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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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子供の言うことですから

 買い物を続けていた三人は、ショッピングモールの中を歩いていた。


「悠馬、次どこ見る?」


 晃星が声をかける。


「んー……」


 悠馬が辺りを見回した、その時だった。


「パパ、こっち!」


「待て待て、走るなよ」


「ママ、これ見て!」


「はいはい」


 少し先から、楽しそうな家族の声が聞こえてくる。


 小さな男の子が、父親と母親の間を嬉しそうに行ったり来たりしていた。


「…………」


 悠馬の足が止まった。


「悠馬くん?」


 奈緒が振り返る。


「……ううん」


 そう答えたものの、悠馬の視線はその家族から離れない。


 父親と母親に挟まれて、楽しそうに笑っている男の子。


 悠馬は買ったばかりのプレゼントの袋を、ぎゅっと握った。


「……お父さん、早く帰ってこないかな」


 小さな声だった。


 奈緒はすぐに悠馬の前にしゃがむ。


「……寂しくなった?」


「……ちょっと」


 悠馬が俯く。


 奈緒は何も言わず、そっと悠馬を抱きしめた。


「……奈緒ちゃん?」


「大丈夫だよ」


 奈緒は優しく悠馬の背中を撫でる。


「今日は悠馬くんと一緒にいられて、奈緒は嬉しいよ」


「……うん」


「プレゼントも一緒に選べたしね」


「うん」


「お父さん、きっと喜んでくれるよ」


 悠馬はしばらく黙っていたが、やがて奈緒の服を握っていた手を少し緩めた。


「……奈緒ちゃん」


「ん?」


「もうちょっと一緒にいてくれる?」


「もちろん」


 奈緒が笑う。


 その様子を見ていた晃星が、明るい声で言った。


「じゃあさ」


 悠馬が顔を上げる。


「まだ一緒にいられる時間あるだろ?」


「うん」


「だったら、もっと遊んで帰ろう!」


「遊んでいいの?」


「もちろん」


「何する?」


「ゲームセンターでも行く?」


「行きたい!」


「じゃあ決まり」


「奈緒ちゃんも!」


「もちろんだよ」


「やった!」


 悠馬の顔に、ようやく笑顔が戻った。


⸻


 三人はそのままゲームセンターへ向かった。


「晃星、そこ!」


「分かってるって」


「違う、そっち!」


「え、こっち?」


「あー!」


「ごめん(笑)」


「もう一回!」


「はいはい」


 すっかり元気を取り戻した悠馬は、晃星とゲームに夢中になっていた。


 奈緒も二人を見ながら笑っている。


「二人とも楽しそう」


「神崎先輩もやります?」


「私も?」


 立ち上がり、神崎先輩にゲームを譲る。


「悠馬、神崎先輩に教えてあげて」


「任せて!」


「え、私が教えてもらうの?」


「そう!」


「じゃあお願いします、悠馬先生」


「ここ!」


「ここ?」


「そう!」


「こう?」


「上手!」


「ほんと?」


「うん!」


 奈緒が嬉しそうに笑う。


 晃星もつられて笑った。


「悠馬、完全に先生じゃん」


「晃星より上手いよ!」


「え!?嘘でしょ?」


「本当だもん!」


「じゃあ勝負するか」


「する!」


 三人の笑い声が、ゲームセンターに響いた。


⸻


 夕方。


 駅前。


「今日は楽しかった?」


 奈緒が悠馬に尋ねる。


「うん!」


「よかった」


「プレゼントも買えたし!」


「お父さん、喜んでくれるといいね」


「うん!」


 そこへ美穂が駆けてくる。


「悠馬ー!」


「お姉ちゃん!」


「奈緒、晃星、本当にありがと!」


「ううん。私も楽しかったよ」


「俺も」


「悠馬、どうだった?」


「すっごく楽しかった!」


「よかったじゃん!」


 美穂が笑う。


 その時、晃星が何かを思い出した。


「あ、そうだ。悠馬」


「なに?」


 俺はポケットから小さなカプセルを取り出す。


「これ」


「……え?」


 悠馬の目が輝く。


「これ、僕の好きなキャラクター!」


