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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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眩しすぎて見れません

 球技大会の実行委員になって、数日。


 放課後の教室で、俺と天川さんは実行委員の仕事をしていた。


「これ、どこまでやるの?」


「知らない」


「桐生くん、実行委員なのに?」


「俺もなったばっかりだから」


「私もだけど」


「じゃあ仲間だな」


「うん」


 天川さんはプリントを眺めながら、首を傾げる。


 球技大会の日程。


 競技種目。


 クラスごとの参加人数。


 まだ決めることは多くないが、こういう細かい確認が意外と面倒くさい。


「……これ、先生に聞いたほうが早くない?」


「そうだな」


「じゃあ、私聞いてくる」


「頼む」


 天川さんが席を立った。


 そのとき。


「伊織ー」


 教室の入り口から、女子の声がした。


「あ、月姫」


 天川さんが振り返る。


 俺も何となくそちらを見る。


 そして――。


「…………」


 美空月姫。


 名前は知っている。


 入学してまだ数週間の俺でも、その名前は何度か聞いた。


 学年一の美少女。


 そんな噂まである女子だ。


 実際に見るのは、たぶん初めて。


 整った顔立ち。


 綺麗な髪。


 そして、制服の上からでも分かる抜群のスタイル。


「…………」


 ……これは。


 噂になるわ。


 というか。


 眩しい。


 俺は思わず視線を逸らした。


「伊織、何してるの?」


「実行委員の仕事」


「そっか」


 美空さんが教室に入ってくる。


「ちょっと話したくて」


「うん。どうしたの?」


「明日の放課後なんだけど――」


 二人が話し始める。


 俺は黙ってプリントに視線を落とした。


 ……。


 見ない。


 絶対に見ない。


 噂になるくらいの美少女を、こんな近距離で見る機会なんてそうそうない。


 だからこそ、余計なことはしない。


「伊織、こっちの人って……」


 美空さんが俺を見る。


「ああ、桐生くん。同じクラスだよ」


「あ、そうなんだ」


「うん」


「初めまして、桐生くん」


「……どうも」


 俺は顔を上げる。


 目が合った。


「…………」


 やっぱり無理だ。


 すぐに視線を戻す。


「桐生くん?」


「はい」


「こっち見ないの?」


「……」


 バレた。


 仕方なく、もう一度顔を上げる。


 目が合った。


「…………」


 やっぱり眩しい。


 俺はまた視線を逸らした。


「……?」


 美空さんが不思議そうに首を傾げる。


 すると。


「桐生くん」


「何?」


 天川さんが俺を見る。


「もしかして」


「……」


「月姫のこと、眩しくて見れない?」


「…………」


 なんで分かるんだ。


「え?」


 美空さん本人が驚いた顔をする。


「私、太陽じゃないよ?」


「知ってます」


「じゃあ、なんで?」


「……」


 答えたくない。


 でも黙っているのも変だ。


「……学年一の美少女って聞いてたから」


「え?」


「実際に見ると……」


「見ると?」


「……眩しい」


「ふふっ」


 美空さんが笑った。


 ……笑うんだ。


 しかも、笑った顔まで可愛い。


 駄目だ。


 余計に見れない。


「面白いね、桐生くん」


「……初対面でそういう評価なんですか」


「だって、眩しいから見れないって」


「言わないでください」


「なんで?」


「恥ずかしいので」


「ふふっ」


「……」


 完全に面白がられている。


「伊織」


「なに?」


「桐生くんって、いつもこんな感じ?」


「んー?」


 天川さんが俺を見る。


「どうだろう」


「どうだろうって」


「まだ知り合ってそんなに経ってないし」


「そっか」


「でも、優しいよ」


「……」


 突然こっちに話を振らないでほしい。


「優しい?」


「うん」


「へえ」


 美空さんが俺を見る。


 また目が合った。


 ……やっぱり眩しい。


 俺はすぐに視線を逸らす。


「ほんとだ」


「何がですか」


「伊織が言った通り」


「だから何が……」


「優しそう」


「……」


 よく分からない。


 そもそも、俺は自分を優しいと思ったことなんてない。


 ただ。


 困っている人がいたら、放っておけないだけだ。


「月姫、話ってそれ?」


「ううん。明日のこと」


「ああ」


 二人の会話が戻る。


 俺は再びプリントに目を落とした。


 どうやら、美空さんは天川さんに用事があって来ただけらしい。


 俺とは今日が初対面。


 当然だ。


「……」


 それでも。


 なんとなく気になって、二人の会話を聞いてしまう。


 どうやら二人は、かなり昔からの友達らしい。


「伊織、明日忘れないでね」


「忘れないよ」


「ほんと?」


「たぶん」


「たぶんって」


「大丈夫」


「ならいいけど」


 二人のやり取りを見ていると、妙に息が合っている。


 昔から一緒にいるんだろうな。


「……仲いいんですね」


 思わず口に出した。


「うん」


 美空さんが笑う。


「伊織とは昔からだから」


「へえ」


「桐生くんは?」


「何が?」


「昔からの友達とか」


「いるよ」


「そうなんだ」


「地元に」


「地元?」


「瑞穂市」


「あ、桐生くん瑞穂なんだ」


「そう」


 美空さんが頷く。


「じゃあ、電車で来てるんだ?」


「うん。二駅」


「へえ。思ったより近いね」


「そう?」


「うん」


「月姫、そろそろ行く?」


「あ、うん」


 天川さんに言われ、美空さんが立ち上がる。


「じゃあ、伊織。また明日」


「うん。またね」


 美空さんが教室の出口へ向かう。


 そして、俺の前で一度止まった。


「桐生くんも、またね」


「……はい」


「今度はちゃんとこっち見てね?」


「……」


 完全にからかわれている。


「努力します」


「ふふっ」


 美空さんは笑って、教室を出ていった。


「…………」


「桐生くん」


「何?」


「ずっと見送ってたね」


「見てない」


「見てたよ」


「……」


 俺はプリントに視線を戻す。


「……眩しすぎて見れません」


「それ、気に入ったの?」


「気に入ってない」


「ふふっ」


「天川さんまで笑わないで」


「だって面白いんだもん」


「……」


 天川さんが楽しそうに笑っている。


 俺はため息をついて、プリントを一枚めくった。


 美空月姫。


 学年一の美少女。


 今日初めて話しただけなのに。


 なんだか、妙に印象に残る人だった。

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