愛だよね!! 番外編 美空月姫
23エピソードを月姫視点の番外編として書いてみました。よければご覧ください
番外編
――美空月姫の、ちょっとした確信
……疲れた。
美空月姫は、廊下を歩きながら小さく息を吐いた。
今日だけで二人。
正確には、二人に告白された。
別に悪い人たちではない。
だからこそ、適当にあしらうのも少し気が引ける。
ちゃんと断って。
また別の人に呼び止められて。
断って。
「……はぁ」
そして月姫は、ある部屋の前で足を止めた。
学園よろずやの部室。
中から聞こえる声に、少しだけ口元が緩む。
伊織の声。
美咲ちゃんの声。
そして――桐生くん。
ここなら。
少しくらい、ゆっくりできるかもしれない。
月姫は扉を開けた。
ガラッ。
「……はぁ」
三人がこちらを見る。
「どうした?」
真っ先に声をかけてくれたのは、桐生くんだった。
月姫は少し笑う。
「……また捕まった」
「あー、告白?」
「うん」
「今日だけで?」
「二人」
「二人!?」
桐生くんが驚いた。
そんなに驚くことかな。
月姫は少しだけ思う。
でも。
桐生くんは、いつもこんな反応をする。
変に気を遣うわけでもない。
かといって、他人事のように流すわけでもない。
ただ普通に心配してくれる。
だから。
この部室に来ると、少し落ち着く。
「ここなら落ち着けるかなって」
「まあ、ここなら静かだしな」
「うん」
月姫は空いている椅子に座った。
……。
静か。
この三人がいるのに。
月姫は少しだけ笑った。
その後。
伊織も、同じクラスの男子に告白されたという話になった。
「聞いてないぞ」
「言ってないから」
そんなやり取りのあと。
桐生くんが一瞬、伊織を見た。
……。
月姫は何となく、その表情を見ていた。
いつも一緒にいるからなのか。
普段は、あまり意識していないように見える。
けれど。
今は。
少しだけ違った。
伊織はすぐに気づいた。
「何?」
「え?」
「今、なんか思ったでしょ」
「思ってない」
「ふーん?」
伊織の口元が少しだけ緩む。
桐生くんは分かりやすい。
そして。
伊織も。
月姫はそんな二人を見て、少しだけ笑った。
夏休みの話になった。
美咲ちゃんはバレー部。
大会もあるらしい。
「みんな、大会見に来てよ!」
美咲ちゃんが笑う。
月姫はもちろん頷いた。
「うん、行きたい」
伊織も行くと言って。
次に、桐生くんへ話が向く。
「じゃあ、あっきーは?」
「俺?」
「うん」
桐生くんは地元の友達と遊ぶらしい。
でも。
友達の話をあまりしないから、伊織たちは少し意外だったようだ。
「いるわ」
「だって、あっきーから友達の話とか聞かないじゃん」
「わざわざ言わないだけだろ」
写真まで見せることになった。
写っていた男の子たちは、確かにみんなかっこよかった。
少しだけ悪そうにも見えたけれど。
桐生くんが楽しそうに話しているのを見ると、仲のいい友達なんだろうと思う。
ただ。
夏休みになれば、全員が集まれるわけではないらしい。
昔から彼女がいる人もいる。
最近、彼女ができた人もいる。
だから。
暇な人同士で連絡を取り合って遊ぶ。
「なるほどね」
伊織が頷く。
そして。
少し楽しそうな顔をした。
「じゃあさ」
「何だよ」
「夏休み、あっきーだけ彼女できなかったりして」
「は?」
月姫は思わず笑いそうになった。
伊織は楽しそう。
桐生くんは必死に否定している。
「俺だって別に、彼女いないわけじゃ――」
「……」
「……いや、いないけど」
「ほら!」
「うるさい!」
伊織が笑う。
美咲ちゃんも笑う。
桐生くんは、どんどんムキになっていく。
月姫はそんな三人を見ながら思った。
……楽しそう。
「もし本当に暇になったら?」
「……家でゲームでもしてる」
「寂しい」
「余計なお世話だ」
その時だった。
月姫は、何となく思った。
だったら。
「……そうなったら」
三人がこちらを見る。
「私と遊ぼうよ!」
「……え?」
一瞬。
部室の空気が止まった。
月姫は首を傾げる。
暇な人が。
暇な人と遊ぶ。
それだけだと思った。
けれど。
桐生くんは少し困った顔をした。
「またお弁当の時みたいに変な噂立ったら、月姫が大変になるだろ」
月姫は少しだけ目を丸くした。
自分のことを心配してくれている。
「そうそう!」
伊織もすぐに頷いた。
「二人で遊んでるところなんて見られたら、また変なこと言われるかもしれないじゃん」
「うーん……」
確かに。
それはあるかもしれない。
月姫は少し考えた。
でも。
だったら。
答えは簡単だと思った。
「じゃあ」
三人を見る。
「付き合ってまーすって言えばいいんじゃない?」
「ダメダメダメダメ!」
伊織が、ものすごい勢いで否定した。
「え?」
月姫は目を丸くする。
「え? じゃない!」
「でも」
月姫は首を傾げた。
「付き合ってるって言えば、変な噂じゃなくなるでしょ?」
「ならない!」
「……そう?」
「そうだよ!」
伊織が必死に言う。
月姫は少し考えた。
確かに。
伊織がそこまで言うなら、何か自分が考えていない問題があるのかもしれない。
「うーん……」
でも。
桐生くん自身は、どう思っているんだろう。
月姫は自然に、桐生くんの方を見た。
「……ダメ?」
ほんの少し。
首を傾げる。
それだけだった。
別に。
伊織をからかうつもりなんてない。
ただ。
桐生くんが嫌なら、それでいいと思っただけ。
「……」
桐生くんが固まる。
月姫は待つ。
そして。
「……いいよ!」
「「は!?」」
伊織と美咲ちゃんの声が重なった。
月姫も、一瞬目を丸くした。
……。
いいんだ!思っていたより。
返事が早かった。
すると桐生くんは、すぐに我に返る。
「いや、違う違う違う!」
月姫は思わず笑った。
さっきまで真剣に返事を待っていたのに。
桐生くん自身が、一番慌てている。
……やっぱり。
面白い人。
「もうこれは魔法でしかない!」
月姫は少し首を傾げた。
魔法?
