花火前なのに盛り上がりすぎなんよ!
隣の市の花火大会当日の昼過ぎ。
晃星の家には、昔からの友達のたかちゃんが遊びに来ていた。
「今日、彼女は?」
晃星が聞くと、たかちゃんはスマホを見ながら答えた。
「女友達と花火行くって」
「お前と行かずに?」
「そう」
今日は大垣市の花火大会の日だった。
晃星たちの地元からなら、会場まで行かなくても花火は綺麗に見える。
しかも、花火を見る場所は会場から少し離れているため、出店目当ての人も少なく、混雑にも巻き込まれない。
「じゃあ俺ら、どうすんの?」
晃星が笑う。
「花火とかあっても、男二人でどうしろよって話だな」
「ほんとそれ」
たかちゃんも笑った。
その時。
晃星のスマホが鳴った。
画面を見る。
地元のもう1人の友人、雅人からだった。
『今からそっち行く』
「雅人も来るって」
「お、じゃあ三人になるな」
「男が一人増えたところで、何も変わらんけどな」
「言うな」
しばらくして。
雅人が晃星の家へやって来た。
「うぃー」
「遅ぇ」
「遅くねぇだろ」
「で、今日、彼女は?」
たかちゃんが聞く。
「まだ喧嘩中」
「花火の日に?」
「うるせぇ」
三人は笑いながら、近くのファーストフード店へ向かった。
⸻
「しかし、盛り上がらねえな」
雅人がポテトをつまみながら言った。
「花火の日に男三人でファーストフード」
「お前もその一人だろ」
「俺は彼女と喧嘩中だから仕方ねぇ」
雅人が言う。
「俺は彼女が女友達と花火」
たかちゃんも続けた。
二人が晃星を見る。
「あっきーは?」
「単純にヒマ」
「一番悲しいじゃん」
「うるせぇ」
三人で笑っていると。
――ブルッ。
晃星のスマホが震えた。
画面を見る。
伊織からだった。
「……」
名前だけ確認し。
「まあ、いいか」
内容は見ず、そのままスマホをしまった。
数分後。
再びスマホが震える。
今度は月姫だった。
『今日、大垣市の花火なんだよね?』
『そうだよ』
晃星は、そのまま返信した。
すると。
――プルルルル。
「ん?」
伊織から電話がかかってきた。
晃星が電話に出た瞬間。
『なんで私の連絡は無視して月姫には返してんの!?』
「え?」
『通知見たでしょ!?』
「見たけど、内容は見てない」
『同じこと!』
「そんな怒る?」
『怒るよ!!』
晃星は思わずスマホを少し耳から離した。
「誰?」
雅人が聞く。
「伊織ちゃん」
「へぇ、最近あっきーからよく聞く名前だ。」
雅人とたかちゃんが顔を見合わせる。
「……なんだよ」
晃星は二人を睨みながら電話を続けた。
『あっきー達の地元からだと綺麗に見えるし、会場から離れてて混雑しないって前言ってたから!』
「ああ」
『今、向かってるからね!』
「いや、俺、友達といるけど?」
『でも、あっきーママがみんなで遊んだらいいじゃんって言ってる』
「……は?」
晃星は一瞬黙った。
そして。
「もしかして母さんが迎えに行ったの?」
『そう!』
「やっぱりか……」
晃星は電話を切ると、大きく息を吐いた。
「どうした?」
たかちゃんが聞く。
晃星は二人に事情を説明した。
「伊織ちゃんと月姫が、ウチに来るらしい」
「へぇ」
「しかも母さんが、みんなで遊べばいいって勝手な事言ったみたいで」
一瞬。
雅人とたかちゃんが顔を見合わせる。
「行く」
雅人が言った。
「俺も」
たかちゃんも続く。
「いや、お前ら彼女いるだろ」
「聞けばいいじゃん」
「聞くわ」
二人はそれぞれ彼女に連絡を入れた。
そして。
「俺、大丈夫だって」
「俺も」
「早っ」
雅人が笑う。
「しかも彼女も、あっきーの女関係気になるらしい」
「余計なこと言うな」
「面白そうじゃん」
「お前ら……」
三人は店を出て、晃星の家へ戻った。
⸻
「ただいまー」
玄関を開ける。
「おじゃましまーす」
雅人とたかちゃんも、その後ろから入ってきた。
