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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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落ち着かない心

———駅から歩いてすぐの場所にある、ビュッフェ形式の店。


今日は中学時代の同窓会だった。


店内には、すでに懐かしい顔が次々と集まっている。


「うわー、久しぶり!」


「めっちゃ久しぶりじゃん!」


「お前、全然変わってねぇな!」


卒業してから会っていなかった同級生たちが、再会を喜び合っている。


そんな中、月姫は店内を見回していた。


すると――


「あっ」


見慣れた姿が目に入る。


伊織だった。


「伊織!」


「月姫!」


伊織も月姫に気づいて、笑顔で手を振る。


月姫が伊織のところまで歩いていく。


「早かったね!」


「うん! 月姫もちゃん間に合ったね」


「そりゃそうだよ。同窓会なんだから」


「だよねー!」


二人で笑う。


一昨日も花火を見に行っていた。


だから、こうして顔を合わせること自体は何も久しぶりではない。


それでも、普段とは違う場所で会うせいか、少しだけ新鮮な感じがした。


月姫はふと、伊織の足元を見る。


「……そうだ。伊織、足大丈夫?」


「あ、もう大丈夫だよ!」


伊織が軽く足を動かす。


「昨日病院でも診てもらったし、ほとんど痛くない」


「本当に?」


「うん!」


「ならよかった」


月姫はホッとしたように笑う。


「でも、今日は無理しないでね」


「分かってるって!」


「伊織、すぐ無理するから」


「しないよー!」


そんな二人の会話を聞きつけたように――


「……あれ?」


後ろから声がした。


二人が振り返る。


「伊織じゃん!」


「えっ!」


伊織が目線を合わせる。


「久しぶり!」


「久しぶりー!」


そこにいたのは、中学時代の同級生だった。


「うわ、懐かしい!」


「高校一緒なんだっけ?」


「そうそう!」


「いいなー!」


そして、その同級生の視線が月姫へ向く。


「……あ、美空さん」


「美空さん、久しぶり!」


月姫は一瞬だけ表情を止める。


けれど、すぐに笑顔を作った。


「久しぶり」


「元気だった?」


「うん。元気だよ」


「よかったー!」


そこへ別の女子もやってくる。


「あ、美空さんいる!」


「ほんとだ! 美空さん、久しぶり!」


「久しぶり」


さらに男子も加わる。


「お、美空さんじゃん!」


「うわ、懐かしいな!」


「美空さん、相変わらず綺麗だな」


「ありがとう」


月姫は笑顔で答えていく。


一人。


また一人。


気づけば、伊織と月姫の周りには、懐かしい同級生たちが次々と集まっていた。


「伊織、今も美空さんと同じ高校なんだろ?」


「うん!」


「ずっと一緒じゃん」


「そうだよ!」


伊織が嬉しそうに答える。


その横で、月姫も笑っている。


けれど――


「美空さん」


「美空さん、こっち来てよ」


「美空さん、覚えてる?」


同級生たちから向けられる呼び方は、昔と変わらない。


「美空さん」。


そして、そんな輪の中で。


伊織だけが、いつも通りに呼ぶ。


「月姫!」


「……うん」


月姫は伊織を見て、小さく笑った。


――大丈夫。


伊織がいる。


それだけで、少しだけ心強かった。


———同窓会が始まった。


店内はすぐに賑やかになった。


久しぶりに会った同級生たちが、昔話に花を咲かせている。


「そういえばさ!」


その中の一人の男子が、伊織を見て声を上げた。


「昨日、伊織がデートしてるの見たぞ!」


「え!?」


伊織が勢いよく振り向く。


「ち、違うから!」


みるみるうちに顔が赤くなる。


「え、伊織がデート?」


隣にいた月姫も驚いて伊織を見る。


それは初耳だった。


「いや、絶対デートだったって!」


男子は楽しそうに続ける。


「男子と二人で仲良くしててさ」


「だから違うってば!」


「しかも、一つのパフェを二人で分け合って食べてたじゃん!」


「えぇ!?」


周囲から一斉に声が上がる。


「それはデートじゃん!」


「違う!!」


伊織は真っ赤になりながら必死に否定する。


「デートじゃないから!」


「じゃあ何だったんだよ?」


「昨日は……!」


伊織は恥ずかしそうにしながら、事情を説明する。


「あれは高校の同級生!」


「高校の?」


「うん!」


「でも二人でいたぞ?」


「だから! 一昨日、みんなで花火見に行った時に私、足を怪我したでしょ?」


月姫はその言葉に頷く。


もちろん知っている。


一昨日、一緒に花火を見ていたのだから。


「それで昨日、病院に行ったの」


伊織が続ける。


