まだまだ続く夏休み
花火が終わると、みんなでしばらく余韻を楽しんだあと、
「じゃあ、俺らホテル行くから」
ヒロキが言うと、あやちゃんが笑う。
「ほら、今からは私がちゃんと付き合ってあげないとね」
「ちょっと、あやちゃん! そういうの人前で言うなって!」
伊織と月姫が思わず顔を赤くする。
たかちゃんと雅人は、また始まったというように苦笑していた。
「じゃあね、伊織ちゃん、月姫ちゃん」
「う、うん……」
「またね、あやちゃん」
「またな! お疲れ〜」
「お疲れ〜」
ヒロキとあやちゃんは、ホテルへ向かって歩いていった。
「俺らもそろそろ行くか」
雅人が言う。
「俺も彼女迎えにいくわ」
たかちゃんも頷く。
「じゃあ、あっきー。また連絡するわ」
「はいよ」
「伊織ちゃん、月姫ちゃんもまたね」
「うん!」
「またね」
みんなそれぞれ手を振り、別々の道へ歩き出した。
その後、あっきーは伊織を見る。
「伊織ちゃん」
「ん?」
あっきーはその場でしゃがみ、背中を向けた。
「乗って」
「え?」
「足、痛いだろ」
「……でも」
「いいから」
伊織は少し恥ずかしそうにしながら、あっきーの背中に乗った。
「……ごめんね」
「いいって」
月姫も二人の隣を歩く。
「じゃあ、帰ろっか。あっくん」
「うん」
三人はそのままあっきーの家へ向かった。
————
「ただいまー」
あっきーが玄関を開ける。
「おかえり――」
母親が顔を出した瞬間、動きが止まった。
「……え?」
あっきーの背中にいる伊織を見て、目を丸くする。
「伊織ちゃん!?」
伊織も母親の顔を見る。
「ただいま……」
「えっ、伊織ちゃん……?」
「花火の帰りに、ちょっと足を痛めちゃって」
「大丈夫!? どこ痛いの?」
母親がすぐに伊織の足を心配する。
「少しだけです」
「ほんと?」
「はい」
母親は伊織の様子を確認すると、すぐに冷やす準備をする。
「ちょっと待ってね。冷やそう」
「ありがとうございます」
そして、母親はあっきーを見る。
「……あっきー」
「はい」
「なんで連絡しなかったの?」
「……ごめん」
「伊織ちゃんが怪我してるなら、ちゃんと言ってよ」
「うん……」
「心配するでしょ」
「……申し訳ない」
あっきーは素直に謝った。
「ほら、伊織ちゃん。こっち座って」
「はい」
月姫も隣に座る。
母親が伊織の足を手当てしている間、あっきーは台所へ向かった。
「俺、なんか作るわ」
「何作るの?」
月姫が聞く。
「にんにく炒飯」
「食べたい!」
伊織もすぐに反応する。
「私も!」
あっきーが冷蔵庫から材料を取り出す。
料理が得意なわけではない。
作れるのは、特製にんにく炒飯とカレーくらい。
「俺、これくらいしか作れないけど」
「でも、みんなからは好評なんでしょ?」
月姫が聞く。
「まあ、あいつらからはね」
あっきーはそう言って、炒飯を作り始めた。
その間、母親と伊織、月姫はテーブルを囲んで話していた。
やがて、にんにくの香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。
「……いい匂い」
伊織が台所を見る。
しばらくして、あっきーが二人の前に皿を置いた。
「はい。特製にんにく炒飯」
伊織はすぐに顔を上げる。
「……あっきー」
「ん?」
「これ、おかわりある?」
「まだ食べてないだろ」
「だって、おいしそうなんだもん!」
月姫がくすっと笑う。
「伊織、気が早い」
「お腹空いてるんだもん」
「はいはい。食べてからな」
「はーい!」
三人で「いただきます」と手を合わせる。
伊織と月姫は、初めて食べるにんにく炒飯を口に運んだ。
「……おいしい!」
伊織が目を輝かせる。
「うん、すごくおいしい!」
月姫も嬉しそうに頷いた。
二人は顔を見合わせると、改めて炒飯を味わうように、次々とスプーンを口へ運んでいく。
「にんにくの香りがちょうどいいね!」
「うん! 味もしっかりしてるのに、全然くどくない!」
「そんなに褒められると、なんか照れるな」
あっきーは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「これなら、おかわりしたい!」
伊織が勢いよく言う。
「だから、まだ食べ終わってないだろ」
「だって、本当においしいんだもん!」
月姫も笑いながら頷く。
「私もおかわりしたいな」
「まだあるから!とりあえず食べて」
あっきーがそう言うと、二人は嬉しそうに顔を見合わせた。
食事を終えても、三人はしばらくテーブルを囲んでいた。
「……おいしかった」
伊織が満足そうに笑う。
「ごちそうさま、あっきー」
「お粗末さまでした」
そこから三人は、まだ始まったばかりの夏休みに何をするか話し始めた。
「私は海!」
伊織がすぐに手を挙げる。
「私は、どこか遠くに遊びに行きたいかな」
月姫が続ける。
「俺はキャンプとかしたいな」
「それ楽しそう!」
伊織が目を輝かせる。
「じゃあ、海もキャンプも行こうよ」
「夏休みまだ始まったばっかりだしな」
「……あ、そういえば」
あっきーがふと思い出す。
「夏休みも、よろずやって依頼があれば行かなきゃダメだっけ?」
「うん。たぶんそうだと思う」
伊織が答える。
「じゃあ、依頼がない日に遊べばいいじゃん」
月姫が笑う。
「それもそうだな」
三人はまた笑った。
やがて時計を見ると、もう遅い時間になっていた。
「そろそろ帰ろうか」
母親が言う。
「はい」
伊織と月姫が立ち上がる。
「伊織ちゃん、足は大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、二人とも送ってくるね」
「ありがとうございます」
母親は二人を連れて玄関へ向かう。
「じゃあ、あっくん。またね」
月姫が振り返る。
「うん、またね」
伊織も笑う。
「今日はありがとう、あっきー」
「いやいや、こちらこそ!またね」
「うん!」
母親と伊織、月姫は玄関を出る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
あっきーは玄関先で三人を見送った。
夏休みは、まだ始まったばかり。その中の1日がようやく幕を閉じた———