リビングへ向かった晃星は。
思わず足を止めた。
「……」
そこにいたのは。
浴衣姿の伊織と月姫だった。
伊織は、白地の浴衣。
淡い水色と紫色の朝顔が散りばめられた、涼しげで可愛らしい柄だった。
月姫は深い紺色。
白い金魚と流水模様が入った、落ち着いた雰囲気の浴衣。
二人が並んでいるだけで。
リビングの空気が、いつもとはまるで違って見えた。
「……どうしたの?」
伊織が首を傾げる。
「いや……」
晃星は二人を見たまま。
「似合ってるなぁと思って」
「……え?」
伊織と月姫が顔を見合わせる。
「めちゃくちゃ似合ってる」
伊織の顔が、みるみる赤くなった。
「そ、そう?」
「うん」
晃星は即答した。
「普通にびっくりした」
「びっくり?」
「いや……見慣れてないから」
「……っ」
伊織はさらに顔を赤くする。
月姫は嬉しそうに笑った。
「ふふっ。ありがとう、あっくん」
「いや、本当のことを言っただけ」
月姫が浴衣の袖を軽く広げる。
「どう?」
晃星は少しだけ困ったように笑った。
「……目を開けていられない」
「そんなに?」
「似合いすぎ」
「ふふっ」
月姫が楽しそうに笑う。
そして。
晃星は伊織を見る。
「伊織ちゃんも」
「え?」
「めちゃくちゃ似合ってる」
「……っ!」
「だから、そういうの急に言わないでよ……!」
「あー、つい口走っちゃって」
「おいおい」
雅人が笑う。
「あっきー、急にベタ褒めやんけ」
「うるせぇ」
たかちゃんも二人を見る。
「でもこれは確かにかわいいわ」
「そうでしょ!」
晃星の母が、すぐに言った。
「なんで母さんが自慢するんだよ」
「だってかわいいもん」
リビングに笑い声が広がった。
その後。
「おばさん」
雅人が晃星の母を見る。
「体、大丈夫なん?」
「無理してない?」
たかちゃんも続ける。
「あら、大丈夫よ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「無理しんよーに」
「そうそう。あっきーもちゃんと見とかんと」
「なんで俺が怒られんの?」
「息子だろ」
「まぁ、そうか」
そんな二人の様子を。
伊織と月姫は、静かに見ていた。
初めて会った自分たちがいる。
それでも二人は、まず晃星の母の体を心配していた。
その自然な様子に、伊織も月姫も好印象を抱く。
「ありがとね」
晃星の母が笑う。
「いや、そりゃ心配するって」
雅人が言った。
「昔から知ってるし」
「無理するタイプなのも知ってるから」
たかちゃんも続ける。
「余計なこと言うな」
「本当じゃん」
晃星の母が笑った。
「じゃあ、改めて」
雅人が伊織と月姫を見る。
「雅人」
「たかちゃん」
「よろしく」
「天川伊織です。よろしくね!」
伊織が笑う。
「美空月姫です。よろしくお願いします」
月姫も微笑んだ。
そして全員でリビングに腰を下ろした。
⸻
「そうだ」
雅人がスマホを取り出した。
「写真撮っていい?」
「写真?」
伊織が首を傾げる。
「彼女に送るから」
「なんで?」
「彼女も、あっきーの女関係気になるらしい」
「言い方!」
晃星がすぐに突っ込む。
伊織と月姫は顔を見合わせた。
「……いいよ」
「うん」
「私も入る?」
晃星の母が笑う。
「もちろん」
三人が並ぶ。
少し照れながらも、笑顔を作った。
――パシャ。
雅人はその写真を彼女へ送信する。
「確かにさ」
たかちゃんが改めて二人を見る。
「二人ともかわいすぎじゃね?」
「そうでしょ!」
晃星の母がなぜか自慢げに答える。
「だから、なんで母さんが自慢するんだよ」
すると。
――ブルッ。
雅人のスマホが鳴った。
「彼女?」
「ああ」
画面を見た雅人が笑う。
「ほら」
皆にスマホを見せる。
『この二人、織姫コンビじゃん!』
「織姫コンビ?」
たかちゃんが首を傾げた。
雅人は続きのメッセージを見る。