違うと思う。
これはきっと、
「魔法じゃないよ!」
月姫は微笑む。
「愛だよね! あっくん!」
「ね!!」
「「は!?」」
……。
月姫は少しだけ目を丸くした。
今。
自分で思いついた呼び方だった。
でも。
なんだかしっくりくる。
伊織と美咲ちゃんは驚いている。
けれど。
月姫はもう決めた。
これから。
桐生くんは――。
あっくん。
⸻
「ちょっと待って」
伊織が言う。
「何?」
「あっくんって何?」
月姫は当然のように答えた。
「二人とも、桐生くんの呼び方独特だし」
伊織は、あっきー。
美咲ちゃんは、きりゅちゃん。
だったら。
「私だけの言い方にしたんだよ!」
あっくんを見る。
「ね、あっくん?」
「ね!!」
……。
ふふ。
あっくんは、自分でも何を言っているのか分かっていない。
でもちゃんと答えてくれる。
だから月姫は、もう一つだけ言ってみた。
「私のことも、月姫って名前で呼んでね!」
あっくんが困ったような顔をする。
だから。
「……嫌?」
「全然嫌じゃないよ、月姫!」
「早っ!?」
伊織が叫んだ。
月姫は思わず笑ってしまった。
また即答!
そして、月姫は、もう一度あっくんを見る。
「愛だよね?」
「ね!」
ゴンッ!!
「いっっってぇぇぇ!!」
伊織の拳が落ちた。
あっくんが床でのたうち回っている。
月姫は思わず笑った。
でも。
次の瞬間。
伊織があっくんの前にしゃがみ込む。
そして。
首を傾げた。
「……これも愛だよね?」
……あ。
月姫は思った。
これは。
ちょっと危ない。
あっくんは伊織を見上げた。
そして。
「……あ」
「……?」
「……し」
伊織が首を傾げる。
「……白」
「…………」
……。
ああ。
見えちゃったんだ。
伊織の顔が、みるみる真っ赤になる。
「……あっきー」
「はい」
「今……何を見たの?」
あっくんは視線を逸らした。
伊織は、あっくんを引きずり起こす。
そして。
拳を握る。
……。
でも。
伊織の拳が止まった。
月姫には、何となく理由が分かった。
以前。
月姫が言ったことを思い出したんだ。
――パンツ見られたくらいで殴っちゃ嫌われるよ。
伊織は、しばらく固まっていた。
その様子を見たあっくんが、何かを思いついた。
「伊織ちゃん」
「何よ……」
「落ち着いて!」
「……?」
「愛だよね?」
……。
月姫は思わず笑ってしまった。
あ。
それはダメ。
それは。
絶対にダメ。
伊織の拳が持ち上がる。
「……違う」
「え?」
「これは――」
伊織が、真っ赤な顔のまま叫ぶ。
「愛じゃなぁぁぁい!!」
ズドンッ!!
「ぐえぇぇぇ!!!!」
黄金の右。
あっくんが吹き飛んだ。
月姫は倒れたあっくんを見る。
伊織は怒っている。
美咲ちゃんは呆れている。
そして。
月姫は思った。
……愛って。
難しい。
「愛って、難しいね」
「だから違う!!」
部室に伊織の声が響いた。
月姫は、少しだけ笑った。
⸻
その後。
月姫は美咲ちゃんと一緒に部室を出た。
扉を閉める前。
少しだけ振り返る。
床に倒れているあっくん。
そして。
そのすぐ近くにいる伊織。
……。
「月姫ちゃん?」
「ううん」
月姫は笑った。
「何でもない」
多分。
あの二人は。
まだ分かっていない。
いつも一緒にいて。
いつも言い合って。
いつも騒がしくて。
でも。
きっと。
誰よりも自然に、お互いの隣にいる。
月姫は小さく笑った。
「……これからも、楽しそうだな」
そして。
美咲ちゃんと並んで、夕方の廊下を歩いていった。




