通に使っていたものなのに。


今はどうしても、まともに見られなかった。


「……ふふっ」


月姫は恥ずかしそうに笑った。


しばらくして、二人は昨日の話を始めた。


「そういえば――」


月姫がふと思い出したように口を開く。


「昨日、あっくんのことも話題になってたよ」


「俺が?」


晃星が不思議そうに月姫を見る。


「うん」


「なんで?」


「伊織とパフェ食べてたところ、同級生に見られてたらしいよ」


「ああ、そうなんだ」


晃星は特に気にした様子もなく答える。


「へぇ」


月姫は少し笑う。


そして――


「ねえ、あっくん」


「ん?」


「伊織に、あーんとかしてたんじゃない?」


「え?」


晃星は一瞬きょとんとしてから、笑った。


「いや、絶対してないでしょ」


「ふふっ、そうだよね」


「そんなことするわけないじゃん」


「伊織も、してないって言ってたし」


「ほらな」


晃星は何でもないように答える。


月姫は、そんな晃星を見ながら、さっきのことを思い出した。


――伊織には、してない。


それなら。


今日、あっくんが自分にしてくれた「あーん」は。


「……」


月姫の頬が、少しだけ緩む。


――私には、してくれたんだ。


そう思うと、なんだか嬉しかった。


「……ふふっ」


「ん? どうした?」


「ううん、なんでもない」


月姫は、嬉しそうに笑った。


ふと、晃星が時計を見る。


「……あ」


「どうしたの?」


月姫が尋ねる。


「ごめん!」


晃星が申し訳なさそうに笑った。


「楽しくて、月姫が同窓会中なの忘れてた」


「……」


「そろそろ行かないと、せっかくの同窓会なのに楽しめなくなっちゃうよな」


晃星はそう言って、月姫を見る。


「まだ始まってそんなに経ってないんだろ?」


「……うん」


月姫は小さく頷いた。


分かっている。


あっくんが言っていることは、その通りだ。


それなのに――


「……」


月姫の胸には、複雑な気持ちが残った。


「おばちゃん、ありがとう! お勘定お願い!」


晃星が声をかける。


「あいよ!」


おばちゃんがレジへ向かう。


そして月姫を見ると、にっこり笑った。


「あっきーの彼女も見れたし、彼女かわいいから、今日はサービスでいいよ」


「えっ、いいの!?」


晃星が驚く。


「いいのいいの。いつも来てくれてるしね」


「マジ!? ありがとう、おばちゃん!」


「こちらこそ。今度はお母さんも連れておいで」


「了解!」


月姫も頭を下げる。


「ありがとうございます」


二人はおばちゃんにお礼を言って、店を出た。

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