『伊織と月姫、塾が一緒だったから知ってるよ!』
『地元じゃ織姫コンビって呼ばれてるくらい、二人ともかわいいって有名だったみたい!』
「へぇ」
たかちゃんが二人を見る。
「そんな呼ばれ方してたんだ」
「恥ずかしいからやめてよ」
伊織が顔を赤くする。
月姫は少し困ったように笑った。
「でも本当に二人ともかわいいもんな」
「でしょ!」
またしても晃星の母が得意げに言う。
「だからなんでお前が自慢するんだよ」
リビングに笑いが広がった。
「私も月姫ちゃんとは今日初めて会ったけど」
晃星の母が月姫を見る。
「本当にかわいいねぇ」
「ありがとうございます」
「伊織ちゃんももちろんかわいいし!」
「えへへ」
すると。
晃星の母が雅人とたかちゃんを見る。
「だからって、二人に手を出しちゃダメよ?」
「「はい」」
二人は即答した。
「返事早っ」
「なんて言っても」
晃星の母が伊織を見る。
「伊織ちゃんはウチの嫁候補だから!」
「――っ!?」
伊織の顔が一瞬で真っ赤になった。
「ぶふぉっ!!」
「うわっ!?」
晃星が吹き出したお茶が、たかちゃんの顔に直撃する。
「なんで俺!?」
「ご、ごめん!」
「ビチャビチャなんですけど!!」
雅人が爆笑する。
「伊織ちゃん、めっちゃ動揺してるじゃん」
「してない!」
「いや、してるしてる」
「してないってば!」
伊織は真っ赤になったまま否定する。
その様子を。
月姫は笑って見ていた。
けれど。
ほんの少しだけ。
伊織を羨ましく思っていた。
――それに気づいたのは、雅人だけだった。
「じゃあさ」
雅人が月姫を見る。
「月姫ちゃんは嫁に立候補しないの?」
「え?」
晃星と伊織が同時に月姫を見る。
月姫は少し考えたあと。
「……しちゃおうかな」
「「「え?」」」
そして。
晃星を見る。
こてん、と首を傾げた。
「……あっくん、ダメ?」
晃星の動きが止まる。
「……」
月姫が、もう一度優しく首を傾げる。
「ダメ?」
「……いいかも!」
一瞬。
静かになる。
「「「いいかも!?」」」
「ぎゃはははは!!」
雅人とたかちゃんが大爆笑した。
晃星は顔を赤くしながら、二人を睨む。
「なんだよ!」
「即落ちじゃん!」
「即落ちしてねぇ!!」
伊織も呆れたように晃星を見る。
「月姫にはこんな感じなんだ」
「……何がだよ」
「私が嫁候補って言われたら、お茶吹いたのに」
「それは母さんが急に言うからだろ!」
「でも月姫が『あっくん、ダメ?』って言ったら」
伊織が晃星の真似をする。
「……いいかも!」
「ぎゃははは!」
「伊織ちゃんまでやるな!」
「確かにさぁ」
雅人が笑いながら言う。
「『あっくん』って優しく言われて、あの表情はやられるよな〜」
「首傾げて『ダメ?』は反則だろ」
たかちゃんも笑う。
「俺なら、はい、喜んで!案件」
「お前らまで何言ってんだよ!」
雅人が、今度は伊織を見る。
「じゃあ伊織ちゃんもやってみなよ」
「……は?」
「『あっくん、ダメ?』って」
「えぇ!?」
そこで初めて。
伊織の表情が、明らかに困り始めた。
「いや、無理無理無理!」
「なんで?」
「なんでって……!」
「月姫ちゃんはできたじゃん」
「月姫はあれが素だから!」
「どういう意味?」
「作ってあれはできない!!」
完全に困った伊織を見て、晃星の母が笑いながら近づいた。
「はいはい、やめてあげて」
そして伊織を抱きしめる。
「伊織ちゃん困ってるでしょ?」
「ママぁぁぁ……!」
伊織も晃星の母にギュッと抱きついた。
「助けて……!」
「はいはい」
晃星の母は伊織の背中を優しく撫でた。
そして。
「そんなの、二人だけの時にいつもやってるよねぇ」
「……」
伊織の動きが止まった。
「やってなぁぁぁぁい!!」
「ぎゃはははは!!」
リビングに響くみんなの笑い声。
———花火まではまだまだ長い。