「今日見つけたんだ。悠馬が好きって言ってたから」


「いいの!?」


「うん。あげる」


「ありがとう!」


 悠馬はカプセルを大事そうに両手で握った。


「晃星、大好き!」


「お、おう(笑)」


 奈緒が思わず笑う。


「よかったね、悠馬くん」


「うん!」


 美穂が悠馬の手を握る。


「じゃあ、帰ろっか」


「うん!」


 二人が歩き出す。


 少し離れたところで、悠馬が振り返った。


「お姉ちゃん!」


「ん?」


「奈緒ちゃんと晃星、ラブラブなんだよ!」


「え!? そうなの?」


 美穂が驚いた顔をする。


「うん! さっき手繋いでた!」


「へぇー!」


 美穂は楽しそうに笑う。


「奈緒、やるじゃん!」


「お姉ちゃん、知らなかったの?」


「うん、知らなかった!」


「ラブラブなんだよ!」


「そっかそっか!」


 二人はそのまま楽しそうに話しながら帰っていく。


「今日、何したの?」


「ゲーム!」


「誰と?」


「奈緒ちゃんと晃星!」


「へぇー!」


「あとね、晃星がガチャガチャくれた!」


「優しいじゃん!」


「うん!」


 二人の声が、少しずつ遠ざかっていく。


 残された奈緒と晃星は、顔を見合わせた。


「…………」


「…………」


 二人とも少し顔が赤い。


「……悠馬くん、最後まで元気だったね」


「そうですね(笑)」


「でも、元気になってくれてよかった」


「はい」


 奈緒が小さく笑う。


「じゃあ、私たちも帰ろうか」


「はい」


⸻

駅へ向かう道。


 悠馬が一緒だった時とは違い、二人きりになると妙に静かだった。


「……今日はありがとう、晃星くん」


「俺も楽しかったですよ」


「悠馬くんと?」


「それもですけど……」


 晃星が少しだけ間を置く。


「神崎先輩と一緒に買い物するのも、楽しかったです」


「……そっか」


 奈緒が少し嬉しそうに笑う。


「私も楽しかった」


 二人は並んで歩く。


 晃星はふと、今日一日のことを思い返した。


 悠馬を優しく抱きしめていた神崎先輩。


 ゲームに夢中になって笑っていた神崎先輩。


 悠馬と一緒になって楽しそうにはしゃいでいた神崎先輩。


 そして、自分の名前を呼んで少し照れていた神崎先輩。


(……今日は、色んな神崎先輩見れた気がするな)


 そう思うと、晃星の胸が少しだけドキッとした。


(……まあ、悪くないか)


 そんなことを考えていると、隣から奈緒の声がした。


「……どうしたの?」


「え?」


「なんか考え事してた?」


「いや、別に」


「そう?」


「はい」


 晃星は少し笑う。


「ただ、今日は楽しかったなって」


「……うん」


 奈緒も笑った。


 そして今度は、奈緒が今日一日の晃星を思い返していた。


 悠馬と楽しそうに遊んでいた姿。


 寂しそうな悠馬に気づいて、自然に声をかけてくれたこと。


 「まだ一緒にいられる時間あるから」と、悠馬を笑顔にしてくれたこと。


 最後には、悠馬の好きなキャラクターのガチャガチャまで用意してくれたこと。


(……晃星くんってやっぱり優しいな)


 そう思った瞬間、奈緒の胸も少しだけ高鳴った。


(……今日、ちょっとだけ晃星くんのこと、意識しちゃってるかも)


 けれど、奈緒はそれ以上考えずに前を向いた。


 隣を見ると、晃星もこちらを見ていた。


「あ……」


「……」


 一瞬、目が合う。


 二人とも、少し照れくさそうに視線を逸らした。


「……なんか今日、変だね」


 奈緒が小さく笑う。


「ですね(笑)」


「悠馬くんのせいかな」


「たぶん」


「ラブラブとか言われたから?」


「それもあるかもしれないですね」


 晃星も笑う。


「でも……」


「ん?」


「今日、神崎先輩と一緒にいられてよかったです」


「……私も」


 二人はまた前を向く。


 まだ、それが恋なのかは分からない。


 ただ今日一日を一緒に過ごしたことで、昨日までとは少しだけ違う感覚が残っていた。


 二人はそのまま、少しだけ相手を意識しながら並んで帰っていった。

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