「その男子が私を病院に連れてってくれて……」


「へぇー」


「病院の帰りにパフェ食べたの?」


「そう!」


「一つのパフェを二人で?」


「一人じゃ多かったから!」


「それで分けて食べてたのか」


「そうだよ!」


伊織は顔を真っ赤にしたまま頷く。


「だからデートじゃないから!」


その話を聞きながら、月姫はふっと笑った。


「……あっくんだ」


「え?」


伊織が月姫を見る。


「その男子、あっくんでしょ?」


「……うん」


伊織が小さく頷く。


月姫にはすぐ分かった。


一昨日の花火で伊織が足を怪我した。


そして昨日、あっくんが伊織を病院へ連れて行った。


その帰りに二人でパフェを食べた。


「そっか。昨日あっくんと一緒だったんだ」


「うん……」


伊織はまだ恥ずかしそうにしている。


「でも、本当にデートじゃないからね!」


「分かってるって」


月姫は笑いながら答えた。


けれど――


周囲ではまだ、


「いやー、でも仲良すぎだろ!」


「一つのパフェってなかなかだぞ!」


「しかもお姫様どうぞ」って言われてなかった?


「え!?じゃあそれ伊織の王子様じゃん!」


目を輝かせる女子達。


「だから違うってばー!」


「……王子様じゃなくて、あれは侍だったし」


「「「どゆこと?」」」


全員が聞き返す。


「と、とにかく、そういうんじゃないから!!」


伊織の必死な声が響いていた。


そんな中だった。


「そういえば、美空さん」


一人の女子が月姫に声をかける。


「ん?」


「私の高校の男子で、美空さんに会ってみたいって子、いっぱいいるんだけどさ」


「……え?」


「今度、みんなで遊ばない?」


突然の誘いに、月姫の表情が止まった。


その女子の顔を見つめる。


――知っている。


この子は、中学時代に自分の陰口を叩いていた。


あの頃、自分を「お高く止まっている」と言い、勝手な噂を広めていた側の人間。


「……」


胸の奥が、ざわっとした。


けれど、周りにはたくさんの同級生がいる。


「……考えとくね」


月姫は笑顔を作って答えた。


「ほんと? じゃあまた連絡するね!」


「うん」


その会話が終わったと思った直後だった。


「美空さん、俺の友達にも会ってみたいって奴いるんだけど!」


「え?」


「今度みんなで遊びに行こうよ!」


「美空さん、私たちとも遊ぼうよ!」


「今度カラオケ行かない?」


「美空さん、連絡先交換しようよ!」


次々と声が飛んでくる。


「うん……」


「考えとくね」


「また今度ね」


笑顔で返していく月姫。


けれど――


心の中には、少しずつ雲がかかっていった。


まただ。


みんなが自分を見る。


自分の知らないところで、自分のことを話す。


勝手に期待される。


そして、自分がどう答えるのかを、みんなが見ている。


「……」


息が少しだけ苦しくなる。


昔の教室が頭に浮かんだ。


聞こえてくる陰口。


笑い声。


あの時の空気。


「……」


月姫はそっと胸元に手を当てた。


大丈夫。


今は違う。


ここは中学校じゃない。


今日は同窓会。


伊織もいる。


分かっている。


分かっているのに――


胸の奥が、落ち着かない。


「……あ」


月姫はふと立ち上がった。


「伊織」


「ん?」


「ごめん。私、忘れ物しちゃったみたい」


「え、忘れ物?」


「うん。ちょっと取りに行ってくるね」


「大丈夫?」


「大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから」


月姫は笑顔を作る。


「じゃあ、行ってくるね」


「うん! 気をつけてね!」


伊織に手を振って、月姫は店を出た。


扉が閉まる。


店内の賑やかな声が、少し遠くなった。


「……っ」


外に出た途端、月姫は小さく息を吐いた。


夜の空気を吸い込む。


「はぁ……」


もう一度、深く息を吸う。


「……すぅ……はぁ……」


呼吸を整えようとする。


けれど。


落ち着かない。


胸の奥がざわざわする。


「……なんで」


自分でも分からない。


ただ、嫌だった。


さっきまでの笑顔が、急に作り物のように感じられる。


「……」


月姫は俯いた。


――帰りたい。


そんな気持ちが、一瞬だけ頭をよぎる。


でも。


今日は伊織のためにも、ちゃんと楽しもうと思っていた。


あの日からずっと、自分の隣にいてくれた伊織。


今日だって、楽しそうにしている。


だから――。


「……」


月姫はスマホを取り出した。


誰に送るのか。


考えるより先に、指が動いていた。


メッセージ画面を開く。


そして――


一つの文章を打ち込む。


『一つ目のお願い聞いてくれる?』


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