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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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二つでお願いします

 ———雅人が男たちを睨みつける。


「お前ら、俺の友達に謝れ」


 低い声だった。


「……は?」


「伊織ちゃんに謝れって言ってんだよ」


 たかちゃんも低い声で続ける。


「怪我までさせてんだから、当然だろ」


 男たちは互いに顔を見合わせる。


 やがて、先輩らしき男が渋々伊織の前に立った。


「……悪かった」


 伊織は男を見る。


 そして、ふっと微笑んだ。


 前にあっきーが言っていた言葉と同じだった。


 自分のために、ここまで怒ってくれる。


「……うん。もういいよ」


 雅人とたかちゃんは男たちを睨む。


「じゃあ、さっさと消えろ」


「二度と伊織ちゃんに近づくなよ」


 男たちは何も言わず、その場を離れていく。


 すると、近くにいた地元の友達が声をかけた。


「騒ぎが大きくなってきた。俺らが適当に誤魔化しとくから」


「わりぃな。頼むわ」


 雅人が頷く。


 晃星たちはその場を離れた。


 しばらく歩き、人混みから少し離れた場所へ向かう。


 そこは雅人たちが昔から知っている花火スポットだった。


「ここならゆっくり見れるだろ」


 たかちゃんが言う。


「うん」


 月姫が頷く。


 伊織はまだ痛む足を気にしながら腰を下ろす。


 月姫もその隣に座った。


 晃星は二人の近くに座ったものの、まだ俯いたままだった。


「……」


 伊織がちらりと晃星を見る。


 月姫も心配そうに見ている。


 その時だった。


「おー! いたいた!」


 人混みの向こうから、明るい声が響いた。


 一組の男女がこちらへ歩いてくる。


 前を歩く男は、目が大きく、明らかに整った顔立ちをしていた。


 晃星、雅人、たかちゃんとは昔からの地元仲間――ヒロキだった。


 その隣には、ヒロキの年上の美人彼女、あやちゃんがいる。


「向こう騒がしかったけど、なんかあった?」


 ヒロキが笑いながら近づいてくる。


 雅人とたかちゃんは顔を見合わせた。


「……君が今来たことにマジで神に感謝するわ」


「お前とあっきーのコンビだったら、と考えるだけで震えますわ」


「え? どゆこと?」


 ヒロキが首を傾げる。


 そして晃星を見る。


「あれ?」


「……ん?」


「あっきー、元気なくね?」


 晃星は苦笑する。


「まあ……ちょっとな」


「珍しいじゃん」


 たかちゃんが事情を説明する。


 伊織が迷子の女の子を運営本部へ連れていく途中、男たちに絡まれたこと。


 その際に足を痛めたこと。


 それを知った晃星が駆けつけ、一悶着になったこと。


 そして、そのことで晃星が責任を感じて落ち込んでいること。


 ヒロキは珍しく茶化さず、最後まで話を聞いた。


「なるほど」


 そして伊織と月姫を見る。


「二人とも、怖かった?」


 伊織は少し考えてから答える。


「……怖くなかったって言ったら、嘘になるかな」


 月姫も頷く。


「うん。でも、こんなことであっくんを嫌いになったりしないよ」


「私も」


 伊織も晃星を見る。


「こんなことであっきーを嫌いにならない」


 晃星は二人を見る。


 それでも、まだ申し訳なさそうだった。


 その様子を見ていたあやちゃんが、優しく口を開いた。


「あっきーくん」


「ん?」


「そんな顔してたら、伊織ちゃんと月姫ちゃんは今日の花火が楽しくない思い出になっちゃうよ?」


「……」


「あっきーくんがずっと自分を責めてたら、二人も『あの日、あっきーがずっと落ち込んでた』って覚えちゃうでしょ?」


 晃星が二人を見る。


「せっかく楽しみにして来たんだから、最後は楽しかったって思える日にしてあげた方がいいんじゃない?」


「……それは確かに」


 晃星が小さく頷く。


 それを見て、ヒロキも頷いた。


「だったらさ、せっかく二人ともあっきーの地元まで花火見に来たんだから、楽しませてあげないとダメじゃね?」


 晃星が顔を上げる。


「ずっとあっきーがしょんぼりしてる方が、二人にとって一番可哀想だろ」


