お弁当作るよ!
昼休み。
桐生と伊織は、いつもの場所で昼食を取っていた。
桐生の前にあるのは、コンビニで買ったおにぎりやパンだった。
「あれ?」
伊織が桐生の手元を見る。
「桐生くん、今日お弁当じゃないんだ?」
「ああ」
桐生はコンビニの袋からおにぎりを取り出した。
「母親が入院したから」
「え……?」
「いつも弁当を作ってもらってたからさ。しばらくは、こういうので済ませることになりそう」
桐生はおにぎりの包装を開けながら、いつもと変わらない調子で続けた。
「まあ、数年前からちょくちょくあることだから。慣れてるし」
伊織は何か言いかけた。
その時だった。
「いた」
二人が顔を上げる。
「あ」
伊織が目を丸くする。
「月姫?」
こちらへ歩いてくる女子生徒。
美空月姫だった。
「どうしたの?」
伊織が尋ねると、月姫は桐生を見る。
「昨日のこと、ちょっと気になって」
昨日、桐生からゲームの時間に間に合わないとメッセージが来た。
母親が入院したから、今日は無理そうだと。
そのことが気になって、月姫は様子を見に来たのだった。
「大丈夫?」
「ああ」
桐生は軽く頷く。
「大丈夫だよ」
月姫は少し安心したように笑った。
そして、桐生の手元に視線を落とす。
「……それ、お昼?」
「うん。コンビニで買ってきた」
「そっか」
月姫は少しだけ考えるように黙った。
それから、桐生を見る。
「じゃあ、私が作ってくるよ」
「え?」
桐生が目を瞬かせる。
「ま、待って!」
その直後。
伊織が勢いよく身を乗り出した。
「私が作るよ!」
「え?」
月姫が伊織を見る。
「私、毎日自分のお弁当作ってるし! 一個増えるくらい全然大丈夫!」
「いや、天川さんまでそこまでしなくても」
桐生が慌てて言う。
「大丈夫だって!」
伊織は胸を張った。
「でも」
月姫が桐生を見る。
「私も作るって言ったのに」
「う……」
伊織の勢いが少し止まる。
桐生は二人を見比べた。
「二人とも、気持ちはありがたいけど」
「コンビニで済ませられるし、本当にそこまで――」
「だめ!」
伊織が即答する。
「え?」
「桐生くん、毎日コンビニじゃ栄養偏るでしょ!」
「別に毎日になるかは――」
「なる!」
「……」
「夜ご飯だって、そういうので済ませることになるんだから!」
桐生が黙る。
月姫も、伊織の勢いに少し目を丸くしていた。
「それに」
伊織は月姫を見る。
「月姫も作りたいんでしょ?」
「うん」
「私も作る!」
伊織は少しだけ考える。
そして何かを思いついたように、ぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、日替わりにしよう!」
「日替わり?」
桐生が聞き返す。
「うん!」
伊織は胸を張った。
「私と月姫で、一日ずつ!」
月姫が少し考える。
「……なるほど」
「それなら二人とも作れるでしょ?」
「うん。いいと思う」
「でしょ!」
すると月姫は桐生を見る。
「じゃあ、明日は私が作ってくるね」
「え?」
「その次の日は伊織で」
「うん!」
伊織が勢いよく頷く。
「いや、ちょっと待って」
桐生が慌てて口を挟んだ。
「二人とも、そんな簡単に決めなくても」
「いいの!」
伊織が即答する。
月姫も頷いた。
「うん」
桐生は二人を見る。
まるで、もう決定事項のようだった。
「……本当にいいの?」
「いい!」
「いいよ」
二人の返事が重なる。
桐生は少し黙って。
それから、困ったように笑った。
「……じゃあ」
「お願いします」
「よし!」
伊織が小さく拳を握る。
月姫も満足そうに笑った。
*
翌日。
昼休み。
「お待たせ」
いつもの場所に、月姫がやって来た。
その両手には、お弁当箱が二つ。
「月姫!」
伊織が手を振る。
月姫は二人のところまで来ると、そのまま片方のお弁当箱を桐生の前へ差し出した。
「はい。桐生くんの」
桐生はお弁当箱を見てから、月姫を見る。
「ありがとう、美空さん」
「うん」
月姫はもう一つのお弁当箱を自分の前に置き、伊織の隣に座った。
「見てもいい?」
伊織が桐生のお弁当を見ながら言う。
「まだ食べてないのに?」
「気になるんだもん」
月姫が少し笑う。
「いいよ」
桐生がお弁当箱の蓋を開ける。
「おお」
伊織が身を乗り出した。
「美味しそう!」
「普通のお弁当だよ」
「普通じゃないよ。ちゃんとしてる」
月姫が首を傾げる。
「伊織のお弁当だってちゃんとしてるじゃん」
「そ、それはそうだけど!」
桐生も弁当を見る。
ご飯に、いくつかのおかず。
きれいに詰められた、手作りのお弁当だった。
「じゃあ、食べよっか」
「うん!」
伊織も自分の昼食を広げる。
「いただきます」
三人の声が重なった。
桐生は、月姫が作ったおかずを一口食べる。
「……美味しい」
「ほんと?」
「うん」
「よかった」
その様子を見ていた伊織が、にやっと笑った。
「桐生くん」
「ん?」
「こんな美人二人から、日替わりでお弁当作ってもらえるなんて」
伊織はわざとらしく少し間を置く。
「幸せ者だね〜」
「……」
桐生が伊織を見る。
「自分で言うんだ、それ」
「いいじゃん。事実でしょ?」
桐生は少しだけ考える。
それから月姫を見る。
そして伊織を見る。
「……間違いないです」
「え?」
伊織が目を丸くする。
「素直!」
「素直に言わないと怒るでしょ」
「それはそう!」
月姫がくすっと笑った。
三人で囲む昼休みは、昨日までとは少し違う。
けれど。
思っていた以上に、楽しい時間になった。