「……」


 たかちゃんが呆れたように笑う。


「お前、バカなのにたまにこういう核心つくよな」


 雅人も続ける。


「バカのくせにな」


「それは分かってるけど……」


 晃星が苦笑する。


 あやちゃんが続ける。


「じゃあさ」


 伊織と月姫を見る。


「伊織ちゃんと月姫ちゃんのお願い、なーーーんでも一つ聞いてあげたら?」


「え?」


「それで今日のこと、気持ちに整理つければいいじゃん?」


 伊織と月姫が顔を見合わせる。


「それいい!」


 伊織が嬉しそうに笑う。


「うん、いいね!」


 月姫も頷く。


 晃星は二人を見る。


「……それで二人の気が済むなら」


 少し笑って、


「一つや二つのお願いくらい、なんでも聞くよ」


「「「「「二つでお願いします!!」」」」」


 全員の声が綺麗に揃った。


「……え?」


 晃星が固まる。


「今、二つって言ったよな?」


 たかちゃんが笑う。


「言った」


 雅人も頷く。


「聞いた」


 ヒロキも笑う。


「あやちゃんも聞いたよな?」


「もちろん」


 伊織は嬉しそうに笑う。


「じゃあ、二つね!」


 月姫も頷く。


「うん、二つ」


「……言っちゃってるね」


 晃星が苦笑する。


 ヒロキが腕を組んで考え始める。


「じゃあ俺はー……」


「お前のお願いじゃないからな」


「分かってるって」


 ヒロキはニヤニヤしながら指を立てる。


「一つ目は、あっきー特製のにんにく炒飯作ってもらってー」


「……にんにく炒飯?」


 伊織の目が輝いた。


「あっくん特製?」


 月姫も食いつく。


 晃星が二人を見る。


「食いつくとこおかしい」


「だって、あっきーの料理でしょ?」


 伊織が嬉しそうに聞く。


「私も食べてみたい」


 月姫も頷いた。


 晃星は少し笑う。


「それくらいお願いじゃなくても今日作るよ」


「本当!?」


 伊織の顔がぱっと明るくなる。


「うん。せっかく来てくれたんだし」


 月姫も嬉しそうに笑う。


「やった……」


「だから、それはお願い一つには数えなくていいかな」


 晃星が笑う。


「二人が本当にお願いしたいことに使いなよ」


「……あっくん、優しいね」


 月姫が嬉しそうに笑う。


「まあ、これくらいはね」


 ヒロキがその様子を見ながら、ニヤッとする。


「じゃあ二つ目は――」


 少し間を置いて、


「一日パシリしてもらって――」


「お前はねえ!」


 たかちゃんが即座にツッコんだ。


「えー! まだ最後まで言ってないじゃん!」


「お前、一番関係ねえから!!」


 雅人も笑う。


 ヒロキは不満そうに口を尖らせた。


「いいじゃん、一日くらい」


「お前のパシリとか絶対嫌!!」


「ちぇー」


 そんなやり取りに、伊織と月姫も笑った。


 晃星の表情も、いつの間にかすっかりいつものものに戻っていた。


 そして、夜空を見上げる。


 大きな花火が夜空いっぱいに広がった。


「うわぁ……!」


 月姫が目を輝かせる。


「綺麗……」


 伊織も花火を見上げる。


 雅人、たかちゃん、ヒロキ、あやちゃんも並んで夜空を眺めていた。


「やっぱ花火いいな」


 雅人が呟く。


「だな」


 たかちゃんも頷く。


 晃星は隣にいる二人を見る。


 伊織も月姫も、楽しそうに笑っている。


「……よかった」


 晃星が小さく呟く。


 伊織が振り返る。


「何が?」


「いや」


 晃星は笑った。


「二人が楽しそうで」


「……うん!楽しいよ!!えへへ」


 伊織も笑う。


 月姫も晃星を見る。


「あっくんも楽しそうだよ」


「そう?」


「うん」


 晃星は少し照れくさそうに笑った。


「……じゃあ、俺も楽しむかな」


「最初からそうしてよ」


 伊織が笑う。


「ごめんなさい」


 月姫も笑った。


 花火が次々と夜空に咲いていく。


 誰もが笑いながら、その夜の花火を楽しんでいた。


 さっきまでの出来事も、少しずつ遠いものになっていく。


 今年の夏。


 この花火大会は、きっと忘れられない一日になる。


 夜空では、何も知らない花火が、盛大に咲いていた。

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